(モノローグ間)

 やっと出番が戻ってきたよ。

 このままずっと一ノ瀬さんや梅宮さんに語り手を持っていかれるかもと、内心ヒヤヒヤしてたところだ。


 さて、一ノ瀬さんの部署への“抜き打ち職場巡視”の後の話。

 俺たちは同じように実質上の超過勤務時間が多い部署への巡視をどんどんと進めることにした。

 だけど、目に見える効果を出すことができたのは一ノ瀬さんの部署だけだった。

 他の部署は、“抜き打ち”であるにもかかわらず、巡視が来ることを知っていて、いつも残業をする社員がその日だけは早く帰ったり、会社のパソコンではなくプライベートのパソコンを使って仕事をするようになってしまっていたんだ。


 労働組合は社員の味方だ。

 でも、残業を厳しく取り締まることに対しては、反発する社員が予想以上に多かった。

 そこにはいろんな問題が絡んでいた。

 いわゆる生活残業と呼ばれる、残業代のために残業をする社員。

 残業代は要らないからとにかく自分の仕事を終わらせたい、というワーカホリック的な社員。

 他の人には仕事を任せられないから自分でやるしかないと思い込み、仕事を抱える社員。


 一ノ瀬さんが取り組んでいた、仕事を人から引きはがして、業務を共有し、効率化する、という地道なやり方が正しかった。

 時間がかかってもジョブローテーションを行い、少しずつ定時で帰る習慣を広めていく。その方法が正しいんじゃないかと気付いたのは、もう少し先になってのことだった。


 人事部と労働組合が一緒になって動くことを気に入らない社員も、俺が思う以上に多かった。

 それは特に、過去に組合活動を熱心に取り組んでいた年配の社員が多かったんだが、そういった人達から俺たちは陰でこう揶揄やゆされることも多くなった。


 “御用組合ごようくみあい”と。

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