その緩衝材として、組合が存在するんだろう

 経営協議会の翌日、二日酔いでグロッキーな一ノ瀬さんを尻目に、以前作った資料を見直す。

 中身は問題ないが、グラフが少し見辛かったので、A4で印刷したときに見やすいように改ページなどを入れて体裁を整える。退職金制度の比較シミュレーションと、部署ごとに分けて集計した残業時間のリストだ。

 その二つのデータを添付して、梅宮さんにメールで送る。

 文面にはなんて書けばいいだろうか。

 社外の人に送るように、かしこまるべきなんだろうか。

 いまいち距離感を掴みきれない。


 お似合いだの、上手くいくだの、昨日の一ノ瀬さんと屋代部長の言葉を思い出す。

 まるで小学生が囃し立てるような言い方に妙な懐かしさを感じながら、昼寝をしている一ノ瀬さんを横目にぼんやりと考えてみる。


 いろんな人が、いろんな事情を抱えながら、同じ会社で働く。

 そう、会社っていうのは、人の集まりなんだ。

 だからいろんな問題が起きて、場合によっては人が辞めていく。

 その緩衝材として、組合が存在するんだろう。


 梅宮さんは組合とのトラブルで前の会社を辞めざるをえなかった。

 実際、どういうことが起きたのかは当事者じゃなければわからない。

 あの人のことだから、何かキツい言い方をしたのかもしれない。

 でも、本気で仕事に取り組んでいることは、すぐにわかる。

 だから、そういう人の力になるために、組合は存在するんじゃないだろうか。

 少なくとも俺は、頑張ってる人達のために、頑張りたい。


 そんなことを思いながら、社内の人に対するような文面を作り、送信ボタンを押した。

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