<勇者Side02>勇者にはハーレムパーティが付き物だよね!

 ビュン!


 鋭い風切り音と共に、鋼の剣が俺の頭に向けて落ちてきた!


 いくら剣道やってたからって、真剣と向き合うなんて初めてだ。それも、こんな鋭い剣筋は試合じゃ見たことがない。硬直して動くこともできなかった俺の頭に、容赦なく鋼の剣が振り下ろされた。


 死ぬっ!!


 バキン!


 だが、そう思った瞬間に、俺の頭に振り下ろされた鋼の剣は派手な破壊音と共に折れ飛んだ。


「メガファイア!」


 その次の瞬間、呪文の声が聞こえ、直径二メートルはあろうかという巨大な炎の玉が俺目がけて飛んできた!


 避けられない!!


 バガァン!


 その炎の玉は俺を直撃し……そのまま消え去った。俺には火傷ひとつなく、「熱い」どころか「暖かい」とすら感じなかった。


 近衛騎士団長の剣と、宮廷魔術師長の魔法、それぞれの得意攻撃を喰らっても、俺は無傷だったんだ。


「『攻撃無効』の意味がおわかりになりましたか、勇者様?」


「ええ」


 宮廷魔術師長のマリリン・マリーンさん~可愛らしい名前だけど推定年齢六十歳超の品の良いおばあさんだ~の問いかけに、僕は頷いていた。


「だから、勇者様は防御を学ぶ必要はない。これから、攻撃方法の訓練だけをすればいい。勇者様は剣の訓練を受けているということだし、魔法の上達も早いそうだから、数日で魔王討伐の旅に出ることができるだろう」


「わかりました。よろしくお願いします」


 近衛騎士団長のランス・ロットさん~四十台の渋い中年オヤジだ~の説明に頷きながら、俺は予想以上の自分の反側チートさを改めて実感していた。


 ◆ ◆ ◆


「あたしの名前はミーア・キャット、十六歳、職業は密偵スカウトで、トラップを外したり情報収集するのが得意でぇっす。戦闘じゃ短剣で物陰から奇襲したり、短弓で支援しまぁす。ミーアって呼んでくださいねっ! よろしくお願いしまぁ~す♪」


「こちらこそ、よろしく頼むよ。俺のことも拓海って呼んでくれ。あと、あんまりかしこまらなくていいから」


「はいっ!」


 猫耳だっ!


 その女の子の快活そうな挨拶を受けながら、俺の心は高鳴っていた。だって、リアル猫耳だよ、猫耳!


 それに、明るい金髪のショートヘアに黄金色の大きな瞳の美少女が、丈の短い皮鎧からすらりと長いおみ足を披露してるんだから、それ見てドキドキしないなんて男じゃない!


 この世界の人類には、普通の人間以外にエルフ、ドワーフ、獣人がいて、彼女は猫族獣人とのことだ。なお、人類同士なら結婚はできるが、子供は両親の種族のどちらかになるのでハーフはいないらしい。


「これで全員です」


 先に挨拶を済ませていたエルフのエルアーラ・メインさんのクールな声で我に返る。緑髪緑眼にエルフっぽい長耳の、これまた美少女な魔術師だ。残念ながら、服装の方も魔術師っぽい裾の長いローブ姿なんだけどね。魔術師らしく、長い杖をたずさえている。そのほかに長弓と矢筒も背負っているので弓射手アーチャーも兼ねているのだろう。遠距離攻撃特化だね。よく見るとローブの上に弓用の胸当ても付けてる。


 まあ、全員と言っても、ほかに居るのはドワーフの神官戦士コニーファ・ブルースターさんだけだ。彼女も赤髪赤眼の美少女だよ。ラノベとかゲームのドワーフのイメージだと、小柄だけどがっしりしていて髭面という印象があったけど、この世界のドワーフは普通の人間と同じ姿でサイズが小さいだけみたいだ。なので、コニーさん~そう呼んで欲しいと言われた~も身長こそ百四十センチそこそこだけど、神官服に金属の胸当てや小手、すね当てを着込んだ姿からでもスタイルの良さは見て取れる。武器はごっつい戦槌ウォーハンマーだ。


 勇者、魔術師兼弓射手、神官戦士、密偵の四人パーティってことで、ゲームとかで知ってるイメージから考えてもバランスは悪くない。人数は少ないけど、何しろ俺が不死身で事実上無敵なんだから、これで充分なんだろう。


 なにより、全員美少女ってのが凄くイイ! 全員十六歳と俺よりひとつ年下。ハーレムパーティじゃん!!


 ……まあ、俺は魔王を倒したら元の世界に帰るんだから、せっかくの美少女たちでも、あまり仲良くならない方がいいのかもしれないけど。


「もう出発できるのか?」


 ここ数日、魔法と剣の訓練をして、一通り戦闘はできるようになった。武器や防具の装備一式と、お金や着替えの服などの旅行セットも貰ったので、案内役の三人がいれば、もう魔王討伐の旅に出発するのには何の問題もない。


「はい。我々は既に準備できております」


 三人の中でリーダー格というか、パーティ全体でも参謀役を務めるらしいエルアーラさんが答える。


「それじゃ出発しよう。最初の目的地はどこがいいんだ?」


「アストロ市へ向かいましょう。数か月前に魔王軍に占領されたばかりの大きな町ですので、まずはそこを解放するのがよろしいかと」


「どう行けば最も早いんだ?」


「神殿の転送魔法陣を使えば、アストロ市の隣町のアパッチ市の神殿まで瞬時に移動できるよ。そこから歩けば一日で着くんじゃないかな。拓海様は勇者なんで無条件で使用許可が出るから、ボクについてきて」


 コニーさんにそう言われてついていくと、王宮の隣にあるこれまた立派な大神殿に着いた。コニーさんが入り口の神官に魔法陣使用の申請をすると、案内役らしい神官の人が出てきた。その人について結構奥まで入っていくと、最初に召喚されたときと同じような魔法陣が描かれた部屋に着いた。


 魔法陣の模様なんてチンプンカンプン……と思ってたんだけど、なぜか文字を見ると意味がわかる。どうやら召喚の際に与えられた反則チート能力のひとつである「異世界言語理解」が魔法語の理解も可能にしてくれるらしいのだ。どうやら英語っぽく翻訳されているのが魔法語らしい。それで呪文が「ファイア」とか「ウィンド」なんだな。長距離転移ロングテレポートの術式のほか、目的地デスティネーションなどを意味する魔法文字が描かれている。


「勇者様をお連れしました。アパッチ市までの転送をお願いします」


 そこにいた転送の担当らしい神官に丁寧にお願いするコニーさん。俺に対しても最初はこういう言葉使いだったのだが、堅苦しいのはやめてくれと頼んで、普段通りの言葉使いにしてもらったんだ。もっとも、エルアーラさんは普段から丁寧に話してるらしく、変わらなかったけど。


「了解した。勇者様、従者の皆様、ご武運を。皆様に神のご加護がありますように。コニー助祭じょさいも頑張ってな」


 どうやらコニーさんの知り合いだったらしい神官の声に送られて、俺たちはアパッチ市に転移した。


 ◆ ◆ ◆


「そなたが新しい勇者か? 今度こそ、しっかり魔王を倒せるのだろうな!?」


 ……なんだ、この偉そうなオッサンは? いや、立派そうな服着てるし護衛の騎士とか連れてるから、実際に偉いんだろうけどさ。アパッチ市の神殿を出たら、いきなりこれだよ。


「アパッチ伯爵! いかに伯爵といえど、今の発言は勇者様に無礼でありましょう!!」


 エルアーラさんが抗議してくれたので、誰かわかった。このアパッチ市周辺を治める貴族だな。


「ふん、孤児みなしごが偉そうに。勇者勇者と皆で持ち上げたところで、今までの十人に何ができたというのだ! 昨年の勇者も自信たっぷりに出て行って、結局アストロ候を救うことすらできなかったではないか!!」


 毒づくアパッチ伯爵。嫌な感じだな、コイツ。でもまあ、こういうヤツには何を言ってもしょうがない。俺が魔王を倒したら、手の平返してヘコヘコするんだろうし。


 それに、不安になるのも、ある意味無理はないのかもしれない。何しろ、確かに俺の前の「勇者様」たちは、不死身で無敵であるはずなのに、なぜか魔王と対決するために魔王の所へ乗り込んでいっては、ほぼ必ず魔王の手で元の世界に送り返されてしまっているのだ。唯一の例外が二代目勇者だった未来で、あいつだけは送還されずに魔王の捕虜~というか奴隷~になっているらしいという説明を聞いている。


 それと、今のアパッチ伯の話の中で気になるのは「孤児」って言葉だ。


「確かに私は元は孤児ですが、今はエルフ族の長老の一族メイン家の養女です。私への無礼は、高位ハイエルフへの侮辱と見なされますよ!」


 うわ、エルアーラさんって、そんなに偉い人だったんだ!?


「そんな形だけの養子縁組など意味は無いわ! 王家や我々のような貴族は、その生まれから神に祝福され、愚民共を統治する権利を与えられているのだ!! いくら貴い家の養子になったとて、卑しい生まれの分際で、生粋の貴族と同格などと思い上がるな!」


 でも、伯爵にとっては血筋が第一で他は関係ないってことらしい。何か嫌な感じだなあ。


 険しい顔をしていたエルアーラさんが、さらに眉をつり上げて何か言い返そうとしていたが、こんな選民思想の塊みたいなオッサンに付き合ってても意味はない。さっさと退散するに限る。


「まあ、頑張ってみますよ。言っときますけど、俺は勇者なんで不死身ですから。そこの騎士さんたちがどんだけ強くても、傷一つ付けられませんよ。何なら試してみます?」


 俺がそう言いながらエルアーラさんを制して前に出ると、伯爵は露骨に怯んで後ずさった。何だよ、偉そうな態度の割にはビビりだな。


「待て、我は伯爵だぞ! 我に手を出したら、ただでは済まんぞ!!」


 本当に小者だわ、コレ。相手にするのもバカバカしい。


「は? 俺はただ、伯爵様が俺の実力を心配されてたみたいなんで、お付きの方々に試していただいてもいいですよ、って言っただけなんですけど」


 そう言うと、露骨に安心した顔になって、また偉そうにふんぞり返って何か言いつくろおうとしたんで、その前に一本釘を刺しとくことにした。


「だけど、ただじゃ済まないってどうするんです? 俺、何の攻撃も効かない不死身の体なんで、捕まえることも閉じ込めることも、殺すこともできないんですけど」


 それを聞いて真っ青になる伯爵。俺が本気で怒ったら誰も止められないことに、ようやく気付いたらしい。


「拓海様、行きましょう。救いを求める多くの人々が待っています」


「そうだな、それじゃ、失礼します」


 コニーさんが取りなすように言ってくれたので、頷きながら伯爵に別れの挨拶をする。


「アストロ市はこっちですぅ」


 ミーアさんがアストロ市に向かう道を指さして教えてくれたので、そちらに向かって進むことにした。

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