<勇者Side01>異世界に勇者召喚されたらクラスメイトの美少女が魔王の奴隷にされてました
「急に召喚して申し訳ございませぬ。ことが終わりました暁には、必ず元の世界、元の時間にお戻しいたしますゆえ、勇者様、何とぞこの世界をお救いくだされ!!」
目の前で、偉そうな人が土下座してた。
なんだコレ!?
たしか、高校から家に帰る途中、足元に変な光の模様が浮かび上がって、そこから凄い光が噴出したと思ったら、この場にいたんだ。何か、複雑な模様や見たこともない文字が描いてある魔法陣らしき物が石畳の上に描いてあって、その真ん中に俺が出現したらしい。部屋自体は、だだっ広くて天井もえらく高いけど、扉以外は壁と天井の照明器具らしきもの以外は何もない殺風景な作りだ。しかし、三~四人土下座してるのは、立派な服を着た偉そうな人たちばかり。王様とか貴族とかじゃないだろうか。
コレ、もしかして「異世界への勇者召喚」ってヤツ!?
いや、そういうラノベとかネット小説は友達の影響で読んでたから知ってるけど、まさか自分の身に起こるとは……
「いや、でも俺は普通の高校生で、特に凄い力とか無いんですけど……」
とりあえず、こう言ってみた。言葉は通じてるみたいだけど、召喚のときに言語理解とかは自動付与されてるのかな。それ以外に
そしたら、やっぱり説明してくれた。案の定
何だよ「絶対不滅」って!?
攻撃一切無効、不老不死、栄養摂取どころか呼吸すら不要、体力魔力無限……絶対に負けないじゃん!!
なるほど、これだけ
それに、最初に偉そうな人が言ってたように、こちらで何年過ごそうが、何十年過ごそうが、一切時間経過なしで元の場所、元の時間に送還できるんだそうな。それと、途中でやめたくなった場合も送還してくれるそうだ。その間、まったく年を取らないみたいだし。
それなら、俺にとって不都合は何も無い。「義を見てせざるは勇無きなり」とも言うし、この世界の人々が魔王に苦しめられてるんなら、一肌脱いでもいいかな……
などと思っていたら、一番偉そうな人に尋ねられた。
「余は、このセイクリッド王国の国王であるジョルジュ十四世じゃ。勇者様の名をお伺いしてもよろしいかな?」
あ、やっぱり王様だったんだ。王様にここまで低姿勢に来られたら、名乗らないとダメだよな。
「俺は
平凡な高校生……と言ったらブーイングくらうかな。一応、都内有数の進学校で学年上位十番に入る成績の上に、剣道部じゃあインターハイ出場もしてるんだから。
……っても、中学時代からの親友で同級生の
大輝は俺と同じ剣道部所属だけど主将をやっててインターハイ優勝者、未来は女子フェンシング部の部長で同じくインターハイ優勝者。おまけに美男美女ときてる。今時マンガやアニメにだってあんな完璧超人いないっつーの!
……もっとも、未来の方には性格にバカでっかい「欠点」もあるんだけどね。まあ、その大欠点があるから、完璧超人カップルのくせに余り嫉妬されないってことはあるかもしれない。あいつらに比べたら俺なんてフツーだよ、フツー!
とか思ってたら、また王様が土下座して頼んできた。
「拓海様と申されますか。勇者拓海様、何とぞ魔王デモンキングを倒して、この世界をお救いくだされ!」
「魔王デモンキング?」
「世界征服をもくろみ、我らを滅ぼさんとする邪悪な魔王でございます」
何か、ド○クエのモンスターにそんな名前のいなかったっけか? とか思ったんだけど、そんなのをこの世界の王様が知るはずもなく、普通に説明してくれた。
と、突然そこに誰か別の人の声が割り込んで来た。
「その名前は捨てたと言ったはずだけどね」
「誰だ!?」
叫びながら、その声がする方を見上げてみると、高い天井近くの空中に一つの影が浮いていた。黒いマントを羽織り、トゲトゲだか角だかがゴテゴテ付いた見るからに禍々しい雰囲気の黒い兜をかぶり、口元以外を覆い隠す黒と赤のいかにも悪者風の仮面を付けた男が、何も無い空中に立っているのだ。
「噂の魔王だよ。かつて倒される前は『デモンキング』だったのは事実だけど、今は『グレートシャイン』と名乗ってるんだけどね」
「魔王の分際で『偉大なる輝き』など、おこがましいわ!!」
魔王の言葉に、王様が反論する。こっちの言語がどうなってるのかわからないけど、英語っぽいのは別系統の言語が英語風に自動翻訳されてるんだろうか。
「まあ、好きなように呼べばいいよ。しょせん、君たちが滅びるまでの間のことだからね」
冷笑する魔王。声の質からすると、そんなに年寄りじゃないらしい。というか、仮面からのぞいている口元の様子といい、声といい、どちらかというと若い感じがする。
……あれ? 何か、この声、どこかで聞いたことがあるような気もするんだよな。いや、声というよりは、話し方が俺の知り合いの誰かに似てる気がする。
「何をしに来た!?」
「新しい勇者くんへの挨拶さ。それと、無駄なことをしないように忠告をしに、ね」
王様の問いに答えてから、俺の方に顔を向ける魔王。
「無駄なこと?」
思わず問い返すと、魔王がニヤリと笑って答える。
「僕を倒そうと思っても無駄ってことさ。それから、勇者が不死不滅だからといって、倒す方法が無いワケじゃないんだよ。あまり過信しないことだね」
そう言った後で、よく聞き取れなかったけど呪文らしきものを小声で唱えながら空中に手をかざすと、突然そこに黒い渦のようなものが現れて、その中から十字架が出てきた。これはストレージとかそういう異空間収納魔法か、それとも召喚魔法だろうか? ……って、アレは!?
魔王の隣に浮かんだ十字架には、一人の女の子が掛けられていた。身につけているのは元は美麗な鎧や小手、すね当てだったのだろうが、今はボロボロに壊されている。血にまみれていたり傷を受けていたりする様子はないが、抵抗する様子もなく、ぐったりと力なく十字架に磔にされており、虚ろな瞳で同じ言葉を繰り返しつぶやいていた。
「……あたしは……まおうさまの……ドレイです……あたし……は……まおう……さま……の……ドレイ……です……」
「わかるかな? たとえ体は不滅であっても、心を壊す方法はいくらでもあるのさ。こんな風になりたくなければ、さっさと元の世界に帰ることだよ。送還魔法はあるんだからね。何なら、前の勇者たちと同じように、僕が送り返してあげてもいいよ」
だが、そんな風にあざけるように話す魔王の話を、俺は半分も聞いていなかった。十字架に磔になっている少女に、見覚えがあったからだ。
「未来ッ!?」
そう、俺の親友である大輝の彼女で、俺にとっても中学時代からの友人である未来だったんだ!!
「おや、彼女の知り合いかい? これは参ったな。それじゃあ、帰れと言っても帰らないだろうね。でもまあ、助けようとしても無駄だよ。もう彼女は僕のモノなんだからね」
そう言うと、魔王は磔になっている未来の横に移動すると、顎を親指と人差し指ではさみ、クイっと顔を持ち上げるとおもむろにキスをしやがった!
「……あぁ……まおうさまぁ……あたしは……まおうさまの……ドレイですぅ」
未来の、今まで聞いたこともないような艶めかしい声。それを聞いた瞬間、俺はブチ切れていた。
「ふっざけんなあぁぁぁぁぁっ!!」
体の中心に感じる熱いモノ、それを右腕の先に絞り出すような感じで強引に動かし、掌を魔王目がけて突き出すと、掌の中心からもの凄い光の束が放出された!
ドガァン!!
俺の掌から放たれた光の束は、派手な爆発音と共に天井を突き破っていた。射線上にいた魔王は影も形もない。
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ。
乾いた拍手の音が、だだっ広い室内に響く。
「いや、お見事。魔法の使い方を習ってもいないうちから、これだけの魔力放出ができるなんて、君は歴代勇者の中でも一、二を争う天才じゃないかな」
そして、魔王の声も響く。俺は見ていた。光の束が魔王に命中する直前に、何か呪文を小声でつぶやいた魔王の姿がかき消されるようにして無くなったことを。
今、その姿は、前とは別の位置に浮いて俺を見下ろしている。その横には未来の姿は無い。
「転移魔法、か?」
「正解だよ。さすが勇者だね、魔法の知識が無くてもわかるんだ」
漫画やラノベで得た知識から推測しただけだし、別に魔王に褒められたって嬉しくも何ともない。そんなこと以上に、今知りたいのは別のことだ。
「それより、未来をどこにやった!?」
「僕の城さ。彼女を取り返したければ、僕の城まで来たまえ。もっとも、そこに至るまでに、君は僕の『秘密計画』の全貌を知って、戦う気力を失うだろうけどね」
「秘密計画、だと?」
「そうさ、我々がこの世界を征服するための、邪悪な邪悪な秘密計画だよ。この計画が完遂されれば、人類の王国はすべて滅び、我々が世界を永遠に支配することになるのさ」
嬉しそうに話す魔王。こいつ……本当に王様が言っていた通りの邪悪な魔王だ!
「そんなこと、させるものかッ!」
俺は思わず叫んでいた。
「フフフ……それなら阻止してみたまえ。今まで十人の勇者がこの計画を阻止し、僕を倒すために旅をしてきたけど、一人を除いて全員が途中で戦う意志を失って、僕の手で元の世界に帰って行ったよ。残った一人は、さっき見たとおりの有様さ。君にもいずれわかるだろうよ。僕の秘密計画を阻止することがどれだけ困難かということと、僕に逆らうことの愚かさをね」
ハハハハハ、アハハハハ……
高笑いを残して、魔王は宙に消え去った。
「魔王……」
俺は歯がみしてあいつが消え去るのを見送るしかなかった。今の俺には、何もできない。だが、あいつが何と言おうと、俺はその秘密計画とやらを阻止して、あいつを倒し、未来を助け出す! そのためには……
「王様、俺に力を貸してください。俺が、魔王と戦えるように、魔王を倒せるように、戦い方の訓練をしてください!」
俺の頼みを聞いた王様が大きく頷くのを見て、俺はこれからの戦いに闘志を燃やすのだった。
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