かばんちゃんのまくら

蟹山保仁

かばんちゃんのまくら

 最近サーバルに心配事が出来ました。

 それは、夜になるとかばんが寝苦しそうなこと。

 だから今日、お悩み相談をしにハカセの元へとお邪魔しています。


「最近かばんちゃんが、夜に寝床でごそごそしてて眠れてなさそうなんだ。なにかよく眠れるようになる方法──」

 来館早々質問をするサーバルの言葉を遮って、ジョシュが突然サーバルの目の前に袋を積み上げはじめました。

 積みあがっていく袋にサーバルが目を丸くしていると、そんなこと気にも留めずにハカセが説明を始めます。

「ヒトはまくらというのを使って、安眠を得るのだそうです。かばんはそれを持っていないので、サーバルが作ってやればいいのです」

「袋にいろいろなものを詰めて、頭の高さを寝やすい高さに調整すると、ヒトはよく眠れるのだそうですよ」

 即答するハカセ達にサーバルは関心しきりです。

「さすがハカセ詳しいね! それに準備もすっごいはやいよ! ありがと! ところで、この袋貰っていいの?」

 ハカセ達は少し目を細めて、やれやれと首を振ります。

「お前たちはドジとおりこうですが、似たもの同士ですね」

「かばんから先払いで貰っているので、袋は好きにするですよ」

「?」

 二人の言葉の意味がよくわからなかったサーバルが、頭をひねります。

 すると悩んでいるサーバルの後ろから、賑やかな声が聞こえてきました。

「たっだいまなのだ! ぴっかぴかのまんまる見つけてきたのだー!」

「はーいよっと。ハカセー、アライさんがまんまるの見つけてきたよー」

 サーバルが声のした方へと振り返ると、大きなタイヤを抱えたアライグマがフェネックと連れ立って、こちらへやってくるところでした。

「むむむ? サーバル、いったいどうしたのだ?」

「バスの修理なら、アライさんの見つけたコレで直るみたいだよー」

 としょかんではあまり見ない顔のサーバルに気がついて、二人がどうしたことかと声をかけてきます。

 そこでサーバルは、どうしてここへ来たのかと説明することにしました。

「えっとね──」



「なにー! かばんさん眠れてないのかー!? このままではかばんさんの危機なのだー!」

「なるほどー。まくらがあれば、かばんさんはよく眠れるようになるんだねー」

「それならアライさんにお任せなのだ! ぐっすりなまくらを作るのだ! 一つじゃ足りないかもしれないから、みんなにも教えていっぱい作ってもらうのだー!!」

 サーバルからの説明を聞いたアライグマは、目の前に積まれた袋をひとつ手に取ると、そのまま明後日の方向へと、わき目もふらず走っていってしまいました。

「あらら。アライさん行ってしまったねー。それじゃあ、わたしもいくよー。またねー」

 バイバイと手を振ったフェネックは、みんなに配るであろう袋をいくつか手に取ると、アライグマを追いかけて出かけていきます。

「みんなもまくらを作ってくれるんだね! こうなったら私もすごいのを作るぞー! 負けないんだから!」

 サーバルも、やる気いっぱいといった様子で、袋を持って出かけていきました。



 お客さんのいなくなったとしょかんで、ハカセとジョシュが相談をしています。

「やれやれ。あんな大事にしなくても、かばんはのですが」

「まあいいじゃないですか、ジョシュ。かばんの労いにもなるのです。それに、われわれもヒトの形をとっているのです。まくらを知るのも一興ですよ」


 ─数日後─

「まったく、お前のまくらは残念なのです」

「ぐぬぬ! アライさんは素敵なのだ!」

「まあまあ気にしないで、アライさーん。そのまくらは私が使うからさー」

 とぼとぼと手製のまくらを抱えて帰るアライグマと付き添いのフェネックがそこにはいたのでした。

「それでは次のまくらなのです!」

 ハカセの合図で、ジョシュがかばんの前へとまくらを差し出します。

「うわぁ~! すっごい軽くてふわふわですね!」

「これはわれわれの羽毛を使って作ったのです。服からチョイして作ったのです。羽毛まくらは最高級なのですよ」

 ハカセの説明を聞いて、かばんは改めてまくらに顔をうずめて、少しばかり考えをめぐらせます。

(なんでこんなことになったんだろう? たしか、サーバルちゃんに手を引かれてとしょかんに来てみたら、なぜかまくらの品評をさせられて……うーん、思い当たる節はあるけど、他の皆はどうして?)

 これまでかばんは、紅茶の香るアルパカの毛のまくらや、ビーバー達のウッドチップの芳香まくら、カワウソの作った小石のツボ刺激まくら等々、みんなが作ったまくらを品評していたのでした。

「いよいよ最後なのです。サーバル。お前のまくらですよ」

「みなさんすごいですね! いい香りがしたり、ふわふわだったり、硬いけど気持ちがよかったり。サーバルちゃんのまくらも楽しみだなぁ!」

 最後にサーバルの番だと聞いて、かばんはワクワクします。

 でも、サーバルはその手にあるまくらを持ってこようとしないではありませんか。

「どうしたのサーバルちゃ──ってええっ!?」

「みゃみゃみゃみゃー!」

 心配したかばんが声をかけると、突然サーバルが自分のまくらを引き裂いてしまいました。

「どうして? サーバルちゃん!?」

 かばんは驚いてしまいます。

 するとサーバルは泣きそうな顔でこういいました。

「だって、私のまくらいいにおいはしないし……ふわふわじゃないし……気持ちよくないもん! これじゃあかばんちゃんがぐっすりと寝ることなんてできないよ!」

 その言葉を聞いてかばんは、サーバルが裂いたまくらの中身を見てみます。

 確かにその中身は、枯葉だったり、草だったりで、まくらにむいているようなものではありませんでした。でも……。

「ねえ、サーバルちゃん。ボクはね。サーバルちゃんがまくらを作ってくれたって事だけで、すっごくうれしいんだよ」

「でもこんなまくらじゃ、かばんちゃんは一番に選んでくれないもん!」

 サーバルの一番好きなかばん。だからサーバルはかばんの一番になりたいのでした。

 その思いに気づいたかばんは、ならばと、今度は自分の思いを口にしました。

「ううん。サーバルちゃんのまくらが一番だよ。だからほら。ここに座ってみてよ」

 かばんに促されて、サーバルはぺたりとその場に座ります。

 するとかばんは、サーバルのそのひざに頭を乗せて寝転んでしまいました。

「ほらやっぱり。サーバルちゃんのまくらが一番だよ。柔らかくて、いいにおいで、とっても気持ちがよくて、すごく安心するよ」

「かばんちゃん……」

 それはサーバルのひざまくら。かばんの一番のまくらでした。



 ─その後─

「ところで、どうして夜に寝苦しそうにしてたの?」

 サーバルは、かばんの不眠について尋ねてみました。

「なるほどね。やっぱりそのことでまくらを作ってくれてたんだね」

 それを聞いて合点がいったと、かばんはうなずき、そして自分のかばんから、なにかを取り出しました。

「あれれ? それまくら?」

「これはね、サーバルちゃん夜行性なのに、ボクに付き合ってお昼の間起きていてくれているから、夜よく眠れるようにと思って。カレーの代わりに綿花の場所を教えてもらって、夜にこっそりと作ってたんだ」

「だから夜にゴソゴソとしてたんだね。それにハカセ達の準備がよかった理由もわかったよ」

「それで、このまくら大きく作りすぎちゃったから、今日から一緒に寝ようよ!」


 安眠のために同じまくらを使うことにした二人でしたが、ドキドキしてしまって少しの間睡眠不足が続いたとさ。


 おしまい

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