灰の日常


 『外への手がかり』。



それを探し続けて、どれぐらい経っただろう。

そんな事をふと思って時計を見れば……もう五日経っていた。



ここは、巨塔『シルマ』から離れた『エニスマ』の――広場のような場所。


相変わらず機械の兵である『バルドゥール』達が歩いているが、俺には目も暮れていない。

……なんて事はなく、最近は俺の事を凝視するようになってきた。


いや、そんな見られるとちょっとやりづらいんだけど……



「ふう……こんなもんにしとこうか」



時間は朝の五時。

筋トレと実戦のトレーニング。

一時間程それをやった所で、休憩を取る。


……大分身体も休んだし、そろそろトレーニングぐらいはしてもいいだろうって事で。


というか、やらないと鈍りそうで怖いんだよ。

日に日に筋肉が落ちて行っている気がする。


ミアには考えすぎと言われたが、間違ってないと思うんだ。

何より、もし外の世界に出た時――俺が戦う事態になった時。


そんな事を考えると、鍛えられずには居られなかった。



「増速駆動は……今日はやめとこう」



エントと戦った時の増速駆動は――俺の切札みたいなものだ。


『切札』ってのは……常日頃鍛えて、いざという時に最大限で行使できる様にしておかなければならない。


……だが、流石に魔力をからっからにするまで減らすと、この後の手がかり探しに大きな支障が出てしまう。

魔力を減らさずに、増速駆動を使えるようにする、そして発動後ぶっ倒れない……それが今の目標。


「……あ」


「あ」


ぼーっと考えていると、起きてきたミアと目が合う。



「そんな場所で、何やってるのかしら」


「……ははは」


「笑っても何の返事にもなってないんだけど……まあいいわ」



どうしてここが……何て言おうとして口を開ける。



「……バルドゥール」


「あ」


「ふふっ、本当にユウスケって面白いわね」



バルドゥールが凝視していたのは、ミアが俺を探していたからか。



「今日はちょっと早いけど朝ご飯にしましょ?イツキも待ってるわ」


「はは、今日は皆早いんだな。今行くよ」


――――――――――――――



―――――――――――



――――――――



ミアと樹と俺……三人揃って朝ご飯をすましたら、早速シルマの探索だ。



「ここも、何も無しと」



あれから俺達はずっとこのシルマを探し続けている。


……そして、思った事。


まさか俺の『鍵』が……ここまで役立つとは思っていなかった。

まるでマスターキーだ。

絶対入らなそうな鍵穴にも、コイツは形を変えて入っていく。


おかげで魔力の消耗が止まる事を知らないが。



「ありがとな、樹」


「……うん」


探索の最中、樹に魔力回復魔法を掛けてもらう。

こうでもしないと保たないからな……



「こんな時間か」


「……もう、夕方だね」



窓から見える灰色の空が、光を失っていく。


もう時間にして夜だ。

今日はそろそろやめておこう。


ミアの方もそろそろ切り上げた頃だろうか。



「いやあ、中々見つからないもんだな」


「……でも、僕は……結構楽しいな」


「そうなのか?」


「うん。……この場所、凄く綺麗だから……」


静かにそう言う樹。


「はは、確かにな」


エニスマは魔力を必要とするモノが多い。


この場所を作った、ミアの父親の趣向か分からないが……魔力を込めると、モノによって固有の色や、特徴を持った光を持つモノが多いのだ。



「……そういえば、あの門みたい、なの……」


「ああ。あれだけは何故かずっと光ってるな」



途中、ある部屋にあった小さい門のようなモノ。

魔力を込めるとそれも光ったが……特に何も起きなかった。


試しに潜ってみたりしたが、何も起きず。



「本当に、不思議なモノばっかだな……」


「……へへ、そうだね」



どこか楽しげな樹と一緒に、ミアとの集合場所へと降りていく。



「あ、イツキにユウスケ!どうだったかしら?」



エニスマの中央部。机と椅子がある、リビングのような場所だ。


ミアとミアの父親しか居なかったから。椅子は追加で作って置いた。


俺達はそこに座って、報告し合う。



「こっちは門みたいなのを見つけたけど、それっぽい感じでは無かったな」


「うーん、門……パパが使っていたものでしょうけど、やっぱり『外』に関するモノは何も教えてくれなかったから分からないわね」


「そっか、そっちは?」


「こっちは特に無いわ。ごめんなさい、今日はちょっと手間取っちゃった」


「いやいや、別にいいよ。一人でやらせてごめんな」



ミアは一応この場所をある程度知っているから、という理由で一人で探してもらっている。

申し訳なく思うが、確かにそっちの方が効率は良いからな。



「お互い様よ。ユウスケには鍵があるし——はあ、お腹減った」


「はは、ご飯にしようか」


「……!」



ご飯、という言葉を聞いて樹は目を輝かせる。

魔力を一番使っているのは恐らく彼女だろうし。


食欲が一番なのも彼女だ……それを言ったら怖いから言わないけどな。



「今日の夜ご飯は、シチューとパンよ」


「……美味し、そう……」


ミアが、皿に入れてくれる。それを凝視する樹。


このシルマの地下では穀物や野菜も栽培しているから、色んな料理を食べる事が出来る。


肉はバルドゥールが狩ってくるらしい。ミアはあまり肉を食べる事は無かったが、俺達の為にバルドゥールにお願いしてくれた。



「……へへ、美味しい……」


「本当に、イツキは食いしん坊ね」


「……う」



固まる樹。

……俺はいっぱい食べる方が健康的で良いと思うんだけどな。


と、心の中で樹をフォローしておく。



「昔、王国で食べたシチューも美味しかったけど……こっちもかなり美味しいよ」


「ふふ、そう?私、外の世界の料理がどんなのか気になるわ」


「あー、それは俺も気になるな」


「……僕も……」


「一番気になってるのはイツキじゃないの?」


「——!ち、違う……よ?」


「はは」



過ぎ去る時間


やがてご飯も食べ終えて、夜更けへと。



「また、明日も頑張るか」


「ええ」


「……そう、だね」



ゆっくりと、しかし早くも感じる時間。


『外』の世界の道筋を——明日も、明後日も探す。


それは心地良くて、でも……いつか終わるモノだ。



「待ってろよ、外の世界」



俺はそっと、灰色の空に呟いた。





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