これから

「……いやあ本当に、何というか、ファンタジーだよなあ……」



灰の創剣を眺めたり、触ったりしてみる事何時か。


いや、夢中になってしまうんだこれが。

触ると冷たくて、魔力が溢れているのを感じる事が出来る。



何というか、見た目はアルスの背中の剣に似てるな……



男としては――正直、かなり惹かれる。何しろ剣だぞ?しかもその剣がこの地の魔力を創っているとは。

いやー、本当にファンタジーだよ。たまらない。


俺は更に剣を撫で回す。



「……」



樹は、そんな俺を見て微笑んでいる。


……流石に少し恥ずかしくなってきた。




「……はは、夢中になってた」


「別にいいわよ……私も最初はそんな反応だったし」



俺を見て苦笑いしながら言うミア。


昔の自分の行動を思い出して恥ずかしくなったのだろう。

存外彼女と俺は、似ているのかもしれない。



「……それで、ユウスケ……」



またも、意を決したように口を開くミア。



「……何だ?」


「本当に、私も……着いて行って、良いの?」





ミアに似合わず、もじもじと身体をくねらせている。


……『そんなことで悩んでたのか』なんて言ったら、また怒られるな。



「勿論だよ、ミア」


「……ほ、ほんと?きっと迷惑かけるわよ?」



そんな事言ったら、俺も樹に迷惑かけ続けているしな……



「大丈夫」


「……正直、戦える自信なんかも無いわよ……?も、勿論私も頑張るけど」



自信なさげに手を弄るミア。


俺も最初は魔力すら出せなかった訳だし、別にな……



「大丈夫だって……というか、嫌って言っても連れて行ってたかもな」


「……!」


樹も頷く。


寂しくて俺のベットの中に入ってくるような女の子を、こんな孤島に置いていける程俺は心を鬼にできない。


「そう……あの、何か失礼な事考えてない?ユウスケ」


「はは、気のせいだよ気のせい」



ジト目なミアの視線を受けながら、俺は創剣を撫でる。



「俺さ、正直これまで生きていく事しか考えてなかった気がするけど」



今思えば、それもしょうがなかったかもしれない。


樹を守る事、立ちはだかる強敵に対して生き残る事。


それだけを考えてきた。



「ミアと、これまでの話とかしてて、気付いたんだ。俺は『冒険』が好きなんだって」




王国から追放されたし、アルスに転移させられたりとか、散々な目に遭ったけど。


悪い事だけじゃなかった。樹も居たし、楽しい事もあった、こんな不思議な場所にも遭遇した。



振り返れば、それは結構良いものだった。



きっと――この世界には、まだ見ぬ景色や人、場所が沢山ある。


俺は、それを見てみたいと思った。



「だから、俺はそれを続けたいと思う。ミアも……一緒に来てくれるか?」


「……答えるまでもないわ。もちろんよ」


ミアは笑って頷く。


やっぱり彼女は、この表情が一番似合う。



「……何?」



俺がそんなミアを見ていると、怪訝な表情をする彼女。



「はは、何でもないよ」




―――――――――


――――――




「さて、まあ言っといて何だが、全く計画も何も立ててないんだけどな……」


「……まあ、そりゃそうよね」


「……」


俺と同じく、何とも言えない表情の樹。

実際、俺達はここが何処かなんて事も分かっちゃいないからな。


もしかしたら孤島の最奥だったりするかもしれない。



「というか、ミアはもうここから出て大丈夫なのか?」


「恐らく、だけど。貴方がエントを倒してから、防衛システムが休止したままなの」



はは、付近のバルドゥール、全員壊しちゃったからな……


ミア曰く再生するらしいが、まだエニスマ内は中々寂しい光景だ。


付近の工場みたいな場所はバルドゥールの生産工場も含まれているらしく、それが今フル稼働している。



「そっか、まあ大丈夫ならいいんだけどな」


「ええ。本来なら貴方達が『ここ』に入った時点で、あの時と同じ状況になるわ」


「ま、まじか……」



あれはもうコリゴリだよ、次は本当に死んでしまうかもしれない。



「無事出れるなら良いけど、次の問題はどうやってここから脱出するかだよな……」


「……?」



樹もいい答えは思い浮かばない様。


時間をかければいつか海に着くんだろうけど、中々大変だ。


疲労もあるし、精神的にも辛い。



「……もしかしたら、パパの使ってた移動手段か何かが残ってるかも……」


「……何だそれ?」


「ええ。パパは時々、エニスマから出て別の大陸に遠出したりしてたみたいだから」


「そ、そうなのか!?」



確かにこの土地じゃ手に入るものも入らないだろうから、あり得る話ではある。


それが出来る程の力の持ち主なのだろう。



こう言っちゃアレだが……『近道』が出来たかもしれない。




「……ふふ。まあ私、そんなモノがあるかどうかも、その場所も知らないんだけど」




食いつく様にミアへ投げかけた質問は、悪戯な笑みを浮かべた彼女に叩かれた。


楽しそうだな、ミア……




「……」




大袈裟に落胆する俺に、ミアは続ける。



「でも、『それ』がある可能性が高いわよ?」


「……確かに、ミアの父親はどうやって外へ行ってたって話だしな……」



毎回毎回航海していたとは考えづらい。


ミアの言う通りだ、というかこんな飛んでもない場所を創ったんだから……という考えもある。


しかし――仮に、もしそんなモノがここに埋もれていたとしても。



「もし、それがあったとしても……ミアの父親がそう簡単に見つけるようにはしていないと思う」


「……ええ。多分だけど、私でも分からないパパだけの空間があるはずよ。私にも開けられないような、そんな部屋が……でも」



ミアは、俺を指でさす。



「ユウスケ、貴方……どうやって最初、私に会ったの?」


「……へ?いや、普通に扉を開けて……」


俺がそう言うと、樹が服を引っ張る。



「……藍、君」


何か言いたげな樹。


……あ。



「――『鍵』か」


「……!」


想いが伝わったようで、笑みを浮かべる樹。


そうだ……俺には、コレがあったな。


「ええ、貴方のその『鍵』とやらがあれば……どんな場所でも開けられるわ」


「……でも、いいのか?それはミアの父親の墓荒らしと言っても――」


「――いいの。私、前に進む為にはもう、迷いたくないから」



力強く、そう言うミア。



「そっか」



彼女の決意を、踏みにじるような事はしてはいけないだろう。



「それじゃ――『外』への手がかり探しを始めようか!」


「ええ」


「……!」



こうして俺達は――シルマの地下探索を始めたのだった。




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