案内②


 ミアの部屋に戻る道中。



『転送装置』が、そこにあるらしい。



「まさか、地下があるとはなあ……」


「この塔は展望台、バルドゥールのコントロールのみしかないはずよ。侵入者対策に、パパが生前に全部地下に移したから」


「はは、まあ確かにこんな塔に地下があるとは思わないしな」


これだけ立派な塔だ、地下の存在を連想するには難しい。


話をしていれば、ミアの部屋に着く。


そして、光る円のようなものが設置してある場所に俺達を案内してくれた。


丁度三人ぐらい入れそうな、如何にもなモノ。



「これが、転送装置か」



「……ええ。じゃあ、行くわよ」



「いや、まだ心の準備が――」



ミアと前、散歩に出かけた時もそうだったけどさ……これ苦手なんだよな。



エレベーターとは違うけど、なんか身体がひゅんっとする。



……どうして、そんな悪戯な笑みを浮かべるんだ?ミア?



「み、ミア?」


「ふふ、聞いてあーげない。――『転送』!」


「う、うおー―」



――――――――――



「……ふふ」



「……」



「……うう、ふう、着いたのか?」



何とか、終わった。本当に慣れないよこれ。



何故か樹は全く動じていなさそうだ……俺だけなんか恥ずかしいじゃないか。



ゆっくりと、瞑った目を開ける。



「――――!?……は、はは、何だこりゃ……」





思わず笑ってしまう。



地下と呼ぶその場所は、むしろ塔よりも大きく見えた。



東京ドーム一個分とか建物の大きさの比較でよく聞くが、まさかここでそれを体感するとは……



「パパの部屋みたいなものよ、凄いでしょ?」



白い壁が囲う中。



畑が並ぶ、農園のような場所。


ガラス器具が大量に置いてある、化学実験所のような場所。


液体の金属の池。


バルドゥールの模型。


他にも、数えきれない程沢山のものが置いてある。


ミアの父親の残したモノは、俺の想像以上に多く、進んでいた。


部屋にしては広すぎるよ、うん。



ただ。



そんな地下の中。



もっとも印象的なのは――



「あの、一番奥にあるのは……」



それは、『剣』のようなシルエット。


灰色の靄のようなものが覆っているが、確かに見える。


このドームの最奥に存在するそれは、一番遠くにあるはずなのに。


何故か一番強調し、俺の目を離さない。


まるで、この灰色の土地の『中心』のような。



「ふふ、多分言葉で言うよりも……そうね、行きましょうか」


「あ、ああ。頼む」


「じゃ、行くわね。『転送』!」



だから、一声かけてくれ――



そう言う間もなく、ミアと転移した。



――――――――――――


「……」



「……」



樹、俺共々、黙って『それ』を見続けていた。


シルエット通り、それは剣だった。


灰色の地面に突き刺さった、俺の身長程ある、巨大な剣。



有無を言わさぬ存在感。


そして、感じる魔力。


まるでそれは生きているかのように、力強さを感じた。



「……パパは、これを『灰の創剣』と呼んでいたわ」



「創剣……か」



「ええ。文字通り、この剣がここ一帯の魔力を創り続けているの。


この灰色の靄みたいなものが高濃度の魔力で、パパはこれを色んなモノに変換している。


まあつまり……これだけ大掛かりな事が出来ているのも、この創剣のおかげなのよ」



「なるほどな……」



「何時から存在しているのかはパパも分からないって言ってた。


雲、地面、空気全てこの剣の魔力の影響を受けている事を考えたら、相当時間は経っているはずだけど」



確かに、この島は魔力が濃いと思っていた。


付近のバルドゥール達が、ここへ近付く事に強化されていっていたのも分かる。


まさか……こんな剣の影響だったとはな。



「本当に、不思議な場所だ」



「……そうね」



ミアが頷く。


きっと、ミアの父親は、時間をかけてこの場所を作ったのだろう。



……そしてそれは、他ならぬミアの為に。



「……ねえ、ユウスケ」


「ん?」


「あのね、私も――この剣に、創られたの」



ミアは、意を決したように、そう告げる。



「……もっと詳しく言えば、この剣の魔力と、パパの魔法によって」



俯いて、ミアは言った。


『産まれた』ではなく――『創られた』と。


この少女は、俺達人間のような生まれではなく、言わば『機械』のようなモノ。



「あの、バルドゥール達と似たようなモノよ。貴方達とは全く違う、生き物と呼べるかどうかも分からない」



確かに俺達とは違う。


道中倒してきた、バルドゥールと同様――ミアの父親によって『創られた』のだから。


いわば、『創造物』。そう言いたいのだろう、ミアは。



「貴方達に、出会って、助けられている間に――考えたの。私が何者なのか、って」



「貴方達、と――私は違うんだ、って」



「ヒトである貴方達と、『創られた』、私なんだ、って」



ミアは、俯いて、涙を流しながら続けて。



「だから、ね、私――『気持ち悪い』、でしょ?私は——貴方を殺そうとしたモノ達と同じ。拒絶されても——私、は」



……『創られた』。『機械』。『創造物』。



ミアはきっと、ずっと悩んでいたんだろう。


自分が、『それ』だった事に。



――だけど。



『それ』が、何だってんだ。



「……そんな事で、悩んでたのか」


「――!そんな事って――!」



涙を目に浮かべながら、怒りの感情を向ける彼女。



「ミアはミアだ。ヒトであろうと、そうでなかろうと――何も俺の中では変わらない。好奇心旺盛な普通の女の子だよ、ミアは」



「……う……ほ、本当?」



まだ疑っているのか、ミアは俯いたままだ。


今日のミアは少しだけおかしいと思っていたが、こんな事を溜めこんでいたとはな。



「ああ。何ならヒトよりヒトらしいよな、ミアは。な、樹」


「……うん。僕も、そう思うよ?」



樹も、笑ってそうミアに言う。


俺も樹も、ずっと思っていたことだ。



ミアは色んな顔を見せてくれた。


あの星空を見た時の表情は、『機械』と呼べるわけもない。


ヒトよりヒトらしい、それが誉め言葉になるかは分からないが……



「ふふ――そっか!」



今の笑顔が、何よりの証拠だ。

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