案内①


 「……おいおい、もう9時か」


二度寝から目が覚めたと思えば、もうそんな時間だった。

思ったより俺の身体は睡眠を求めていたのだろうか。



「大分、身体も戻ってきたな」



ベッドから起き上がり、背伸び。



「お前もご苦労さん……あ、行った」



横にいた機械の犬が、俺が起きると共に部屋から出て行く。



「……はあ、やっぱりトレーニングサボると違うな」



なんとなく、筋肉が落ちている気がする。


そりゃそうか、今のところ二週間ぐらいベッドの上だし。



「……あ、ベッドから出てる」



カーテンが開く音と同時に、ミアが顔を出す。


勝手にベッドから出たせいか、ジト目でまたしても。



「はは、もう大丈夫だよ。この通り」


「……全く、イツキには感謝しなさいよ?ずっと貴方の身体を回復してくれてたんだから」



そりゃあ早く治るわよね、と笑って言うミア。


……樹、そんなに俺の身体の事を気遣ってくれてたのか。



「樹は?」


「今、ご飯持って来てくれてるわ」


「そっか、というか昨日のパンとスープってどうやって作っているんだ?」



実は結構気になっていた。


「ああ、あれもパパの作ったモノよ。魔力を込めると勝手に材料を調理してくれるの」


「へ、へえ……凄いなそれ。いやでも、材料は?」


こんな魔物しかいない土地なのに、どうやっているのやら。



「パパは元々外の世界から来たから。持って来ていた種から色々と栽培してたの」


「まさか、その施設も?」


「……ふふ、ええ」



彼女の父親はどうやら、農園から兵器まで何でも作れるらしい。


末恐ろしいな……



「……ユウスケって、イツキに聞いてたけど本当にここに興味があるのね」


「ん?ああ……まあな」



父親の影響か遺伝か、好奇心旺盛だとよく言われた。


雫、春樹からな。……あいつ等元気かな……



「……何遠い目してるの?」


「はは、ごめんごめん。実際ここを最初に見た時から、この場所にずっと惹かれていたんだ」


「……そう。……あの、良ければなんだけど」



改まって、ミアは俺に向いて。




「この場所……エニスマ、そしてシルマを、案内してあげる」


ミアは、確かに俺にそう言った。



「ほ、本当か!?」


「ふふ、ええ。……貴方がエントを倒してから、防衛システムも休止して、動かなくなったから」



今ならどこでも好きに行けるわ、と笑って言うミア。



「……いいのか?」



きっとここーーエニスマは、ミア、そしてミアの父親が大事にしてきたものだろうから。



「別にいいわよ。見て減るものじゃないし……貴方が見たくないって言うなら良いけど」


「い、いやいや!見たいよ!」



実際ここまで来たのは、この場所の謎が知りたかったからだ。



「……ふふ、なら行きましょ?」





―――――――――――――――――




あれから樹も合流して、俺達はミアに着いて行った。


樹の様子は、普段と変わらない様。昨日の事は、あまり気にしていないのだろうか……



「凄いな……」



ミアに案内され、塔の中を案内してもらう。


ミアの部屋の上は機械の兵……バルドゥール達の配置を変更したり、操ったりするパネルがあった。


下手すれば俺達のいた世界より進んでるんじゃないか?色々とな。



「……綺麗……」



その更に上に登っていくと、『頂上』だった。


樹が感嘆の声を漏らす。




実際そこは、絶景だった。エニスマの全てが一望出来る場所。


青いライトが散りばめられ、それらは生きるように稼働している。


俺達が歩いてきた場所が全て見える展望台。




「この場所を作ったのも、ミアの父親なのか」



気になって、俺はそう聞く。



「ええ、勿論よ……私はパパみたいに頭も良くないし、魔法もうまく扱えない」


「……ミアの父親は、相当凄い人なんだな」



呟く俺に、ミアは微笑んで。



「当り前よ。ふふ……それじゃ――」



その表情を治し、俺に向く。




「『地下』に、行きましょうか」


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