安息

俺は、しばらくはベッドの中で安静にしておく事になった。


ちなみにご飯は、ミアが持って来てくれたパンとスープ。

この塔の設備は、思っているより高度なものらしい。



「……ああ、やっぱりここ、ミアの部屋だったのか」


「ええ。流石に床で寝させるわけにはいかないでしょう?」


「はは……それだともっと早く起きていたかもしれないな」



今は、ミアと話している。


この場所は……エニスマと言うと聞いた。ちなみに塔はシルマ。


そのエニスマの防衛機能も、今は落ち着いているらしい。じゃないとまあ、ミアと話


せていないか。



「……バカ。それじゃ疲れが取れないでしょ」



「はは、それもそうか……ってあれ?ミアはどうやって寝てたんだ?」



まさか、ミアのベッドが二つ三つあるわけがない。



「……」


「うん?」


「べ、別にそんなのどうでもいいでしょ!」



なぜか顔を紅くするミア。



「……へへ、実は、ね――」


「――あーあー!もういいでしょ!まだ寝てなさい!」



すぐそこにいた樹が、笑っていいかける。




それを声を上げて掻き消すミア。


そしてそのまま部屋から出て行ってしまった。



「……?」



訳が分からない。



「……もう、鈍感……藍君、は」


樹にそう言われる。


丸10日寝てたんだ、仕方ない……


そう思うようにしようかな。



「……それにしても、樹達は大丈夫だったのか?」



あの騒動の中、樹達はどうだったのだろうか。



「……色々、あったけど……大丈夫」


「そっか、良かったよ。ああそう言えば……これ」



右腕のブレスレットを出して、樹に見せる。



「!」


「これが無かったら、俺は……どうなっていたか分からないぐらいに助かったんだ」


実際無ければ死んでいたかもしれない。



「はは、お礼をしてもし足りないよ」


「……へへ、良かった」




笑う樹。


そのまま樹は、俺の横に座る。



「……」


「……」



静かな時間。


落ち着く、心地良い空間。


……本当に、生きて帰ってきて良かった。



「……あの、藍君」


「うん?」


「……あの時の、あれは……」



『あの時』の? 『あれ』?



「……?」


「そ、その、き、きき……」



言葉を発するごとに顔がどんどん紅くなっている。



「き?」


「…………」



あ……固まった。


そのまま樹は顔を伏せたまま、出て行ってしまう。



「一人になっちゃったな……はあ」



ため息一つ。



……『あの時』の、『アレ』だ。



分からないはずがない。



「俺、中々とんでもない事したな……」



最後の戦い前の、樹へのキス。


それはそれはもう、情熱的な……


強引に、樹の唇を奪ったあの夜――



「はあ」



我ながら、自分のヘタレさに腹が立つ。


分かっているんだ、でもやっぱり恥ずかしい。


あの時は色々とあったからさ……でも、今こうやって冷静になってみると。



「……樹、実は嫌だったりしてたのかな?……」



お、恐らくファーストキスだぞ?


勿論俺もだけどさ。


あんな感じで奪っちゃって良かったのかな……



「……寝るか」



憂鬱になる前に、寝て頭をスッキリさせる事にする。




時間も20時……ま、まあギリギリ寝る時間だよ。


「はあ」



……逃げたな、俺。



―――――――――――――――――――


 「……ん」


目が覚める。


腕時計を見ると、朝の3時だった。


ああ、そういえばずっとこの時間に起きてたな。案外身体も覚えてるもんだ。



「流石にトレーニングは不味いよな……」



身体がなまってしまいそうで怖い俺がいる。


が、まだ安静にしとくべきか。


……もう、『敵』は居ないだろうし。



「……んっ、ううん……」


……ん?


もぞもぞと、ベッドの掛け布団の中で何かが動いている。




あまり大きくないベッドだ、大人一人入るかぐらいだから、誰かがいるなんて思わなかった。






「……ミアか」






その声と身体の大きさで分かる。




はは……ミアは掛け布団の中に潜って眠るタイプか。




あ、ちょっとだけ顔出てきた。息が苦しくなったのだろうか。






「……パパ……」






ふと、そんな寝言を呟くミア。




ずっと一人で、長い時を過ごしてきた彼女。




きっとミアは寂しいのだろう。






まだ、俺達に着いてくるとはきちんと聞けていない。




俺としてはもちろん一緒に行きたいと思っている。




『また』ひとりぼっちにするなんて、俺は嫌だ。



なによりも――外の世界を、彼女に見せてあげたいんだ。



「……一人に、しないで……」



弱々しく寝言を呟く彼女。


昔の俺を思い出す。あの時は、優しい叔父さんや叔母さんがいた。


けど、ミアには……


「大丈夫だ、ミア」


そう優しく言って、俺はミアの頭を撫でる。


「ん……」


ミアが寝たまま、俺にくっついてくる。


樹よりも一回り小さい身体。



「……はは、おやすみ」


少し俺にくっついて満足したと思えば、また布団の中深くに帰っていった。

昔はきっと、父親にこうやってもらっていたのだろう。



「二度寝するか」



どの道このまま起きたらミアを起こしてしまいそうだしな……


俺は目を瞑り、再度夢の世界に向かうのだった。

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