ミア⑦
私は意識を失ったと思えば、夢のようなものを見ていた。
それは、『過去』のある場面。
……パパが、亡くなる頃の事。
「いいかミア。私が死んでも、外の世界に興味を向けるな。どれだけ寂しくても、辛くても……必ず」
パパは最期まで、ずっと外を恨んでいた。
そして当然、私がそんな外に興味を持つ事もパパは良く思わなかった。
「うん、分かってるよ。パパ」
そして。
「この場所も、ミアが守っていくんだ。それがミアの使命だからな」
手を強く握るパパ。
エニスマも――パパから託された。
嫌な気なんて全くしなかった。
パパが創り、私が生まれた大事な場所。
この場所をずっと私は守るんだと、そう決意した。
「分かってる。任せて、パパ」
パパは安心したように、手の力を抜く。
同時に咳を。
「……もう、私は終わりみたいだ」
「……パパ……」
生物には、必ず『死』というものがある。
パパにも、私にも。
それを初めて見るのが、パパだった。
「いいか、最後に」
それは、パパからの最後の言葉。
パパは手を、私の頬に置いて。
その表情は、『笑って』いた。
その笑顔は、私が初めて見る表情だった。
何か決心したような、心で決めたような……
そして。
「……ヒトの言葉は、信用するな……」
その笑った表情のまま、パパは言う。
これまでよく聞いていた、その言葉。
そして、目を瞑って。
「ミア……愛、して……いる」
私が涙を流す中、パパは息を引き取る。
私の名前を呼んで、パパは亡くなった。
―――――――――――
夢が終わったと思ったら、私はどこかの場所にいた。
恐らくこれも夢なのだろう。
白い空間。動けないが、思考だけが出来た。
……エニスマの最終防衛体制。
エニスマ内の全ての、またエニスマ付近のバルドゥール達が、外敵を破壊する。
一度だけ、パパの試用で見たことがあった。
バルドゥールが紅く光り、暴走に近い動きで戦闘体制に入る。
この体制に入る時は、ある事が起こった時に発動する。
『私が何者かにエニスマから攫われる』
『私が何者かに攻撃される』
『シルマが何者かに攻撃される』
『この場所の事について、何者かに明かした時』
『私と何者かが一定時間以上至近距離に居た時』
『私が何者かを、心の底から信用した時』
その他にも沢山あるが……
『全てはミアを守る為』のもの。
そう、パパは言っていた。
何者にも私を奪わせず、傷付けさせない。
しかし――それは、私が永遠に『孤独』でいるという事だった。
もし私が誰かと一緒にここを出たいと思っても、それは妨げられる。
誰かとずっと話す事も、秘密を打ち明ける事も出来ない。
ユウスケと出会ってからの私は、変だった。
外の世界に興味を持ったり、パパ以外のヒトとずっと話していたり。
……けれど、それは変なんかじゃなくて、『元々』の私だった。
私はきっと、最初からこんなのじゃなかったのだろう。
『孤独』な時間で、私自身についても忘れてしまっていた。
そして、ユウスケは――
『今』の私を、『昔』のそんな私に戻してくれて、ずっと一緒に居てくれた。
話をしてくれた。何度も何度も、私が拒んでも近付いてきてくれて。
『助けてやる』、そう言って私を抱き締めてくれた。
「……ユウ、スケ……」
その者の名を呟く。
きっと彼は、今戦っているはずだ。
他ならぬ『私』の為に。
『ヒトの言葉は信用するな』
まるでそれは呪縛のように、私の中で響く……パパの声。
ずっと信じてきた言葉。
……でも。
もう、私は迷わない。
「パパだって――ヒトじゃない!」
叫ぶ。
私は初めて、パパに反抗する。
「私は、ユウスケを――信じるから!」
同じヒト、パパとユウスケなら――今は、私はユウスケを『信用』する!
ユウスケの為に、今私が出来る事を。
その瞬間――私は、夢から目覚めたのだった。
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