灰色の戦闘③

『増速駆動』。


それは悪く言えば、俺の身体を『酷使』する。


この技の切っ掛けは、俺の能力について考えていた時だった。


俺の能力は、『モノを増幅する』事。


今までライターであったり靴であったりバッテリーだったり、確かにモノだった。



しかし、『魔力』も増幅出来ている。魔力はこの世界で言う身体の一部みたいなもの。


その魔力が増幅出来るのであれば――



『俺の身体も増幅出来るんじゃないか?』――と。



……ただ魔力を増幅出来たのは、前の世界に魔力なんてものがない為に、魔力をモノとして見れる事が出来たからだ。


つまり、俺の身体全てを『モノ』として捉えて、そして増幅させる……そんなイメージが必要になる。


それは、途轍もなく苦労した。


かかった期間は100時間を超える。


瞑想を繰り返し、自身の身体を知り、理解を深める。


そこまではよかった。トレーニングの一環で、毎日座禅を組んでいたから。



しかし、『何か』が足りない。もっと強く俺の肉体を感じなければ。



そんな、ある時。



トレーニングが終わり魔力をほぼ使い切って、ほんの少しだけ残っていた時。


どうせなら全部使って終わろうと、何となくイメージを描く。



その時、前までとは違う感覚に気付いた。俺の身体を、何時もより感じられたんだ。


そして分かる、足りないのではなく、混ざっていたのだと。


『魔力』という存在は、俺の肉体への意識を薄めていたのだ。



そのまま俺は魔力を放出。


傍から見てみれば頭がおかしいが……


魔力がゼロに近付き、途切れそうな意識の中。


倒れる寸前。視界が明暗を行ったり来たりする内に――



見つけ出す。



その、『領域』。


心臓の鼓動、この土地の匂い、土が移動する音――





身体を澄ませて、もっと――――





風が指に当たる感触、踵で感じる己の重さ、一滴もない魔力残量までも。


俺の身体が強調する。感じる!







――今なら。





その時、俺は詠唱した。




瞬間。



まるで身体全てが、俺の身体じゃないように。


力が溢れ、ゼロに近い魔力も嘘みたいな程に作られていく。


それは、『強化』なんてもんじゃなかった。


身体全てが、『増幅』されたように動く。




魔力の自然回復量の上昇、身体能力の向上。


『全て』が、一歩先の領域へ移行する。


これが戦闘に及ぼす利点は計り知れない。





……そして、この技の一番の強みは。





――――――――――――




「……成功したか」




身体に滾る力を確かめる。


失った魔力も戻っていく。我ながら便利な技だ。






……しかし、これが持続する時間は長くない。


ここまでのメリットを持つ技だ。切れた時の副作用も計り知れない。


この状態が切れたら、反動で俺は間違いなく気を失うだろう。



だから――さっさと終わらせようか。




俺は、機械の群れに向かって歩いていく。




「「「「「――――!」」」」」





何時か見た、俺が戦った機械達。


まさか、もう一度闘う事になるとはな。





俺は『鈍器』を背中に戻し、ポケットから柄だけのスタッフ、『剣』をもう一度取り出す。






「……」





イメージする。



これまでのような、小さな刃ではない。



創るのは――大きくて、万の敵を斬り払っていく――そんな刃。



思い出す。



あの光景を。







そう――――例えば。




―― 《「この、『アルス・ルージュ・イェーガー』に……傷を付けたってことを!」》――






忘れもしない、あの『光景』を。



今だに焼き付く、あの『剣』を。







『あの時』見た、『赤く輝く大剣』を!!









「創造!!!」





イメージと詠唱が重なる。


俺の身体の炎を吸って、その刃はどんどんと大きくなっていく。







『一番の強み』





俺の『全て』。


当然これには俺の能力をも含む。




『増幅使い』という、能力自体の強化。




今まで『不可能』だったような事が、この状態の時は可能になる。




俺の能力は、一つ上の段階へ――――










「――行くぞ」




そう、つまり。



この状態であれば――炎の大剣も、創り得るという事。



完成した……手に握る、俺の身長程もある大剣。



『あの時』と異なるのは、その燃え盛る炎が、『蒼』色だという事だろう。



熱を感じながら俺は、機械の大群に突っ込んだ。





「「「「「――――!」」」」」







「――――――っらああああ!」






周囲全てを斬り払う、そんなイメージで。


途轍もなく重い。が、今の状態なら軽く振り回せる。





俺は湧き上がる炎のような力のままに――その剣を振り翳した。




「……こんなもんか」




振り終わると、現れる静寂。


見れば、周囲一帯が斬られ……燃えていた。

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