灰色の戦闘①
灰色の土地。
ここに転移してからどれ程経ったか。独特の臭いも、灰色の霧も、曇った空も。
全てが見慣れたものになっていた。
そしてこの機械の町も、大分『いつも』の風景になりつつあった。
……が。今日は、それが違うようだ。
「これは、圧巻だな」
塔から出れば、肌寒さと共に赤い光景が現れる。
さっきまではまるで敵対する気も無かった機械の兵隊達が、俺に向かって来ている。
前のように知性を感じられない。『戦闘』のみに特化した、そんな様子。
静かな灰色の土地が、まるで『戦場』。
ミアが隠そうとしていたものの大きさに驚く。
「本当に、俺だけを集中狙いか」
耳を傾ければ、最初あった工場のような音は消えている。
聞こえるのは機械の兵の音のみ。……だから、やけに分かりやすい。兵の数が。
「――――」
赤い機械兵達は、俺の前で一度『止まる』と威嚇するように俺を見る。
幾多の機械の眼光が、殺意を乗せて俺に向かって飛んでいく。
ひたり、と肌に纏わりつく寒気。
――『ミアに近付くな』――
俺には、この機械達がそう伝えているように見えた。
この戦力相手に屈服し、この場所から消えろと。
そしてそれが――俺には、とても、不愉快だった。
「『充電』」
俺は、身体に電気を纏わせて。
「断る」
機械の波へ、飛び込んだ。
―――――――――――――
無数の機械兵の攻撃。
槍。弓。剣。攻撃方法は機械によって異なる。だから厄介だ。これまでは動物が元となった機械がほとんだだったが……今は違う。
こいつ等は、俺と同じ『ヒト』なんだ。そう考えろ。
目を、頭を。
フルに使って、電気の恩恵で避けていく。
そして、隙が出来れば――右手を、機械兵の『首元』に。
「雷撃」
指に発生させた電流で、機械兵を感電させる。
この灰色の土地の機械達は、幸いにも『電気』が弱点だ。
そして更に、部位的な意味の弱点もある。こいつ等なら俺と同じ、『ヒト』の弱点箇所。
「――……」
弱点の位置に弱点の電気の攻撃を浴びせる。
そうすれば――機械兵は動作を停止する。
低い電流でもこいつ等には通用する。加減してバッテリーを節約しないと。
「まだまだ行ける」
身体に滾る雷電の感覚。
まだ、戦闘は始まったばかりだ。
―――――――――
「っ――!」
右斜め前方から矢による遠距離攻撃。
跳んで避ける。
すかさず後ろからの剣による攻撃。
「雷撃!」
剣が此方に届く前に、機械兵の首を掴んで感電させる。
右、左から殺意。
斧を持った機械兵二人が、俺を挟むように襲い掛かる。
「――――!」
直前までわざと俺は停止し、タイミングを計って回避。
斧二つはもう止まらない。
「――……」
同士討ちだ。
――休んでいる暇はない。
「らあ!」
倒した機械兵の持つ剣を、弓矢を持つ機械兵に投擲する。
使えるものは何でも使う。
「――……」
そいつは、首に刺さった剣により、動作を停止した。
――しかし。
左斜め後ろ。
前方。
後方から遠距離攻撃が――
「――くっ!」
数が多すぎる。
体感では、かなり長く戦っている。はずなのに。
「――――!」
「――――!」
「――――!」
減る気がしない。
そして、敵の勢いはむしろ増している。
一体どれだけの数が、この場所に居たのか。
「――くっ、もう残量が無い」
ポケットにあるバッテリー。
残量を示す4つのランプの内、残りはあと1つ。
それも『点滅』。ギリギリ保っているだけ。僅かしかない。
……『電気』の力を使うには、一度バッテリーに魔力を送り込み、その後バッテリーから再度魔力を電気として取り出す手順がいる。
戦闘中、そんな隙と余裕があればいいが。
今の状況では、無理だ。
「増幅――付加!」
立ち回りを、変える。
『雷電』から、『蒼炎』へ。
スピードで翻弄するんじゃなく、力で蹂躙する。
「悪いが、こっから加減は出来ないぞ」
背中に刺した、スタッフを抜く。
長期戦に『鈍器』は都合が良い。
『剣』の方は、今は抜くべきじゃない。刃の魔力消費が多すぎるからな。
「――――!」
「らあ!」
向かってくる機械兵の身体を、『砕く』。
次。
後ろの槍兵の攻撃を躱し、頭を潰す。
「――――!」
「――――!」
「――――!」
前方、右斜め後方、左斜め後方。
三人。全員剣。
「らああああ!」
力任せに、円を描くようにスタッフを振り回す。
スタッフが機械兵の身体に力負けにしないよう、全力で。
金属が潰れ、離れていく感覚、三つ。
「はあ、はあ……まだまだだ」
上がる息を抑えつけ、正常な呼吸に戻す。
電気の恩恵が無い――つまり、感覚の強化がない。
前よりも、『一手』遅れた攻撃になる。
判断を間違えれば、死ぬ。
だからこそ――冷静に、こいつ等に対応しなければ。
汗が一粒、地面に落ちた。
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