紅い光

「今まで、よく頑張ったな」





灰色の少女、ミアは……ゆっくりと眠りにつく。



そして同時に。






「「「「「「――!――!――!――!――!」」」」」」






騒々しい警告音が響き渡っていく。



この場所全てから発されているそれは、『俺自身』に発せられている、そんな気がした。



窓を見れば――美しい青色の光から、目を覆う程の真っ赤な光に。



機械の町は、風景が一変し、前の静かな場所ではなくなっていた。





――《『……今すぐに貴方は死ぬ。それ程のもの』》――





ミアはそう言った。これが、『それ』なのだろう。



この音と赤の光。俺に対するものだとすれば……恐らくだが、この場所の機械達が、俺を。





「うるさいな……全く、そこまでしなくてもいいってのに」



この騒音でミアが目を覚まさないか心配になったが、大丈夫そうだ。


俺は彼女をゆっくり寝かせた。



「――っ、藍君!」


「樹……どうやら、悪い予感が当たったみたいだ」



何が起きても良い様に、樹にはこの付近に居てもらった。


樹の身に何かあったら駄目だからな。





「さてと……ミアを、頼めるか」




ミアに俺の上着を被せ、俺はそう言う。



「ぼ、僕も……!」



樹はそう言ってくれる。


確かに一人より二人の方が、絶対に良い。


でも。



「大丈夫」



樹に寄って、頭を撫でてやる。


俺が一番嫌なのは、大事な人が自分のせいで傷付いてしまう事だ。


だから、俺一人で良い。



身勝手かもしれない。ただの自己満足かもしれないな。


ただ――それでも。


俺は、大事な人を守りたいんだ。




「……で、でも、藍君が」



俺の服を掴んで、離さない樹。


自分の事をこんなに考えてくれるのは、正直嬉しい。


樹は、俺なんかでは勿体ない程に優しくて、魅力的な女の子だ。




だからこそ、俺は樹を守りたいと思う。


だからこそ、俺は樹を――――――




「樹」


「……?」




ゆっくりと、俺は樹を抱き寄せた。


そのまま俺は――樹の顔に、俺の顔を近付ける。






ここで、『こんな』事をするなんて……俺はどうかしてるかもな。










「――っ!……う、んっ……」












樹の唇に、俺の唇を重ねる。


驚く樹を抱き締めて抑える、樹も俺を受け入れてくれた。


柔らかい感触から熱が伝わって、お互いの鼓動が重なり合う。



紅い光も騒音も、今は見えず、聞こえない。


二人だけの世界。



今だけは、この時間に。






「……っ……ん……あ、あ、あ……」




口を離してから、樹の顔を見つめる。


上気したように赤くなった頬の樹。


口をパクパクさせているのを見れば、結構驚かせてしまったのかもしれない。

 


一瞬。しかしその間は、とても長い時間。


初めてのキス。上手く出来ただろうか。



「……と」




力の抜けた樹から、ゆっくりと俺の身体を離す。


樹は俺を掴む余裕も無かったようだ。


その温もりが、俺の元から離れていく。





さて。



名残惜しいが――これから、俺は闘わなければならない。





「行ってくるよ」





そう言って、俺はドアを開ける。



これで――絶対に、俺は生きて帰らないといけなくなった。



紅い光、瞬くその先へ――俺は歩き出す。

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