雷電②

少しだけ横になってみたものの、案外すぐには眠れなかった。


というか……眠気が来ない。



仕方ない、俺は樹の傍に行って、樹が起きるのを待つことにした。



「……ん、藍……君?」


座ってぼーっと空を見ていると、樹が眠そうに目を覚ます。



「おはよう、樹。ありがとうな……俺の腕を戻してくれて。凄いよ樹は」



起きてすぐにそんな事を言うのはおかしいと思うが……この感謝を直ぐにでも言いたかった。



「……へ、そんな、へへ……」



寝起きのせいだろうか。


いつも見せないような、気の抜けた笑顔を見せる樹。


そのまま樹は寝床から出てきて俺の身体に擦り寄ってくる。


「い、樹?」


慣れない樹のその様子に、俺は反応する事が出来ない。


「……本当に、戻って、よかった……」


そう言って、俺の片腕に抱き着く樹。


顔を俺の腕に擦るせいか、凄くくすぐったい……でも、俺以上に俺の事を心配していてくれたんだろう。


「……」


「はは……そりゃ疲れるよな。本当にありがとう」


そのまま、樹はまた眠ってしまった。


俺の腕を治すのは、恐らく相当大変な事だったんだろう。


疲れているんだろう……このまま寝てもらないとな。



―――――――――――



俺の腕に寄りかかる眠る樹を横に、俺は座って休んでいた。


樹は、寝心地が随分と良さそうだ。



「はは、そんな俺の腕が心地いいか」



そう俺は独り言を。


別に邪魔じゃないし、温もりが有難い。


ただ誰にも見られてないって分かってるんだが……ちょっと恥ずかしい。



「……ん……」



よりくっつこうとしてくる樹。


『失くしていたはずの』左腕に、随分と懐いているみたいだ。



「樹が居なかったら……俺はどうなってたんだろうな」



樹の回復魔法は、俺の常識を何回も覆してきた。


普通に怪我を治すだけじゃなく、気力や魔力の回復。


そして今回の左腕の復活。



「……そうそう、いつもこんな感じで回復を……ん?」


気力、魔力が回復していく感覚と共に、俺の左腕が温かい光で纏われている。


いつの間にか、樹が俺の腕を介して回復魔法を使っていた。



「……」



寝息を立てているのに関わらず、何時もの様に回復魔法を施している樹。



「はは、夢の中でも俺を回復してくれているのか……ありがとうな」



あの時――俺が左腕を失くした時、樹は本当に心配してくれたんだろう。


まるでそれが自分の事の様に、そして俺を守ろうとした。


そして今も――樹は夢の中で俺の左腕を治そうとしているんだろう。





……休んでいる場合じゃない。


一刻も早く――『強さ』を手に入れないと。


樹のおかげで魔力も気力も回復した。やる事は決まっている。



「また、後でな」



樹を寝床に寝かせて、頭を撫でる。



「やるか」



バッテリーをポケットに突っ込み樹から離れる。



「……ふう」



電気への恐怖は前はあったが、もう大丈夫だ。


俺は深呼吸し、あの夜の感覚を思い出す。



「……増幅」



魔力が電気に俺の中で変換され、コードに流れていく。



そして、コードから手を外し――溢れる雷電を俺の胸に突き付ける。


痺れと痛み。それを歯を食い縛って耐えた後、俺は詠唱を。



「っ――『充電』!」



詠唱と共に、昨夜と同じ様で雷電が身体を包み込む。



「はあ……二回目だが慣れないな」


この痺れと痛みには、無理矢理にでも慣れないと。戦闘中に失神なんてしたら、それこそ終わりだ。


「……さて」


魔力が無くならない内に、早く色々と試さないと。


炎を宿した時のような、力が湧いてくるような感覚は感じない。


電気が俺の肌を伝い……『息を吸う』、『息を吐く』、俺の行動の一つ一つが敏感に感じられる。



「どうしたもんか」



これをどう扱えばいいのだろう。


とりあえずこのままでは、魔力を無駄に消費し続けてしまう。


量が足りないのなら、集めて用いてみようか。、


「『増幅』!」



俺の指先に集合、増幅させる……そんなイメージ。



これまでの炎のイメージから電気のイメージに変わったのは大分苦労したが。



「これは、使えるな」



弱々しかった電気は指先一点に集まりバチバチと輝く。


試しに落ちていた折れた枯れ木へとその指で触れてみれば……一瞬で発火し、跡形も無く燃えた。


そして勢いを失うこともなく、俺の指でまだ依然と眩しく輝く雷。



仮にこれであの化け物に触れさえすれば一溜りもないんじゃないか?



「……」



新しく得た、強力な攻撃手段。


俺達を苦しめ続け、恐らくこれからも長く戦う事になるあいつらにやっと、というものが見つかった気がした。


勿論、『気がした』ってだけだ。もしかしたら意味がないかもしれないからな。



「……まだまだ」



これは、この電気の力の片鱗に過ぎないだろう。


新しい力に、俺は疲労を忘れている事に気が付く。



あの機械の化け物共に――何としてでも。



「……『充電』!」



俺は再度、身体に電気を灯すのだった。

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