雷電③

夜通し起きていたにも関わらず……俺の頭と身体は起きている。


電気のせいだろうか?いや、違うか。




「……藍、君?」



目を小さな手で擦り、いかにも寝起きな樹。



「おはよう、樹」


「……う……う、ん」



まだ眠たいのだろう、身体をのそりと起こしながら樹は頷く。


まずは色々と片付けるか。



―――――――――――――



「よし、と……それじゃ出かけ――どうした?」



行く気満々の俺だったが、服の裾を引っ張る樹で立ち止まる。


「……ね、寝ない、と……」


心配そうに言う樹。だが俺は今、絶好調に近い状態なんだ。



「はは、大丈夫だよ。……今日は飛ばしていく、いいか?」



俺は笑いそう言って、樹に向き直る。


さっきからずっと俺は昂って、睡魔など入る隙は無い。


俺は、初めて手に入れたこの力を――試したくて、しょうがないんだ。


「……?」


不思議そうに見る樹を、俺は屈みこんで背中に来るよう催す。


俺の意図に気付いたか、樹はゆっくりと背中に捕まってくれた。



「行くぞ、樹。捕まっとけよ」



俺は、待ち受ける敵に向かって走り出した。



―――――――――――――――


俺は靴の補助もあり、猛スピードで灰色の地を移動している。


バッテリーから魔力を補充していたからなのか、靴に魔力を込め移動していても無くなる気配がない。


あれだけ自分の魔力量が少なかったせいか、少し落ち着かないぐらいだ。



「……居たか」



目を凝らせば分かる。


その『擬態』、俺の片腕を食らった機械の化け物……それが4匹。


前よりも数が多いな。



「樹は、ここで待っててくれ」


鞄を地面に置き、俺は樹にそう言う。


「……!」



首を横に振る樹。


心配してくれてるんだろう。唯でさえ前の戦闘で俺は死にかけたんだから。



「はは、ありがとう樹。もし何かあれば頼むよ」



「……」



納得していなさそうな樹だが頷いてくれた。俺の今の様子で、何となく察してくれたんだろうか。


……内にあるのは慢心では無い、油断なんてするつもりもない。


一瞬で俺の命等、吹き飛ぶ事も分かっている。



掲げる勝利は『余裕』の勝利。


それを遂げる自信が、今の俺にはあるんだ。



「――!」



化け物の内一匹が、近付く俺に気付く。



「行くぞ――充電!」



俺はポケットに手を突っ込んで――同時に電気を纏わせた。


バチバチと身体を走る雷電。


何十回と練習したんだ、もう失神などしない。


ゆっくりと俺は化物に近付いて行く。


逃げも隠れもしない、真正面から。



「――……」



一匹が気付けば、当然他も気付き……もう、奴らは完全な擬態状態となっていた。


以前の俺なら混乱しているこの状況。


そう、今まさに後ろから跳ぼうとする一匹にも、俺は気付く事など出来なかっただろう。



「――まずは二匹」



後ろを振り向き、靄をスタッフで殴り飛ばした。


そいつは反応する暇もなく、潰れた姿が見える。


続く斜め右の二匹目も、俺の攻撃に反応する事が出来ない。


当たり前か……





……俺が昨晩に得た電気の力の一つ。


それは――『感覚』の強化だ。


聴覚嗅覚視覚……様々な感覚が、俺に敵の接近、居場所を教えてくれる。


俺の身体で何が起こっているのか分からない。少し怖いが……俺はそれに従うだけでいい。



昨晩は、この感覚に従えるようになるのに大分苦労したけどな。



「ああそうだ、試しておかないと」



左右から近付いてくるのを感じ、忘れていた事を思い出す。


こいつらに電気が効くか試しておかないと。機械だから効くなんて……そんな決めつけはよくないからな。


俺は左右手両方に、迫りくる二匹に備える。


「――!」


「――!」



発想元は、元の世界の『スタンガン』。


人差し指と中指の間に俺の電気を凝縮し、放電させるイメージだ。


俺に纏う電気は、この一瞬だけ俺の両手に集っていき……



雷撃ライトニング!!!」



詠唱の後、二つの指の間に眩いほどの閃光が起こる。



小さな雷との接触と共に、左右に迫った蜥蜴二匹はフリーズした。


擬態も解け……もう、動かない。



どこからか追加でやってきているわけでもなさそうだし、これで終わりか。



理想のシナリオ過ぎて、何だがあっけないな……。



「……」




ふと樹を見れば、絵に描いたように目を丸くしていた。



「実は、樹が寝ている間にちょっと練習しててな。黙っててごめん」


「……!」


首を横に振る樹。


俺は、左腕を手で抑え、口を開く。



「絶対に、昨日の様にはならないようにするから。その為にも、俺はまだまだ強くなるよ」


「……僕、も絶対に――」



その目は、強く輝いて。




「ああ。先へ進もう――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る