エリア

「んー……まあこんな感じか」


今は歩きながら、これまで戦ってきた機械の特徴を綴っている。


歩数を見れば、もうすぐ一万歩を超えそうだ。


「……」


すっかり調子も戻ったのか、樹もいつも通り俺についてきている。


「樹、なんか足すとこあれば書いてくれ」


樹は俺のノートを手に取ると、少しして俺に渡した。


「おー、樹って絵上手いんだな」


俺の綴った説明の横に、簡単な絵が描かれていた。


特徴を捉えていて分かりやすい。狼とかそっくりだ。


「……」


照れているのか、樹は俯く。はは、また新しいのが出たらお願いしようかな。


「あ、そういや樹はまだ蜘蛛には遭っていないのか」


狼と鹿は描かれているが、蜘蛛の横には描かれていない。遭っていないから当然だが。


なんかもやもやするな。


「――……」


そんな事を考えていれば、ふと聞こえる機械音。


前を見ると――丁度蜘蛛が居た。……『二匹』。


幸運な事に、まだ俺達に気付いていない。


「はは、別に会いたかったわけじゃないんだが……二匹か。行けるか、樹?」


「……」


頷く樹。


「纏……増幅」


俺は靴に魔力を込め全速力で蜘蛛に襲い掛かる。


気付く暇も、与えない。


「――らあ!」


振り向く蜘蛛、もう遅い。


コイツは、爪は厳ついが胴体は脆いのだ。


俺は爪と爪の隙間から覗くその胴体へ、思いっきり蹴りをかます。


「――……」


俺の放った攻撃は効いたらしく、一匹目は倒れる。


……止めも必要なさそうだ。


「――!」


当然ながら二匹目が俺に襲い掛かってきた。


爪を大きく突き立てる蜘蛛。


……俺しか、見えてないようだ。


「……!」


一刻経たず、光の矢が爪の間を縫って蜘蛛に突き刺さっていく。


弱点は胴体、それは樹も知っていて。


まあ――これだけの数を浴びせられれば、あんまり関係ないか。


「――……」


怯んだ蜘蛛に止めの蹴りを放ち、戦闘は終わりを告げる。


「……終わったか、まさかこんな楽に倒せるとはな」


敵の情報を知っているのも大きいが、なにより敵を俺に注目させて、遠距離から樹が攻撃といった戦法が使えるのは大きい。


「……」


無言で佇む彼女。


戦闘に参加したいという姿勢は、本当にありがたいし助かっている。


しかしそれは樹にとって危険な事。俺が注意を引き付ける事が出来なければ――化け物は容赦なく彼女を襲う事だろう。


勿論、樹はそれを分かった上で参加しているのも分かる。



だからこそ――俺は、もっと強くならないと。


『余裕』の勝利を、掴むために。


――――――――――――――


どれ程歩いただろう。


歩数計を見れば、3万歩に達しそうだった。


あれから遭遇した敵は居たものの、難なく突破。


しかしまあ……これだけ歩いて3匹しか遭遇せず新しい敵は一匹のみだった。


その見た目は大きな蛇で、動きも蛇そのもの。突然ジャンプして噛み付いて来たのは……まあまあ焦ったな。


俺達の攻撃も何とも奇妙な動きで避けられ続けたが、なんとか首をはねると動かなくなった。


「……分かるか、樹」


俺はふと、そんな事を言う。


「……」


頷く樹。


やっぱり、俺だけじゃない。


歩いていると身体が雰囲気の違いを感じとっている。


何時から始まったのか分からない。これは俺の第六感か――




この灰色の世界の、新しいに入ったような感覚。




説明出来ない、何かが変わった……気がするんだ。


「――…………」


「――…………」


「――…………」


ふと両耳に聞こえてきたのは、ほんの微かな機械音。


それはこれまでの敵とは明らかに違う雰囲気、かつ――それが『三』。


三方向から、三角で俺達を囲んでいるようだった。


ゆっくりと、確実に、俺達を仕留めに来ている。


俺は――渇いた唾を、飲み込んだ。

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