俺達は向かい合って焚き火を囲んでいる。二人だが。


燃える赤が、灰色の地面を紅く……暖かく照らしていた。


ぱちぱちと小枝が鳴る音に、燃える炎の音。



「おお……良い感じだな」



そして……二人で箸に肉を突き刺し、焼いて。


広がる香ばしい匂いが食欲をこれでもかと押し上げる。


そういや、俺も樹もご飯はかなり久しぶりだったか。


「……」


樹も、表情からお腹が減っていると言っている様だ。


「そろそろいいか」


火が通っている事を確認した後、少しだけ肉を齧る。



……何も無いよな……


うん。


変な味もしないし、違和感も無い。


というか思ったより上手いな。鶏肉を少し固くした様な食感だ。


それに独特の風味と香りがあり、それは全く悪いものじゃない。寧ろ良い。


まあ当然味付けなんてしてないから、本当に『肉』をそのまま食べている感じだが。



しかし、今まで食べてきた料理には無いものがあった。


食べて飲み込むと、一瞬で身体に溶け込んでいく感覚、これが心地良い。


魔物だからかは分からないが……これはクセになりそうだ。



「…………」


気付けば樹が横に居た。


こちらを、まじまじと見ている樹。


心配そうに伺う様子から、期待の目になっていっている。


俺の様子から毒は無いと考えたのだろう……その通りだ。


ごめんごめん、待たせたな。


「はは、大丈夫そうだよ。食べて良いぞ」


そう言うと目を輝かせ、もう一本の箸に指していた肉を頬張る。


「……ん……」


美味しそうに食べる樹。


良かった、樹も気に入った様だ。



狼といえど、身体は普通の大型犬程ある。


まあつまり……まだまだ肉があるってことだ。



恐らく、今日の夜では食べきれない。



――――――――――――――――――ー



はい、そう数十分前の俺はそう思ってました。



「…………」



樹はゆっくりと食べているように見えていたが、気付けばもう肉をかなり平らげている。


狼の肉は、部位によって食感が違うから飽きが中々こない。


……それにしても樹は、良く食べすぎなんだが。



「はは、あのさ樹」


「……?」


不思議そうにこっちを向く樹。


「そろそろ肉、明日に保存しとこうかなって」


「…………っ!」


そう俺が言うと、自分が食べていた量に驚く樹。


「……ご、ごめん……なさい……」


恥ずかしそうに頭を下げ、謝る樹。


「はは、良いんだよ。お腹減ってたんだろ?」


別に全く悪い気はしてない。美味しそうに食べてくれて嬉しいぐらいだ。


それに……


「樹は多分魔力量が多いから、その分食べる量が多くなるんじゃないか?」


現に俺は、前の世界より食欲が抑え目だ。


樹は前と比べ、かなり食べている、これはもうそういうことだろう。


「……」


考え込むようにして、納得する顔に変わる樹。



「よし、それじゃ片付けるか」


「……!」


洗い物は任せて、と言うようにポーズする樹。


はは、頼もしいな。

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