サバイバル

機械の狼は、スタッフが直撃すると簡単にバラバラに散らばった。


やはりスピード重視の構造、材質なのだろうか?


攻撃がかすった程度で足が一本無くなっていたのも考えるとやはり脆いのだろう。


「……」


樹は初めての戦闘を終えて安堵してるようだ。


牙を防いだ光のベールの魔法に、狼を逃さなかった壁の魔法。


樹が居なかったら、と考えればかなり俺は苦しかった。


「凄く良かったよ樹。本当に助けられた」


本心のまま、俺はそう樹に言う。


「……」


そんな俺の言葉に首を横に振る樹。


自分なんてまだまだ、そう伝えるように。


「はは、謙虚だな樹は。さて……さっきの奴は……」


俺は生物の方の狼の死骸を探す。


もしかしたら、あれは食料になるかもしれないからだ。


「……?」


ふと樹に俺の裾を引かれる。


見れば、指で俺の探し物を指していた。


「おお、ありがとうな。……うーん、これは中々」


頭をもぎ取られた狼の死骸は、中々にグロテスクな物。


機械の狼に噛み付かれたら……こうなると覚えておかなければ。


それにしても変わった色の皮膚だ。紫色って。尻尾も三本有る。


「……ま、もの……」


そう呟く樹。俺も、全く同じ事を考えていた所だ。


初めて見たな……本当に、前の世界じゃあり得ない造形だ。


「……これ、食えるのか……?」


「……」


二人で、沈黙する事数十秒。



「……取りあえず、焼いたらいいか」



この世界には食中毒菌とかあるのかは知らないが、火を通す事でなんとなく安心は出来る。


火で死なない毒を持ってたら終わりなんだが……


ただ、狼は毒なんて持ってなさそうだけどな。


「樹、毒の回復とかはやった事あるかな?」



「……」


首を横に振る樹。まああったとしてもまだ教わってないだろう。



「そっか、まあ大丈夫だよ」


このまま何も食わないって訳にはいかないからな……もうこの狼は食料確定だ。



当然毒味は俺がします。


「……もうすぐ、夜か」


もう、灰色の景色が暗くなってきている。


気温も少し寒くなった気がする、制服のお陰で快適だが。


さて……夜に向けて準備しないとな。



―――――――――――



少し歩きまわり、灰色に枯れた木々の枝を折り集める。


この木達は、この灰の土地特有の植物なんだろうか。


これが生きているのか死んでいるのかは分からないが……今は凄く助かる。


「……」


樹には、落ちている木くずを集めて貰っている。



「よし、焚き火の材料はこんな所でいいよな……樹、頼めるか」


「……」



樹は頷くと、壁を俺達を大きく囲むように創造する。



「うん、いい感じだ。ありがとう」


次は焚き火だ、確か燃えにくいのを上に、燃えやすいのを下にやるんだよな。


……まあこんなもんだろう。


ライターで着火と。


「……!」


樹が焚き火に反応する。


「はは、もしかして焚き火は初めてか?」


「……」


頷く樹。俺が初めて焚き火にあたった時は、火の暖かさに驚いてたっけ。


暖かさそうに焚き火にあたっている樹を見て、そんな事を思い出す。


うん、火の起こしがいがあるってもんよ。



「さて……んじゃ俺はちょっとこいつを捌いてくるよ。火にあたって待っててくれ」


俺は手に狼を掴み、樹にそう言う。


「ぼ、僕も……」


俺の言葉にそう返す樹。


何か手伝いたい、何か役に立ちたいという意思が伝わってくる。


「はは、ありがとうな。大丈夫だよ」


でも流石に、狼を捌くなんて事は樹にさせるべきじゃないだろう。こういうのは男の俺がやらなくては。


「……で、も……」


俯き、そう呟く樹。


……ああ、そうだ、あれがあった。



『洗い物』だ。俺の水筒や弁当箱、箸等。


これは、水魔法を扱える樹にしか出来ない事だからな……



「……」


少し考える素振りを見せた後、頷く樹。


どうやら納得してくれたようで。



「樹にしか出来ない事なんだ。宜しくな」



俺はそう言い、少し離れた場所に移動する。


よし、それじゃ狼の解体といこう……上手くいくと良いんだけど。



――――――――――――



「ふう」



とりあえず、こんなものだろう。一息入れる。



剥ぎ取った狼の皮の上に、捌いた肉を置いていく。


他の内臓とかは……もう穴でも掘って埋めとくか。



「意外となんとかなったな……ほんと」


狼は食料と割り切ったおかげか、思ったより早く捌けた。


『この世界』では、それぐらい自分で出来なければ生きていけない。


そして何より、俺がやらないと待っている樹はどうなる?


出来ないと思う事も、これから先何度も……無理矢理にでもこなして行かなくては。



そう思えば……勝手に手は進んだ。



それにしても、鋏を持ってて助かったな。俺の能力のおかげか、凄く簡単に、思い通りに切れたのだ。


切れにくいような場所もさくさくっと。


……これ、紙とか切る用なんだけどな。まあ気にしちゃいけない。



「お待たせ、樹」


見れば樹は、洗ったであろうものを焚き火で乾かしていた。


俺の呼びかけに、振り向く樹。


待っていたのか、顔を輝かせる樹。


「……はは」


俺は、笑ってしまった。


樹が待っている、そんな光景は……一日前の俺には到底無かった事。


この灰色の世界で、その光景が見える事は――本来無かったこと。


本来は、『あの時』機械の集団に押し潰されていただろうしな。


でも。


俺の知らない樹の決断が、樹の過去が、樹の思いが。


彼女が、ここへ連れてきてくれたんだ。


彼女が、『あの時』に、来てくれたんだ。



だからこそ俺は生きている。


そして今もずっと、この無口な少女が間違いなく俺の心の支えになっている。


それは今、自然と溢れた俺の笑いが証拠だろう。


「……?」


樹が、不思議そうな表情をする。



「なんでもないよ、樹。ご飯にしようか!」


俺は浮かんだ感情を誤魔化すよう、声を上げる。



……サバイバル生活、初日のご飯だ。

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