夕の、死闘

夕の遭遇②

保存目的の硬いパンは、お世辞にも美味い!とは言えなかった。


むしろ不味い。


……ああ、顔で何が言いたいか分かるぞ樹よ。




「帰ったら夜ご飯か、今日は何だろう」


「……!」



宿の事だろう、考えてるのは。



「あのご飯のためにも、頑張らなきゃな」


「……」



勢いよく頷く樹。


俺も樹も考えてる事は一緒だ。


美味しい物が待ってるってだけで、今日頑張ろうって気になるのは凄いよな。



「あ、そういや樹の回復魔法って、先生に教えて貰ったのか?聖魔法はともかくとして」



なんとなくそんな事を聞いてみる。


今まで、普通の回復だけでなく精神の回復魔法も操ってたからな。



「……」



横に顔をふる樹。


おいおい、薄々感じてたが独学かよあれ。


……そういや、俺もこの魔法はそうだったな。誰にも教えられていない、というか固有魔法だから当然か。



「はは、似てるんだな……俺達って」



俺は、そう小さく呟く。



「……?」



不思議そうな顔をする樹。



「いや、なんでもない。樹とは本当にいいパートナーになれそうだ、これからも頼むよ」


「……」



樹は、少し照れた様子で頷いてくれる。


っと、そろそろ時間だな。



「よし、んじゃ夕方まで頑張るぞ、樹」



――――――――――


変わった事もなく、ミニゴブリン討伐は続いている。


樹の方も、せっせとケラー草を取ってきてくれているな。



「っと!」



十匹程、また襲ってきたのでやり返すと前に平けた場所、池が見えてきた。


さっきのミニゴブリンの集落だろうか?何か色々落ちている。


木の剣や石のナイフ等、やはり粗っぽい。が、中に一つだけ輝く物がある。


拾って見ると、銀色のブレスレットで、赤い石がはめ込まれていた。



「これは……売れそうだな」

「……」



いつの間にか、隣にいた樹もまじまじとみている。



「よし!区切りいいし、これで帰るか」


「……」



頷く樹。どこか疲れた様子、まあ当然か。


俺と違って採集ばっかりだったしな。



「今日も本当にありがとうな、お疲れ様」



俺達は、元の道を引き返していく。


――――――――――――


帰り道、樹と話しながら歩いている。



「さて、帰ったらギルドにこれを渡して……前のロッドと今日のブレスレットも明日、売ってしまうか」



前拾った木のロッドは部屋に置いたままだ。


使い道もないし丁度良いだろう。



「……」



うんうんと頷く樹。そういや、防具とかも買わないとな。



「明日は報酬金で買い物に行くか」


「……」



お、楽しみなの?やっぱり女の子ってショッピングが好きなんだな。



「……」



と思ってると、恥ずかしそうに顔を赤く染める樹。


じろじろ見すぎたか、ごめんよ。


しかし、樹の顔を見ていると考えている事が分かって楽しいのだ。



「……」



そんな事を考えていると、少しジト目で俺を見つめる樹。


ごめんごめん。


っと……出口はそろそろか。


夕焼けの朱が、目にはいってくる。


取り合えず今日はこの森からさよならだな。


俺達は、出口から出ようと足を踏み出す。









――その時だった。







「よう」





その声が聞こえてくると同時に、尋常ではないプレッシャーが、敵意が、俺を襲って止まない。動けない。



絵に描いたような、蛇に睨まれた蛙だ。


圧倒的に、これまで会ってきた人物と違う『強さ』を、俺の第六感が感知していた。






「待ってたぞ」






真っ直ぐ俺を見据えてくる人物を、真っ直ぐ見返すことはできないが。




青い鎧。




ぼろぼろの服。




聞き覚えのある声。




背中にある大きな剣。




そして……この世界では珍しい黒髪黒目。






――この人には確実に、覚えがある。



あの時、確かに居た。話した。




一瞬の、長い静寂の後、俺はその者の名前を告げる。






「アルス……さん?」

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