異変


そういや、今は外灯りはついてるのか?


こんな時間に出歩いたことないからな、危なかった。


灯りがなくて、帰れなかったなんて恥ずかしい。


というわけで、一応灯りになるものを持っていたほうがいいか……


そんなことを思い、親父の形見である、ライターを鞄から手に取る。



……煙草を吸ってる時の親父は、凄く様になっており、小さい時はそれがとてもカッコ良く感じていた。


そんな時使っていたのが、このライターだ。詰め替え式で、いかにも高そうな代物。



「……もう、あれから一年近いか」



俺が死んだら、祐介がこれを使っていいからな、なんて不意に言い出した時は、まさか親父がこんな早死にするなんて思ってもなかったけな……


その言葉通り、形見としてこのライターを貰い受けたというわけだ。



こんな形で使うなんて思わなかったが、使わせてもらおう。


ライターを、ポケットに落とさないようしまっておく。


あとは……もうないか。


また、荷物の確認もしとかないと。俺はもう『ここ』を出るんだから。



「よし、行こうかな」


―――――――――


灯りはついていたようで。


訓練場には簡単に行くことができた。


王女様との出来事ぶりだったか……ここへ来るのは。


結局、最後の王女様のアレの理由も分からないままだ。



なぜ王女様が苦しがっていたのか。俺は一体何をしてしまったんだろう。




……試すか。


本では俺には効果がないとあったが、もしかすると何かあるかもしれない。


そんな期待をして、王女様と同じ事を自分にしてみることにした。


とりあえず、深呼吸。


よし。


まず胸に手を当てる。


その後魔力を流し込んでいくイメージで放出していく。


「増幅」


イメージを口にした、その瞬間。




「……っ!!!」




まるでインクが染みていく様に、胸に広がる魔力の感覚。



同時に襲う全身への痛み、胸の動悸。


魔力を流し込むのを止め、うずくまる。



「はあ、はあ……収まった」



そして耐えること三十秒程度、魔力がごっそりとられた感覚になり、言い様のない気持ち悪さが俺を襲う。


「これは……」


俺の体に何が起こったかは、何となくわかった。


まず魔力量が増え、その後に元々あった魔力量よりかなりの魔力量が消えたこと。


増えた魔力量が、どう考えても俺の魔力量の上限より多いということも、感覚で分かった。


一瞬だけ魔力を上限以上まで増やすのはすごいと思うが、あとの副作用は……


それにその後の魔力量が、元の魔力量よりごっそり減っていたのも考えると、正直使えないと思う。



「はは、でも魔法が使えないから関係ないよな」



吐き捨てるように自嘲する。



「よし!走るか!」



俺は、スイッチを切り替えトレーニングに勤しむのだった。



――――――――――――――


ランニングを場内50週、いつもの筋トレの5倍増し。


この体で強くなると決めたんだ、少ないぐらいでもある。


へろへろになり、ストレッチを始めた所で周りの灯りは消えたようで。


帰りにはライター、使わないとな。


辺りはもう真っ暗だ。


―――――――――――


ストレッチも終わり、帰ろうとしたところで異変は起きた。



「……ライターって、こんな火だったか?」



今の俺の手には、十cm程の火を出しているライターがある。


普通はこれよりかなり小さい火のはずだ。


そんなことを考えていると、次第に火は小さくなっていく。


「なんなんだ、一体……」



異世界だと物もおかしくなるのか?


その『異変』に、俺の頭は混乱する。


まあいい……今日は疲れた、早く帰ろう。

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