纏
朝。
ちゃんと寝て起きるってのも久しぶりだな。
気のせいか、体の調子がいい。
「よし、朝のトレーニングに行きますか」
―――――――――――――
昨日と同じメニューを終わらせる。
さすがに朝から5倍増しだときついな……だが強くなるためにはしょうがない。
「おう、朝から頑張ってるな!」
最後のストレッチをしていると、アルゴンさんに後ろから声をかけられた。
どうやら、時間も結構経ってたみたいで。
「どうも、お久しぶりです」
本当に久しぶりだな……
「うむ。……その、マーリン様にはなんとかならないか言っているのだが、聞いてくれなくてな……すまない。」
そう、アルゴンさんは段々と、申し訳なさそうに言ってくれる。
「いいんですよ、実際俺はダメダメだったんですし……」
そう投げやりに言い、俺は肩を竦める。
「いいや、俺は今までまで勇者様一行を見ていたが、その中で一番欲しいのはお前だ」
アルゴンさんは、嘘をついているようには全く見えなかった。
「俺が、ですか?」
「ああ……そうだ、もしこのまま出ていけと言われたなら、騎士団で面倒を見てやってもいいぞ。歓迎してやる」
その言葉に、思わず泣きそうになる。
「マーリン様が反対するかもしれんが…よそ者だから関係ないだろう」
そう言いながら、笑うアルゴンさん。
「……ありがとうございます。でも俺は、強くならないといけない」
涙声を抑えながら続ける。
「だから俺は……ある意味、ここから追い出されるのも悪くないと思ってるんです」
思っていることを、そのまま口に出す。
「一人で化け物と戦えるようになって、一人でこの世界を生きれるようになって、一人を守れるぐらい強くなったら、帰ってきます」
なんとか、言葉を紡いで言った。
「そういう所が、俺は気に入っているんだがな……まあ良い、そういうことなら分かった。そうだな――もしなにかあったら遠慮なく言ってくれ。」
そう言うアルゴンさんであった。
「はは、ありがとうございます。それじゃ、いきなりなんですが……」
ここまで来たら遠慮なく、教えてもらおう。
「魔力を纏う方法を、教えて下さい」
――――――――――
「そうか……そうだな。」
納得したように頷くアルゴンさん。
そう……俺は魔法が使えない。
すなわち、この少しだけだがある魔力の使い道がないのだ。
そこで、近接戦闘を行う俺にとっては必要な『魔力を纏う』に魔力を注ぎ込む。
「方法といっても言葉で言うと簡単なもんさ。魔力を微量ずつ放出しながらそれを体に纏わせればいい。」
「簡単……に聞こえますけど」
「はは、それで魔力との親和性やら、それに対応した魔力放出量の調整やらで中々大変でな。」
中々複雑な事になってきた。
「まあ……これに関しては、天性の才能を持ってる奴は一瞬で身に付けてしまう。」
ため息をつくアルゴンさん。
「それで……その魔力との親和性ってのが才能なんですか?」
「鋭いな、そうだ。自分の魔力を纏わせることならまあ出来る。そこから魔力を自身の肉体の強化に変換させるのに、親和性ってのが重要なんだ。」
「な、なるほど……」
「親和性が高いほど、纏える魔力量も増えていく。低いと、ただ魔力を放出しているだけになってしまう」
俺の魔力量は少ないから、もしこの才能がなくてもあまりショック受けないかもな。
「親和性ってのは天性のものもあるが、訓練でも伸びる。そうだな……とりあえず魔力を放出して、体に纏わせてみろ」
「はい」
よし、魔力の変形なら任せてくれ。
初めて気絶した時から、『コツ』は色々掴んだからな。
言われた通り、魔力を放出して……
イメージする。
魔力を薄く伸ばしていき、体全体に纏わせるイメージだ。
「纏」
イメージしやすいよう、そう唱える。
構築したイメージと詠唱が重なった時、徐々に魔力は形作られていく。
本当にファンタジーだ。
うん。
……なんか、体が凄い軽い気がする。
もしかして成功?
「……」
アルゴンさんは口を開けてぽかんとしていた。
どうかしたのか?
「う、美しい……」
はい?
「おっと……すまん、実は勇者様一行は全員魔力を纏うことに関してはすんなりいっていてな」
はは、そうですかそうですか……
「だが、お前のような纏い方をしているのを見るのは初めてだ。まるで、絵本の妖精の翼のような……っといかんな」
こほんと咳払いするアルゴンさん。
「まあ、親和性に関しては、お前に天性の物があることは確かだ。かなりの量の魔力を自身の強化に変換出来るだろう。異世界から来ることのに何か理由があるのかもしれんな。」
ふむ、と唸るアルゴンさん。
異世界特典的なモノか?
「よかったです。ただ、自分の魔力が少ないからあんまり意味なさそうですね」
苦笑しながらそう言う。
「はは、そうでもない。これから魔力量を増やしていけばいいからな」
……魔力増やす練習も頑張ろう。
「そして魔力を纏うってことは、魔力をバカ食いする。戦闘の際は気を付けろよ」
「分かりました!」
纏っている魔力は、魔力を放出するのを止めるとすぐに消えた。
「以上だ、おつかれさまだな」
なんか意外とあっさりだったな……
「はい、ありがとうございました」
お礼をいい、訓練所を後にする。
もう騎士団の人がちらほらと見えてきている。
……案外長いこといたようだ。
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