邪魔

「その、彼は……」


「?なんでしょう?」


アルゴンさんが、困ってしまっている。


――こういうのは、本人が言わなきゃな。


「あの!マーリンさん、俺属性魔法適正がないんですよ。」


立ち上がって、そう言う。


……空気が凍った気がする。


「適正が……ない?」


「そうですね」



「……」



「か、彼には固有能力があるんですよ!それだけでも、貴重な存在です。」


アルゴンさんがフォローしてくれる。


「……魔力量はどうなんですか?」


「初めて測った時は1000です。」


またしても、俺が喋ると空気が凍る。


これはあれを付け足さないとな。


「でも、俺の固有能力は魔力量をあんまり使わないみたいで。今は魔力量を増やすよう頑張ってます!」


――どうだ?


「……なるほど。もう自分の能力をお調べになっているんですね。」


「はい。」


「それなら――いい機会ですし、それを披露して貰えませんか?」


……結局、最悪の意味で予想通りになってしまったか。


こうなったらやるしかない。


「分かりました。俺の固有能力は『増幅魔法』です。対象の魔法を強化するんですが……自分は駄目なので、一人呼んでもいいですか?」


「良いですよ。」


よし、なら予定通り……


「雫!頼めるか?」


「へ?え、私?いいよ!」


雫は、そう言うとこっちへ向かって小走りで俺の元へ来る。


「引き受けてくれてありがとな、雫。」


そう言うと、雫は横に顔を振る。


「昨日、今日のこと言わなかった方がよかったね。そのせいで今大変な目に……ごめんなさい」


「はは、いいって。雫の魔法、凄かったぞ?あれ見れただけで来ててよかったと思うよ。」


「そ、そんな、ありがとね」


「いえいえ。それで、雫は魔法を発動をしてくれたらそれでいい。それで俺の固有魔法は発動するはずだ。」


「わ、わかったわ。」


「それじゃマーリンさん、いきます。」


「ええ、いつでもいいですよ。」


よし――やるか。


「雫……頼む」


頷く雫を確認してから、雫の肩に触れる。


雫の体に流し込むイメージで、魔力を放出していく。


「ウォーターアロー!」


――雫が放った魔法は。


全く変化のないままだった。


「……あ、あれ?」


混乱が声に出る。頭は今真っ白だ。


「その、終わりですか?」


「……」


何も答えられない。


「……そうですね、もしかしたら異世界の方にはまだ効果が出ないのかもしれません。よければ、私で試して頂いていいですよ」


「え?」


「『増幅魔法』は文献でこれまでに一人しかいない珍しい固有能力だと昔読みました。そうであれば一度は体験してみたいものでしょう?」


「そ、そうですか……それじゃお願いしたいです。」


そう言ってくれるのなら、お願いするしかない。


「ただ、これでもし何もなかったら……この王宮からは出ていってもらいます。」


へ?


「そ、そんなのあんまりじゃないですか!」


雫がそう言ってくれる。


「属性魔法が使えない、固有魔法が使えないとなると、さすがにそれはもう……厳しいようですが『邪魔』になってしまうのです。」


邪魔、か。まあ一人何もできない奴がいたら迷惑だよな。


「私たちも、人間族の未来を担っているのです。どうかご了承下さい。もちろん、すぐにとは言いません。ある程度の金銭も配布しますので。」


「……分かりました。それじゃマーリンさん、宜しくお願いします。」


「ええ。普通に魔法を発動すればいいですね?」


「はい。それじゃ……」


正真正銘、ラストチャンスってやつか。


出来る気はしないが、諦めるわけにもいかない。


集中しろ。後の事は考えるな。


――よし。


今度は体ではなく、マーリンさんの魔力元に流し込むイメージだ。


こっちの方が流し込むイメージが行いやすい。

それに詠唱も追加して、イメージを補う。


「増幅!」


俺がそう唱えた瞬間。


「――ぐっ……!」


聞こえたのは、王女マーリンの小さな悲鳴だった。


「ま、マーリン様!ご無事ですか!」


アルゴンさんが駆け寄る。


「うっ、だ、大丈夫です……貴方、何をしたんですか?」


そういうマーリンさんの目は、完全に俺に敵意を持っていた。


「俺は……魔力を流し込んだだけで」


「……分かりました。貴方の今後は、また後日使いの者がお知らせします。アルゴン様、私は気分が悪いので失礼しますね。」


そう言うと、マーリンさんは訓練場の外へと向かっていく。


「っ……とりあえず自由時間とする!部屋へと戻っておいてくれ!」


そう言うと、アルゴンさんがマーリンさんを追いかけていく。



一方俺は、この受け入れたくない状況の中で、立ち竦むことしかできずにいた。

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