けものフレンズあらかると

窮兎

みずうみ

 PPPぺぱぷのライブを見るために水辺地方にやってきたかばんちゃん一行。近くにレンタルボートがあると聞いたサーバルちゃんは大張り切りで、空いた時間を使ってかばんちゃんと一緒にピクニックに出かけることにしました。


「あっ、あれかな? れんたるぼーと! ボスも来れば良かったのにねー」


 水辺に作られたボードウォークをしばらく歩いて行くと、ボートが何隻もとまっている係留所が見えてきます。


「バスのメンテナンスじゃ仕方ないよ。この先の道も大変そうだし」


 ボートの手前には休憩用に屋根付きのベンチが二組置いてありました。目の良いサーバルちゃんは、そこに誰かがぽつんと座っていることに気が付いたようです。


「あれ、誰かいるみたい。休憩してるのかな?」

「ボートの管理人さんかな?」


 近付くと、青と赤の羽毛をまとった、鳥のフレンズのように見えました。彼女は何か悩んでいるらしく、二人が近くに寄っても気付かずにため息をついていました。


「こんにちは!」

「うわぁっ! ビックリしました!」

「こ、こんにちは」


 いきなり視界に入った上に、相手の呼吸が整わない内にサーバルちゃんは自己紹介を始めてしまいます。


「私はサーバル。こっちはかばんちゃん。よろしくね!」

「ど、どうも」

「ご、ご丁寧に。私はリョコウバトと申します。……はぁ」


 流れに乗って挨拶してしまったリョコウバトさん。相変わらず物憂げです。


「リョコウバトさんはボートの管理人さんなんですか?」

「いえ、そういうわけでは。ボートは自由に乗って良いみたいですよ」

「元気ないみたいだけど、どうしかしたの?」

「……聞いて下さいます?」

「わたしたちで良ければ聞くよ!」


 サーバルちゃんの言葉に、かばんちゃんも黙って頷きます。


「実は……私、仲間を探してつい先程この近くに着いたんですけど、ちょっと休める足場を探してまして」

「ふむふむ」


「丁度良い足場があったのでとまってみたんです。でも、上に乗った感じが少し柔らかくて……よく見たらそれが、フレンズさんだったみたいで……」

「ええー! それでそれで?」


 リョコウバトさんの上手な話に、二人は興味津々です。


「私が上に乗っても全く動かないんです。顔も水に浸けたままだったし、もしかしたらあれは……考えたくはないんですけど……」


 それを聞いたサーバルちゃんとかばんちゃんは、自分たちの血の気がさーっと引いていくのを感じました。


「み、水に顔を浸けて遊んでただけじゃないのかな……?」

「それが……空から少し様子を見ていたんですけど、全然動かなくて……もしセルリアンに襲われたフレンズさんだったらちょっと可哀想だなって……」

「ど、どうしようかばんちゃん!」


 かばんちゃんは下を向いて何か考えていたようでしたが、小さく頷くと顔を上げてこう切り出しました。


「ここで考えてても仕方ありません。リョコウバトさん。まずは、そのフレンズさんのところまで案内してもらえませんか?」

「は、はい。でも、その後どうするんです……?」

「それはその後考えましょう。サーバルちゃん、ボートをひとつ借りて行こうか」

「え! ぼーと乗るの!? やったー!」


 こうして三人は、そのフレンズのところに行ってみることにしました。




「あ、いました! あそこです!」


 空からの知らせを受けて、かばんちゃんはサーバルちゃんに進路を伝えます。そのまましばらくボートを進めると、水面に浮かぶ小さな影が見えてきました。


「サーバルちゃん、近くに寄れる?」

「任せてよー!」


 最初にボートのオールを使っていたのはかばんちゃんでした。でも、途中からいつもの「何これ何これ! すっごーい!」が始まったサーバルちゃん。オールの使い方を教えてもらった彼女は、すぐコツを掴んでボートを動かせるようになったのです。


 近くに寄ってみると、どうやら本当にフレンズが水に浮かんでいるようでした。ぴくりとも動かない様子はやっぱりちょっと怖いですが、このまま帰るわけにもいきません。かばんちゃんはそのフレンズに声をかけてみることにしました。


「こ、こんにちはー」


 返事はありません。それを見てサーバルちゃんも声を出します。


「こんにちは! わたしはサーバルキャットのサーバルだよ! 何してるの?」


 やっぱり返事はありません。思わず二人は顔を見合わせました。リョコウバトさんも悲しそうにうつむいています。見かねたかばんちゃんは、思い切って触ってみることにしました。


「あ、あの、すみません!」


 ボートから手を伸ばして、背中の辺りを揺すってみます。すると


「ふわぁ、よく寝たぁ」


 と、そのフレンズはゆっくりと水面に顔を出しました。動きは緩慢だったのですが、動くと思わなかったかばんちゃんはびっくりして


「た、食べないでください!」


 と叫んでしまいました。


「んー? 大丈夫、食べないわよぅ」

「私はサーバル! こっちはかばんちゃん! あれがリョコウバト! ねぇ、水に浮かんで何してたの?」


 彼女は水に浮かびながら、全員の顔を見回すと


「あたしはステラーカイギュウ。仲間を探してこの辺まで来たんだけど、ここの水辺が気持ち良かったから気に入っちゃってねぇ。最近はよくお昼寝してるのよぅ」


 と言いました。


「なーんだ、そうだったんだね。みんなで心配しちゃったよー。ね、リョコウバト!」

「はっ、はいっ! ……あの、私間違えて上に乗っかっちゃったんですけど、その、大丈夫でしたか?」

「そうなのぅ? ごめんねぇ、寝てて気付かなかったんだぁ」

「そ、それなら、良かったんですけど……」


 ふと、かばんちゃんはあることを思い出しました。


「そう言えば、リョコウバトさんも仲間を探してるんでしたよね?」

「え、ええ、まぁ、そうですね」

「あらぁ、そうなのぅ。奇遇ねぇ」

「そっかー! あっ、そう言えばかばんちゃんも同じだね!」

「あっ、うん、そうだね」

「ね! 折角会えたんだから、みんなでお友達になろうよ!」


 サーバルちゃんの言葉を聞いたかばんちゃんは、自分のかばんの中からジャパリまんを取り出しました。


「こんなこともあろうかと、多めに持って来たんだ」

「さっすがかばんちゃん! みんなで食べよ!」

「えっ、私もいただいて良いんですか? 丁度お腹空いたところで」

「あたしもあたしもぉー。ありがとうねぇ」

「どういたしまして」


 四人は近くの浮島で一緒にジャパリまんを食べることにしました。



 それぞれの旅の話をしていたら、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいます。サーバルちゃんとかばんちゃんはそろそろ岸辺に戻ることに。


「そうそう、ボートのご利用、ありがとうねぇ」

「えっ、ボートの管理人ってステラーカイギュウさんだったんですか?」

「うん、水に浮かんでたら博士に頼まれてねぇ。でも結局誰も使わなかったから、あたしも何もしてなかったのよぅ。あなたたちが初めてのお客さんかなぁ」

「そうだったんですか」


「ぼーと楽しかったよ! 今度二人で乗ってみると良いよ!」

「そうですね、今度一緒に乗ってみましょうか」

「うん、そうしてみるよぅ。」


 リョコウバトとステラーカイギュウは、もう少しここでお話していくんだそう。


「今日はありがとう! かばんさんの仲間も見つかると良いですね!」

「ごちそうさまぁ。近くまで来たらまた寄ってねぇ」

「またねー!」

「二人とも元気でー!」


 そうして、サーバルちゃんとかばんちゃんは、みんなの待つ岸辺へと帰っていったのでした。湖で出会った新しい友達に大きく手を振りながら。

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