第3話

 郵便配達員が交代してから、一週間が経った。

 その日も郵便車は、夕方近くになってやって来た。郵便車を降りてアマラットの前に現れたのは、先週同様の無愛想な配達員だった。

 ひょっとしたら、何日分かの手紙を持っているのではないか。少年は少なからず、そんな期待を持っていた。果たして、配達員は一通の手紙を持っていた。だが、それは少年が期待していたようなものではなかった。

 配達員は、持って来た手紙を少年に差し出した。少年は目を見開いた。

「これって……」

 それは先週の同じ時分にアマラットが配達員に渡した、家族への手紙だった。なぜ、その手紙が、今ここに在るのか。

「この住所にな、マッシルダという姓の者はいなかったよ」

「そんな」

 その言葉は、アマラットに落雷のような衝撃を与えた。

 少年は、信じていた物がガラガラと崩れて行くような気配を感じた。

 配達員は言葉を続けた。

「お前さん、家族とは毎日手紙をやり取りしていたと言ったな」

 少年は呆然としながらも頷いた。

「だがな、郵便記録には残っていないんだよ。お前さんの手紙も、家族から送られたという手紙もな。これがどういうことかわかるか?」

 少年は首を振った。

「だろうな。真実を知っている者は、一人だけだ」

 その一人とは、今は亡き前の配達員のことだと、アマラットにもわかった。

「また一週間後に来る」

 アマラットに手紙を返すと、配達員は足早に去って行った。

 少年は、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 一方、彼の中で、その無愛想な配達員に対する印象が、最初に感じたものから変化し始めていた。


 その次の一週間で、アマラットは過去に家族から受け取った手紙と、自らの記憶を整理した。

 最初の頃から、段々と頻度が下がっていた家族からの便り。最も間隔が長かったのは、七ヶ月前ごろ。その時の手紙は、その前から十日後になって届いた。それから、徐々に頻度が上がった。半年前にはもう、ほぼ毎日手紙が届くようになっていた。

 一通り手紙を並べて見て、気づいたことがあった。七ヶ月前以前は、ときどき便箋や封筒の種類が変わることがあった。しかし、この七ヶ月間は同一種類のものが使われていた。

 また、最近届いた妹からの手紙と、一年近く前に届いたものとでは、筆跡がまるで別人に変わっていた。

 アマラットの中で、徐々に真相が明るみに近づいていた。



 更に一週間が経って、無表情な配達員がアマラットのシェルターを訪れるのは三回目となった。

 その日、配達員は大量の手紙を持っていた。それらの手紙の正体について、アマラットには一目で察しがついた。

「前の配達員の自宅から見つかったよ。危うく処分されるところだったが、家族も郵便庁の関係者だったから助かった」

 それらは全て、アマラットがこの七ヶ月間で家族に宛てて書いた手紙だった。


(第4話に続く)

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