第23話 2:6:2の法則

 「監督、これで今年も我がチームの優勝間違いなしですな」

 総合コーチの言葉に、監督はメンバーの一覧表を眺めながら眼を細める。それは、昨年末のトレードが、上手くいったことを表しているのであろう。


 「なにしろ、敵チームの4番バッターを引き抜いたうえ、これから育ってくるであろう若手ピッチャーまでも獲得することができたのですからな」

 総合コートの鼻息が荒くなるのもうなづける。


 打撃コーチが続ける。

 「そのうえ、大リーグからは昨年首位打者の補強もできたとは、まさに夢のようでございますな」


 ピッチングコーチも負けてはいない。

 「それを言うなら、投手陣も完璧ですぞ。なにしろ、パリーグよりエース級を3人も獲得できたのですから」


 監督がたずねる。

 「ところで先発投手は、何人になったのか?・・・」

 すかさず、投手コーチが答える。

 「先発のエース級が10人もおります。この中で誰を選んだらよいのか、今から迷っているしだいです・・・」


 「打線の方か如何か?・・・」

 こちらも、打撃コーチが胸を張る。

 「他のチームでも4番を張れる打者が5人もおります。どのように打順を組んだら良いのか、嬉しい悲鳴ですよ・・・」


 こうして、今年のプロ野球は開幕した。優勝候補の筆頭にとあげられていた「グレートスターズ」は、出足こそ好調だったものの、次第に脱落者が増え、今ではその実力を発揮できているのは、チームのおよそ五分の一程度であるという。


 「他チームからトレードした有能な選手らはどうしたのだ?・・・」

 監督が打撃コーチに尋ねる。

 「はあ、それが自分が打たなくとも他の誰かが打ってくれるだろうと、練習を少しばかりなまけまして・・・」


 「大リーグより移籍させた男だが、昨年向こうで首位打者というのは本当の話なのか?・・・」

 「はい、その件は確かに・・・ ただ、彼も他の選手のビッグネームに驚いたのか、ここのところすっかり練習にも身が入っておらぬのいうこと・・・」


 ひとつ溜息をつきながら、監督は今度、投手コーチの方に顔を向ける。

 「それにしても、ひどい有様だな・・・」

 うな垂れる投手コーチ。

 「エース級が10人と言っていたが、まともに働いているのは2人ぐらいではないか・・・」


 「はあ、残り6人も努力はしているのですが結果が残せず、あとの2人においては、もう解雇してもよろしいかと・・・」

 

 「これならば、トレードもせず、高額な金を払って大リーグより移籍などさせることもなく、昨年優勝したメンバーをそのまま出場させていた方が良かったかもしれぬではないか・・・」

 そう言うと、監督はベンチでくすぶっている選手たちを思わず見詰めた・・・

 


【2:6:2の法則(働きアリの法則とも言う)】

「さまざまな物事を3つのグループに分けると、その割合が2対6対2になる」という法則。例えば、100人の従業員を「優秀な社員」「普通の社員」「ダメな社員」の3つに分けると、その割合はおよそ、20人:60人:20人、つまり2:6:2の割合になるという。これは「働きアリの世界」でも同じことが言えるのだとか・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る