第9話 10000時間の法則
「教授、今日でこの修行をやり始めてから、ちょうど10年続けたことになります」
助手の男は、得意そうに教授に語りかける。
「一日3時間、毎日毎日同じことを続けてきたお陰で、僕はついに10000時間を費やすことに成功したのです」
助手の顔は、実に晴れ晴れとしている。
教授はフラスコで湯を沸かしながら、そんな助手を誇らしげに見つめる。
「『石の上にも三年』とは、昔の人もよく言ったものだな・・・」
教授の言葉に、助手も
「全くその通りです。何かひとつのことを成し遂げようとするならば、やはり10000時間を費やす覚悟と忍耐力が必要だということです」
助手の顔は、すでに自信に満ちあふれている。
教授は沸かした熱湯を、カップラーメンの器に注いだ。そして、自分の腕時計の時間を確かめる。
つまりはこれから3分間、ラーメンが出来上がるまで待つ時間である。
しばしの沈黙。
「それにしても君は素晴らしいことにチャレンジしたものだね。ところで、君は・・・」
教授の言葉を遮るように、助手が声を上げる。
「教授、3分経ちました。カップラーメンを召し上がらないと・・・」
教授は再び自分の腕時計に目を落とす。
「おっ、本当だ。いつの間にか3分が過ぎているようだ・・・」
助手はニッコリと笑顔を返す。
「ところで、君はどんなことに10000時間を費やしたのかね?・・・」
助手の男は胸の辺りを左手で押さえると、右手の人差し指を左右に振って時を刻む真似をする。
「毎日3時間、ずっと時計とにらめっこをしていたのです」
「にらめっこ?・・・」
教授は不思議そうな顔で首を傾げる。
「お陰で、誰よりも正確に時間を刻むことができるようになりましたよ」
「ほう・・・」
教授はカップラーメンの汁をすすりながら、感心したように頷く。
「それは大した能力ではないか! しかし、どれくらいの正確さなのかね?・・・」
さすがは、研究室の教授である。彼は助手が極めた能力を、早くも研究に行かそうと考え始めているのだ。
助手はストップウォッチを教授に手渡しながら、得意そうに答える。
「一時間以内ならば、誤差はおよそ1秒か2秒ですね」
「大したものだな」
教授は大きく目を見張る。
「では早速、その能力を試させてもらおう。実はこの菌の培養なんだが、今から12時間ぐらいを目安と考えている。私はいつも忘れてしまって、時間を超過してしまうんだよ。だから今回はその役目を君に任そうと思うのだが・・・」
「12時間?・・・」
助手は少しだけ苦々しい顔をする。
「教授、僕が極めたのは一日3時間以内なんです。それ以上は、僕にはちょっと・・・」
【10000時間の法則】
ある分野で成功するために必要と言われている時間は、約10000時間と言われている。
つまりは、1日3時間を毎日、10年間継続すれば約1万時間になるという計算。
毎日コツコツと進歩継続することの大切さを教えてくれる法則です。
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