時を止める能力をこっちの世界観に当てはめてみる
雨天紅雨
質問です、お答えください。
Q.時を止める能力者には、どう対応しますか?
A.朝霧芽衣
質問の意図がよくわからないが、それは対峙して戦闘に勝てと、そういうことか?それならば、簡潔に〝不可能だ〟と返事をするしかない。
だが、そもそも相手を殺して終わりならば、時間を停止される前に殺してしまえばいいだけのことだ。
――それ以前に。
まず大前提として、不可能であるとした場合、最初から〝戦闘で対峙する〟という状況そのものが選択ミスだろう? であるのならば、戦闘をしないことが第一だ。更に言えば、対峙しなくてはならない可能性を潰すことに尽力しろ。
いいか、確かに世界は広いので、そうした能力――ないし、術式があるかもしれん。それに関して文句を言ったところで、現実は何も変わらん。だが、その現実を目の前にした時、それを、どうしてそうなったのだと悔やむくらいなら、最初から想定しておくべきだ。
それは自動的なのか? 半自動的なのか? それともアクションが必要か? であれば、どのタイミング、どの状況、そして、どうやればいい?
想定に想定を重ねろ、そこに無意味なことなどない。そして、できないのならば、いつか来るかもしれないその時のために、訓練を重ねて、できるようにしろ。仮にそんな状況が訪れなかったとしても、それが無駄になることは、ない。
つまり、質問への返答はこうだ。
対応など、対峙して戦闘をする〝前〟から始まっているものであり、現実に目の前でそれが行われた以上、勝つことはできない。そして、私の部下にはこう教えてある。
どうしようもない現実を前にしたのならば、想像力が足りなかった己を呪い、そして、抗いながら笑え――とな。
ふむ? 私の現実的な対応?
そうだな、仮にそのような人物がいたとしたら、戦闘にならないよう尽力する――つまり、敵にならないよう立ちまわることを優先するか、あるいは、こちらに気付かれる前に、相手が私の存在に気付くよりも前に殺しておく。それができなかったのならば、それは私が間抜けだったと、その証明になるだろう。
戦場では、現実を目の前にして対処するのでは、遅いのでな。以上だが、質問はほかにあるか?
……ふむ。
では私から逆に問いかけよう。
そもそも――〝時を止める〟などと、本当に可能だと思っているのか?
A.鷺城鷺花
……は?
え、なに? もう一度。
Q.時を止める能力者には、どう対応しますか?
……、で?
誰が答えた?
――ああそう、芽衣ね。ふうん。
Q.お答えいただけますか
え? ……ああ、先に結論だけ言っておく。
答えられない。
Q.え?
そもそも現実的に、時間を停止することは不可能だから。
人が未来に行けない以上、そして過去に戻れない以上、時間は停止しない。何故ならば停止した時間は現在であり、現在とは即ち、常に流動するものだから。
逆に言えば未来に飛ぶことができる仕組みがあって、過去に戻って現実を変えることが〝立証〟できる世界ならばあるいは、時間を停止することも不可能ではないでしょうね。けれどこの場合における時間の停止とは、全ての物事において停滞ではい無を生むことにも通じるし、世界の器そのものが破綻していなくては難しいでしょうね。そして、世界が破綻したのならばそれは、人という存在が生活することはできない。
――ただし、真に迫ることはできる。
時間と呼ばれるものには二種類ある。それは人がいる以上、主観と客観に分類されるように、あるいは客観そのものを他者の主観と捉えるように、時間もまた受ける側によって――ああ面倒。つまり、体感時間の話。
ここで気絶した人間にとっては、時が止まったようなもの。気絶させた人間は好き放題できる。
簡単に言えば以上よ。
Q.難しく言うと?
……。
ああはいはい、それほど難しい話じゃないけれどね。
相手の意識を奪い、認識を奪い、気絶状態を引き起こすような術式はあるし、そう難しくもない。けれど、簡単ならば対処そのものもできるわけで、実用に足るかと問われれば、私は、知っておいて損はないけれど使う機会はほぼないと、そう答えるわね。
だからここからは、世界的における時間を停止し、その中で停止させた本人が動ける――ということに関する話をしましょう。
時間というのは、あるいは世界とは、延延と続く動画みたいなものだと想定するとわかりやすい。仮に、世界そのものに干渉するどころか、世界を創った存在があったとして、その人が時間を停止させたとする。プレイヤーによってはスペースとか、クリックとかで動画なんて止まるでしょ。
けれど、停止したことを私たちは感じることができない。だってそうでしょう? 再生されなくては動けないし、意識もできない。ここらはわかりやすい。
さて、仮に――その中で動ける人がいたら?
そもそも世界なんてものは精密機械よりも緻密に組み立てられているもので、例外そのものはあれど、
消せないのならば、世界が壊れる。それだけ精密にできているからこそ、私たちは生きていられるんだもの。法則があって、器があって、上手く均衡が保たれているわけ。
だからまあ、私の見解としては〝ありえない〟よ。
最初から世界なんて、停止できるように作られておらず、長い刻をずっとぐるぐると続けることを想定されているし、いつだって足を止めるのは人だから。
――以上よ。なにか質問は?
……ん、よろしい。
けれど覚えておきなさい。〝誰か〟の時を止めることなんて、本当は簡単にできるのよ。できるから――やってはならないの。
A.
あー?
……とりあえず教えてもらって、エロいことに使えばいいんじゃねーのか?
そんくらいの認識が一番だぞ。
A.
能力者がどうかは知らんが、時が止まったヤツは知っている。そういう相手への対応は――覚えておくことだ。
一瞬の隙を衝かれてヘッドショットを受けたヤツ。
しんがりを引き受けると言って、帰ってこなかった仲間。
――死ねば、そこで連中の時は止まる。続けることはないし、続くこともない。だから俺みたいに、まだ生きているヤツが、形見分けを受け取って忘れないよう覚えておく。
せめて、覚えながら、背負って、代わりに自分がと生きる。
俺たちはそれが、死んだ連中にとっての望みだと信じて疑わないし――疑ってはならない。だから生きろと、己に言い聞かせるためにも、形見分けを見るたびに、思い出して苦い酒を飲む。
忘れてしまうことが、もっともいけない対応だ。
時を止める能力をこっちの世界観に当てはめてみる 雨天紅雨 @utenkoh_601
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます