飛翔、そして歌唱

うぃど

PPPとトキ

「わたしはトキ~♪」

「相変わらずの歌声だねぇ~。紅茶あるよぉ~?」

そう声をかけたのはアルパカだった。ここはジャパリカフェ、トキはマーゲイからの依頼があった後ずっとこんな調子で歌い続けている。

「せっかくいろんなフレンズの前で歌う機会が出来たんだもの。紅茶いただくわ、ありがとう。」

トキは椅子に腰かけ休憩をとりながら、一月後のライブについて考える。依頼が来たのは数日前のことだった。


 「ふぁぁ! いらっしゃ~い! よぉこそぉ、ジャパリカフェへ!」

ジャパリカフェの扉を開いて入ってきたのはPPPのマネージャーを務めているマーゲイだった。

「こんにちは、アルパカさん。トキさんがここにいるって聞いて寄ったのだけれど。」

「なんだぁお客さんじゃないのかぁ。ペッ」

「いや、いないようだからここで待つわ。紅茶いただける?」

そういうとマーゲイはメガネをはずし腰かける。少し疲れているようだ。

「さぁどうぞぉ~。今日はお客さんもあんまりコナイネー。」

アルパカは愚痴っぽくこぼす。その時、扉が開いた。

「あら、お客さんがいたのね。ただいま」

「あ、おかえり~。マーゲイがトキに話があるらしいよぉ~。」

「そうなの?」

「はい、実はですね……」

マーゲイの話によると、PPPが空中ライブをやりたいと考えているらしく、鳥のフレンズに手伝ってもらえるよう依頼して回っているらしい。

「面白そうね、手伝ってもいいわ。ただ、」

「ただ?」

「わたしにも歌わせてほしいわ。大きな舞台で歌ってみたいの。」

その提案にマーゲイはしばし固まった。トキは音痴で有名なフレンズなのだ。

「うーん、まあいいでしょう。空が飛べるフレンズは必要ですし。」

自分で提案したにもかかわらずトキは驚いた様子で目を瞬かせた。

「ふふっ、楽しみね。」

 そんなこともあり、トキは必死に歌の練習をしている。飲み終えたカップをアルパカに渡すと練習を再開するのだった。


 そのころPPPは、空を飛んだ状態での振り付け練習をしていた。

「フルル!また振りが遅れてるわよ!」

プリンセスの指導もひとしお気合が入っている。

「気合入ってるなプリンセス」

「そうだな、ペンギンの宿命なのかもな」

そう、ペンギンは空を飛べないのだ。それ故今回の空中でのライブはペンギンとしての悲願を叶えるライブでもある。

「そこ、おしゃべりしない!」

ほかのメンバーも気合を入れますます練習に励むのだった。


 そして時は過ぎ、現地練習も回数を重ねたある日、突然トキが失踪した。

「アルパカさん、彼女がいきそうな場所分かる?」

「最近カフェにも来てないのぉ、分からないねぇ」

「そうですか……」

スタッフ総動員で探しているのになかなか見つからないようだ。

「ほかに空を飛べるフレンズはいないの?」

「いるにはいるんですが、トキさんは歌を歌う約束もあるので……」

どうやらプログラムに組み込まれているらしい。さらに、トキはプリンセスが飛ぶために重要な役割を持っているのだ。

「どこに行ったのよ、トキは」

プリンセスも少し機嫌が悪い。

「プリンセスだって最初のライブでどこか行っちゃっただろ~」

「そ、そんなこともあったけど……!」

「ま、とりあえず探さないとだよなあ」

「あ、もしかして!!」

「何か思いついたのか?プリンセス」

「うん、ちょっと待っててね!すぐ連れてくるから!!」


 「もし、歌うことをあきらめてなかったらもしかしたら」

そう呟きながらプリンセスはヒグマのもとに向かった。すると思った通り、トキはそこにいた。

「やっぱり」

「どうしてここが?」

「あなたがもし歌うことをあきらめてなかったら、ハチミツを探すんじゃないかしらと思ってね」

そこにヒグマが割って入る

「いや、ハチミツなんて持ってないぞ」

「というわけなの。」

トキは同意するようにつづけた。

「じゃあどうして……」

「実は火でお湯を作ってもらっていたの。紅茶を飲もうとして。」

「アルパカさんに頼めばいいじゃない」

「アルパカには迷惑をこれ以上かけたくないの」

そういったトキにため息をつきながらプリンセスは諭す。

「フレンズに遠慮なんて不要でしょ。あなたが頼めばアルパカさんは答えてくれるはずよ」

「でも、わたしばっかりいい思いをしている気がするわ」

「あなた、ステージで歌うのが夢なんでしょう?たまには助け合いも必要よ」

それでも煮え切らない態度のトキにプリンセスは咳払いをして語り始めた。

「あのね、わたしファーストライブの直前に逃げ出しちゃったのよ。先代にロイヤルペンギンがいないことを気にしてね。でもその時ね、仲間に言われたの。『プリンセスがいないとダメだ』って。いわれて初めて気が付いたわ。私があの子たちを頼りにしてた分、あの子たちにも頼りにされてたってこと。あなたもほかのフレンズに頼りにされてるはずよ。それに」

「それに?」

「あなたがいないと私の夢も叶わないのよ!私の飛ぶっていう夢が!頼りにしてるのよ」

長い沈黙の後、トキは口を開き

「分かったわ。戻りましょ。」

とつぶやいた。


「プリンセスほんとに見つけたのか!」

「まあね、私の手にかかればこんなものよ」

などと会話をするPPP。その後ろに隠れてアルパカの様子をうかがうトキ。何も言い出せないトキにプリンセスは、

「アルパカさんに話があるそうよ。」

と先を促す。アルパカは頭に疑問符を浮かべながら話す。

「話ってなーに?」

「あの、紅茶を入れてほしいの」

するとアルパカは当然といった調子で

「分かったよお!今すぐ入れてくるねえ!」

と意気込む。ホッと胸をなでおろす一同。ライブはあと一週間後に迫っていた。


そしてライブ当日。

「今まで練習お疲れ様!今日が本番よ、練習の成果を出しましょ!」

そうみんなに気合を入れるプリンセス。みんなはそれぞれに意気込む。

「企画提案をしてくれたかばん。手伝ってくれたサーバル、アルパカ、博士たち。そして鳥のフレンズのみんな。みんなのおかげで夢をかなえることができる。本当にありがとう!」

「何を言っているのですコウテイ。感傷に浸るのはライブの後でいいのです」

「そうですよ、コウテイさん!今は精一杯ライブを楽しみましょう!」


「トキ、緊張してない?」

空を飛ぶ直前、プリンセスは声をかける。

「大丈夫よ、アルパカに紅茶ももらったし、それに」

「それに?」

「ううん、何でもないわ。じゃあ、夢を叶えましょうか」

「うん、そうね。行くわよ!」

飛翔、そして歌唱。二人の夢はこの瞬間、実現したのだった。

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飛翔、そして歌唱 うぃど @wid

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