第四章 その五

 はっきり言って、今まで私に思いを寄せてくれた男性もいなかったし、あの頃の禁断の思いを彼に伝える気もなかった。

 それに、今の私を彼に見せたくない。私の最後に残ったプライドがそれだった。


 私はまた、アパート暮らしに戻るしかなかった。

 あの半年間で得た金額は三百万。それに手切れ金は二百万の計五百万。舞を探す資金にしたのは百万円ほど。そして手切れ金の一部は探偵に依頼金として支払った。それでも手元にはそれなりに残った。私は老人にも探偵にも騙されていたのだろうか。

 手元には金しか残らず、舞の情報を得られず、ただ人形として生きた。そんな半年だったように思う。


 でも、私は生きている。まだ、生きている。

 生きるには金がいる。どうやって金を稼ぐか。それだけを考えるようになっていた。だから、金になることは犯罪以外のほとんどをやってきた。いや、もしかすると露見していないだけで犯罪には手を貸していたのかもしれない。私自身にはその自覚がなかっただけで。

 

 仕事中は何も考えていない。ただ、その時間を言われたとおりに、必死にこなす。そして、金を得る。全ては失われたもう一人の自分を探すため。そのためならどんなことでも耐えられる。

 誰に抱かれていようと、誰かと刹那の愛を演じていても。金を手に入れられさえすれば良かった。だから、どんなことでもできた。

 そして、いつしかあの社に行くことも忘れていた。


 私を現実に引き戻したのは・・・あぁ、なんということだろう。まさかこんなところであの人に会うなんて・・・あの人にだけは見られたくなかった。目的を見失い、金だけを得るために体を売る私の姿を。彼を見た時、私の中の全ての感情が弾けた。

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