寂夢 二 『静かな時間』
第二章 その一
「次は~、××町~。××町~。」
どうやらもうすぐ目的地に着くみたいだ。ノイズ混じりのアナウンスが耳に届いたのか、青年は大きな伸びをして目覚める。バスの中ではあまりに暇だったので眠っていたようだった。
それにしてもあの夢は一体何だったんだろう。妙にリアリティのある夢だったな。そう俺は海外旅行中で、それで・・・って夢の回想は今はいいか。まずは降りる準備をしなくちゃなぁ。
それにしても・・・思っていた以上に過疎化が進んでいるんだな。このバスにも俺一人しか乗っていない。
「あ、次で降ります。」
運転手にそう告げてからしばらくしてバスが停留所に停車した。
「えっと、おいくらになりますか?」
青年は財布を手に運転手に尋ねた。
「二百八十円です。」
愛想の良い運転手だ。笑顔で答える。
「ありがとうございました。」
青年も笑顔で返し、運賃を支払う。
「どうも。お気をつけて。」
運転手に笑顔で見送くられる青年。
久しぶりに地面に降り立った青年。
青空が広がり、眩しい日差しが降り注いでいた。もうすぐ夕方になろうかという時間ではあったが、海辺の爽やかな風が心地よく吹いていて、夏場の日の日差しをちょど良い程度に軽減してくれる。
それにしても見事なまでに何もない町だ。
こんな街に好条件の就職先があるだなんていまだに信じられない。しかも、最終面接まで進めるだなんて夢のような話だ。ここまで全戦全敗を繰り返した俺にとってこれが最後の勝負と言っても過言ではない。
「さて、予約した民宿は・・・」
青年はスマホを取り出し確認しようとしたが・・・
「うわっ、圏外?マジかぁ。まぁ、地図も印刷してきたから抜かりはないんだけど・・・」
そう言って印刷した地図を取り出す。どうやらバス停から歩いて30分くらいのところにあるらしい。のんびりと歩きながら今日の宿に向かって歩いていく。
「まぁ・・・いっかぁ。目的地はわかってるんだし。この景色でも楽しみながら行けばいいだろ。それに、海っていうのはあまり見たことがないから近くで見たいしな。」
そう言って海辺に向かって歩いていった。
ちょうどその時入れ違いのようにそこに現れた女性がいたのだが、彼が知るはずもなかった。
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