第一章 その四

 舞と二人で並んで歩くこと20分ほど。

 話した内容と言えば、ほとんどが俺の大学のことだった。それも、舞が聞きたいというから話したのであって、俺が本当に聞きたかったこと、『舞がどうしてあそこに一人で住んでいるのか』ということは聞けないでいた。


「あ、和樹さん。あそこですよ。」


 そう指さした先には確かに立派な店がある。店舗の大きさはコンビニくらいだろうと思っていたのにちょっとした大型スーパーと同じくらいの大きさがある。駐車場もあり、車も何台も止まっている。けれど、そこに停まっている車は近頃はほとんど見ない車ばかりだ。見たことがないといっても外国製とかそういったことではない。そう、少し昔の映画では見たことがあるレトロな感じの車だ。


「結構・・・想像以上に立派で驚きました。」


 率直な感想を伝える。


「驚きましたか?でも当然ですよね。この土地に似つかわしくない感じですものね。」


 少しだけ声を出して笑いながら自嘲気味に言う。


「まぁ、そうですね。確かに、こんな立派なものがあるとは思ってませんでした。」


 けれど、ここならかなりいろいろなものが売ってるんだろう。和樹は正直な気持ちを口にする。


「じゃ、入りましょうね。」


 そう言われて一緒に中に入る。なんとなく久しぶりに自分の知っている世界に帰ってきた気がした。


「今夜は何が食べたいですか?」


 買い物かごを手に取りながら舞が聞いてくる。


「いや、何か適当にここで買って食べようと思ったんですが・・・」


「そんなこと言わないでください。せっかくですから、一緒に食べましょうよ。・・・カレーでいいですか?」


 カレーは俺の好物だ。それはありがたい。

 ちなみに言うと、もう一つの好物はオムライスだ。もちろんそれでも構わない。


「じゃ、せめて材料は俺が買います。」


 と言ってポケットの財布に手を伸ばす。


「あれ?ない。落とした?そんな馬鹿な。確かにポケットに入れたはずなのに。」


 少し慌てながら他のポケットもあさってみるがやはり見当たらない。 


「お財布ですか?どうしましょう?一旦戻りますか?」


 一緒に家まで移動した時の舞と比べるとなんとなく違和感があるのだが、その理由はいまいちわからない。


「どうしたんだろう。落としたのか?」


 何度もポケットの中に手を突っ込んだりして財布の所在を確かめようとしたが、やはり見当たらない。


「それは・・・困りましたね。」


 表情を曇らせた舞が言った。


「ですね、結構マズイですね。うーん、申し訳ないんですけど、家の鍵を貸してもらえませんか?僕はこれから来た道を戻って財布が落ちてないか探してみます。もしかしたら部屋に忘れてきたかもしれないですし。部屋も見たいんです。」


 焦っているのだろう、早口で一気にまくし立てる。


「え・・・それは構いませんけど・・・」


 俺は冷静に判断できているのだろうか。

 財布にはカードも入っていたけど、帰り路を歩いて行ったって見つかる保証なんてない。

 舞からカギを受け取って洋館まで向かって走る。もちろん、途中に財布が落ちていないかを探しながら。


 そして10分ほど走っただろうか。たどり着いた俺は不思議な光景を見た。


 付いていなかったはずの明かりが、洋館に灯っていたのだ。

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