第7話尾行
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坂田は麻子の実家の名前、百合は徹の家の近所でよく見かける小学生の女子の名前だ。
徹は特別な意味も考えていない状況で、百合という名前を手紙に書いたのだ。
この名前を使った事の偶然が、また別の疑惑を産むのだから、世の中は判らない事が多い。
麻由子は手紙を見て驚いてから、ようやく冷静さを取り戻して、森健太?坂田百合?真木麻子?を考えていた。
真木麻子は間違い無くデリヘルの時の源氏名だから、この時代の事を知っている人物だ。
森健太は心辺りが全く無い、客の名前の中にそんな人居たかな?もう昔の客の名前も顔も記憶に無い、過去の携帯は処分して番号も判らない。
この繋がらない携帯番号は当時の客の番号?何人の客とSEXしたのかも記憶に無い。
亜希は殆どの客とSEXをしたが、自分は選んでいたから数十人だ。
それでも四ヶ月の間に三度目の客とはSEXをした記憶が残っていたから、相当な人数に成る。
麻由子の記憶に森本即ち毛利徹の記憶は殆ど残っていなかったが、熱海の高級温泉に連れて行って貰った事だけは覚えていた。
坂田百合?「あっ」坂田を知っている。
デリヘルを知っている。
共通の事を知っている人だ。
誰だったかな?記憶を辿る麻由子だが自分に都合の良い事は覚えているが、中々それ以外の事は思い出せない。
その日から麻由子は毎日を憂鬱の中で過ごす事に成ってしまった。
徹は手紙を送った翌週の休みには必ず住宅地に顔を出すが、流石に服装とか帽子に気を配って住人に悟られない様に気を配っていた。
手紙を送って二週間後の連休の朝、住宅街の外に車を止めようとした時、南田夫婦が車で住宅街から出て来た。
慌てて自分の車に飛び乗って、尾行を開始した徹。
車は山陽自動車道に向かって走って行く.
今日から三連休だから家族旅行か?呑気な物だな、あの手紙の効果は全く無かったのか?面白くない徹。
後ろから見える車中の様子は、娘と遊ぶ麻由子の姿運転は真三、その姿を見ながら十数年前を思い出す徹。
高速に入ると車は東に走っていく、徹の車は軽自動車、真三の高級車の様には中々走らない。
公務員は金持ちだな、良い車に乗って美人の奥さんと可愛い子供、俺は倉庫番、後数年で定年退職に成って残る物は何もなしだ。
徹の考える事は悲観な事が大半で、楽しい事を考える事は無く前方の車を追い掛ける。
一時間程高速を走ると中国池田のインターから、空港方面に向かった。
飛行場?徹の頭にあの手紙に関係が有るのでは?の疑問が芽生え始めていた。
予想した通り車は駐車場に入った。
離れて車を止める徹、三人の姿を見て飛行機に乗るのは麻子だけだと思った。
東京に調べに行くのか?それとも別の用事?尾行を続ける徹は麻由子の近くまで近づいて航空券の行き先を見た。
自分の顔を見ても多分判らないだろうとの自信も有った。
正午過ぎの岩手花巻空港行きの切符が目に入った。
別の場所に行って、同じ航空券を購入した徹。
遠い昔自分は岩手の出身だと話した真木麻子の姿が蘇って、岩手ならあの手紙に関係が有ると解釈したのだ。
連休で飛行機は殆ど満席状態、徹は良く席が空いていたと神に感謝をしていた。
ここでも偶然が起こって、座席が中央の端と通路を隔てて一人を挟んで麻由子の席に成っていた。
見つめる徹の視線を感じたのか、徹の方を見る麻由子に慌てて視線を逸らせる徹。
麻由子は今夜花巻温泉に亜希と宿泊予定に成っていた。
亜希の亭主は自宅に招いたらと再三言ったのだが、話の内容が内容なのでとても自宅では話せない。
花巻空港に到着すると、麻由子は誰かを捜している様子。
しばらくして「麻由子、ここよ!」と大きな声で呼ぶ声が徹にも聞こえた。
徹は始めて麻子が麻由子だと知ったのだ。
それではあの坂田麻子は誰?妹?姉?母?と考えていると、二人は仲良く空港の前の駐車場に向かった。
徹はタクシー乗り場に向かって、一台のタクシーに乗って「あの二人の車を尾行して欲しい」と話すと「お客さん、探偵さん?」と聞くので「そうだよ、浮気の調査でね」と答える。
タクシーの運転手は急に協力的に成って「温泉に行くね」と待機の状態で話す。
「温泉か、何も準備せずに来たからな」
「仕方無いですよ、探偵さんは何処に行くか判れば、必要無いから」と言って笑うと車が駐車場を出て行った。
しばらくして運転手が「間違い無い、花巻温泉だよ」と笑いながら言った。
「運転している女性は地元の子だな、浮気はもう一人の別嬪の方だろう?」
「はい」
「何か用事が有れば、呼んでくれ」と名刺を差し出す運転手、個人タクシー赤沢俊介と書いて有った。
車は「花巻館」と云う旅館に入って行った。
徹はタクシーを降りて、先に中に入って今夜宿泊出来るかを尋ねた。
この町では繁忙期ではなかったので、部屋は直ぐに用意されて、仲居が「お荷物は?」と怪訝な顔に成っていた。
嘘の住所を記帳したので、現金払いに成るから「買い物と銀行近くに有りますか?」と尋ねて、仲居の不安を払拭した。
部屋に案内されて、しばらくして買い物に行く為に廊下に出ると、向こうから二人が仲居に案内されてやって来た。
嘘だろう、隣の部屋に案内するではないか?徹は偶然の恐ろしさを知った。
「行ってらっしゃいませ」と仲居が徹に声をかける。
同じ仲居が担当するのだと思う、この巡り合わせは何なのだと驚きながらすれ違う徹と麻由子。
あの友人が真木麻子なのかも知れないと考えながら、徹は旅館を出て行った。
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