第6話恐怖の始まり
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連絡を貰うのが目的では無いので、唯麻子を知っている人が噂をすれば良いから、徹には連絡が必要無いのだ。
麻由子の自宅の近くの家のポストに手配りを深夜にする徹、そのまま海を渡って小豆島の真夜中のバス停、船着き場の目立つ場所に人探しの様に貼り付ける徹。
特に「瀬戸の華」の会社の近くの、公民館の掲示板に貼り付ける徹。
数十枚のビラを貼り終えて、目的の前田佃煮に早朝荷物を届けて、嬉しそうに帰って行った。
完全に自己満足の世界に勝手な想像で喜ぶ徹。
だが世の中偶然は恐ろしい、このビラが配布された麻由子の住宅地に住む梶悦子がこのビラに該当したのだ。
たちまち住宅地で噂に成って、麻由子の隣の長谷川がビラを持参で麻由子の自宅にやって来たのだ。
「これ見て、そこの角の梶さんの奥さんの事よ」とビラを差し出した。
「向かえの小島さんの処にもこのビラ入っていたのよ、南田さんも入っていたでしょう?」
「知らないわ、入っていなかったわ」とビラを見る麻由子、直ぐには思い出さない程昔の自分の紹介画面のコピーなのだ。
「あの、梶さんの奥さん、噂の通り風俗あがりの人だったのよね」
「そんな、噂が有ったのですか?」
「ほら、年齢も体形も同じでしょう」とビラの紹介欄を指さす。
そう言いながら「旦那さん、公務員で先生でしょう、学校に聞こえたら大変よね」
「そうですね」と言いながらビラをもう一度見る麻由子の顔色が変わった。
「年齢的には南田さんも同じ位ね、体形も」そう言われて笑う麻由子だが、内心穏やかでは無かった。
今、そのビラをくれとは言い難いので笑って長谷川の話に合わせていた。
長谷川が帰ると、麻由子は直ぐに一番仲の良い小島の家に急いで向かった。
「今、長谷川さんに聞いたのだけれど、梶さんの奥さんのビラが入っていたの?」
「ああ、あのお喋り叔母さんが麻由子さんの家に行ったの?」
「そうよ、でも私の家には入ってなかったのよ、どんなの?もう一度詳しく見せて」
「麻由子も好きね、私ゴミ箱に捨てたわ、要るならあげるわ」とゴミ箱の中から取りだしてきた。
「ほら、揉んでないから綺麗わ!」と差し出したので「ありがとう、どんな感じか見てみるわ」
「麻由子も、そんな噂話好きだったの?」
「いゃー、そうでもないけれど、入れた人の気持ちが知りたくて」と微笑むと「そうよね、近所の昔の話を投書する人が気に成るわね」と小島が興味を示した。
麻由子はビラを大事そうに自宅に持ち帰ってじっくりと見ると、それはまさに自分のデリヘル時代の紹介ページそのものだった。
誰が?何の目的で?麻由子の頭を色々な事が駆け巡る。
真三に知られると間違い無く離婚だと麻由子は思う。
彼は潔癖症でそう云う遊びはしないし、軽蔑もしている言動が多かった。
でも、自分のデリヘル時代の事と現在の環境を知っているのは、小玉亜希以外にいない事は明らかだった。
早速亜希に電話をする麻由子だが、亜希は大西の二人目の子供の出産で実家に帰って、今まさに産まれようとしていた。
麻由子はもう少し時間を空けてから連絡をする事にするが、亜希がこの様な話を誰かにするとは考えられない麻由子だった。
小豆島の坂田の自宅でもこのビラが問題に成っていた。
小さな町の公民館の掲示板に貼られたので、直ぐに噂に成って年齢的な該当者捜しに成った。
坂田の家でも「あのビラ、見てきたが何の目的だ?」
「デリヘル嬢とかをしていた女を探しているのだろう?森健太とか云う人が」母の麻子が言う。
自分の名前を娘の麻由子がデリヘルで使っていたとは、考えもしていないのだ。
昨夜も徹は表札を確認に来て「坂田麻子、間違い無い」と帰って行ったのだ。
デリヘルの時は真木麻子と偽名だったが、名前は本名にしたのだと勝手な解釈で納得した。
その麻子が「あの年齢は娘の麻由子に似ていると思うのよ」と言うと「年齢だけなら、この村にも何人か居るだろう?」と父直臣が言う。
「女の子の同級生、この町内には二人しか居なかったわよ」
「この、町内に限っているのか?」
「公民館だから、多分」と二人は変な掲示板のビラに戸惑っていた。
「携帯に一度電話をして、聞いて見たら?どうだ!」
「もうしましたよ!それで、繋がりませんよ」と麻子が言うと「悪質な悪戯か」と直臣が怒る。
徹はビラを配布したが、その後どうなったのかが判らないので、再び休みに麻由子の自宅付近に行って様子を伺うが、全く何も変わらない。
運送屋の様な服装で、住宅街をウロウロしていると「何処かお探しですか?」と小島が徹に声をかけた。
手には小荷物の様な物を持っていたので「は、はい」
「どちらの、お家ですか?」
「いえ、もう判りましたので、この住宅地では無かった様です」と慌てて立ち去った徹だ。
数日後麻由子は亜希に、ビラの話をして確かめるとあれから誰にも話はしていない。
私も忘れていた位だからと笑ったが、不気味なビラを見てみたいと話す。
麻由子も気持ちが悪いので、出産祝いと久々の再会の為に東北まで行こうと思った。
真三にそれを伝えると、お祝いを兼ねて楽しんで来れば良いよ、凜は自分が面倒を見るからと優しく言ってくれたのだ。
遠方なので一泊二日の温泉にして、亜希が落ち着いてから行く事にしたのだ。
麻由子に相談出来る人間は亜希のみで、他の人には絶対に話せない内容だった。
数日後、徹の手で封筒が投函されて、麻由子の元にビラと一緒に手紙が入っていた。
真木麻子さんご無沙汰しています。
森健太の姉の坂田百合と申します。
幸せそうですね。
私は不幸のどん底で喘いでおります。
と書かれたパソコンで打ち出された紙が入っていた。
麻由子は卒倒しそうな程の驚きの表情に成って、その場に封筒を落としてしまった。
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