第5話蘇る過去

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自分も嘘を言ったかも知れないが、それは「森本さんですか?」と聞かれたから「はい」と答えたのだ。

東京の社員が森本で申し込んだと勘違いしたから、その後は言われるまま森本で約四ヶ月間変えなかったが、他の事は殆ど嘘を話していなかった。

麻由子は最初の時、部屋を間違えて入ってしまったとはその後も言わなかった。

特に二月に会った温泉以後は、こんなに意気投合でSEXの相性も抜群だとお互いが思っていたから、三月の時にはプレゼントを持参して、本格的にお付き合いをして欲しいと頼んだ。

「この様な高価な物を頂いて、お断りなんか出来ないわ、賢一さんとは凄く合うから、今後も宜しくお願いします」と言われて舞い上がった記憶が蘇っていた。

その後もメールで(五月の連休には、もう実家ですから東北に旅行に来て下さい、角館の桜を見に行きましょう、満開ですよ)と送って徹は母に「結婚するかも知れないな」と喜ばせていた。

「相手は何処の子なの?」

「東北だよ、岩手」

「遠い人だね、お前を気に入ってくれたのなら喜ばないと」と笑っていたのは総て嘘だったと、思い出して怒りがどんどんと込み上げていた。


やがて車は姫路の町中の駐車場に入って、徹は路肩にワゴンを駐車して、南田が出て来るのを待った。

荷物を両手に持って、真三が出て来ると徹は只今荷物搬送中のカードを出して後を付いて行った。

商店街の中に、いかにも老舗の感じがする和菓子屋「姫の里」と書かれた看板の店に入っていった。

徹が今日はもうこれで良いか、帰らないと遅くなると思って、帰途についたのだ。


麻由子は何時間待っても来ないので父の直臣に電話で確かめると「何の話だ?知らない、誰かの悪戯ではないのか?」と笑われたが、悪戯にしては変な悪戯だと思った。

真三が帰ってその話をしたが「何が目的でそんな嘘を?」と不思議な顔をした。

「誰も見なかったし、私あれから一時間外で凜と遊んでいたけれど、何も無かったわ」と変な事件で終わった。


会社に翌日行った徹は荷物を降ろすと、倉庫の片隅で撮影をしたスマホの写真を眺めていた。

次の休みに成ると姫路の店に様子を見に行く徹、客を装って入ると店員の一人が「何をお探しでしょうか?」と近づいてきた。

その時、真三が娘凜を腕に抱えて「こんにちは、いらっしゃいませ」と徹に挨拶をして入って来た。

日曜の午後は忙しいので手伝いに来る様で、麻由子の姿は見えない。

今会っても多分彼女は自分には気が付かないだろう。

あの時からは風貌も変わって、性格まで変わってしまったと自分でも思っている徹だった。

店先で遊ぶ可愛い女の子を見て、もしも自分との間に生まれた子供ならどれ程可愛いのだろうと見とれていると「お客様もお孫さんが?」と店員の星野に呼びかけられて、顔で笑って心で鬼の形相に成っていた徹だった。

饅頭の箱を一つ買って、店を後にして姫路城の方向に歩いて行った。

姫路城はJRの姫路駅から北に約一キロの姫山と云う小高い丘の様な場所に建てられた城で、現存するお城では最高の規模と優雅さを誇っていた。

昨年平成の大修理が終わり、真っ白い城郭に蘇り、数多くの観光客で賑わっていた。

徹にはそんな観光客も、姫路のお城も目に入らない。

大手門を入って人混みの中、偶然空いたベンチに腰掛けると、早速先程買った饅頭の包みを開いて食べ始めた。

これから何がしたいのか?そう思いながら禿げた頭を掻く徹、するとベンチの隣の主婦の二人組が「パートで一緒の前田さんね、離婚だって」

「結婚して十年以上過ぎているでしょう?子供さんも確か二人居て、仲良しだって聞いたけれど?何が有ったの?」

「前田さんの奥さんの話が御主人の会社で噂に成ったそうよ」

「何が?」

「奥さん結婚前に、風俗で勤めていたのが、御主人の会社で噂に成ったのよ」

「えー、あの奥さん、昔そんな仕事をしていたの?」

「でもね、御主人は知っていたそうよ、唯、会社で噂に成ったからね」

「離婚で、会社も辞めた様だわ」徹には本当に偶然の立ち聞きだった。

しばらくして二人の女性は、城の入り口に歩いて行ったから、まるで偶然に徹に話す為に数分会話をした様な感じに成ったのだ。

しかし話を聞いた徹には「これは、面白いな」と独り言を口走っていた。

市役所で噂を流して、あの幸せな家庭を壊してやろう、自分の不幸はあの女が原因だと勝手な事を考えていた。


徹は肝心な事を忘れていて、自分が休みで自由に成る時は役所も休みに成ってどの様に噂を流すのかを困ってしまうのだった。

それなら、自宅の住宅地にビラを配布するのは?一般の家庭に配布しても効果が有るのだろうか?他人の生活には関心がないのが今のご時世だ。

そんな事を毎日考えている徹に一月後、倉庫長が「毛利、お前小豆島詳しいな!」と声を掛けた。

「土庄の港の近くの前田佃煮に、この蓋を明日の昼迄に届けて欲しいのだ」

「はい」倉庫長には覇気のない徹を仕事で外に出せると考えている。

肝心の徹は小豆島に行けると喜んでいた。

何も目的が有る訳では無いが、唯麻子に近づく機会が有るとの思いだけが喜びを与えていたのだ。

何十年も経過して人妻で子供までいるのに、まだ過去の思い出を追っているのだ。

荷物を積み込むと、自宅に戻って作ったビラを持って小豆島に向かう徹。

デリヘル時代の麻子の写真と、プロフィールを印刷した数十枚のビラを持って小豆島に向かう。

顔は鼻から上がぼやけて、誰かわからない。

年齢二十二歳、身体の特徴、BWHのサイズ、趣味が書かれた写真の下に、上記は十数年前に風俗で働いていた女性です。

貴方の身近にいらっしゃいませんか?現在の年齢は32~3歳に成られています。

お心当たりの方はご連絡をと出鱈目の電話番号を記載して、名前は森健太と書いていた。






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