第4話偶然の再会
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最近は実家の佃煮工場は殆ど兄の直巳が営業活動をして、父の直臣は生産担当に成っていた。
最近では下請けの仕事も多く、大きなメーカーの製品の下請けも時々入った。
瓶詰め作業の工程に成って「これ違うぞ!」と父直臣が叫んだ。
「何が違うの?」
「瓶と蓋の大きさが微妙に異なる」久々の大口の注文に家族を始めとして、近所の奥さんのパートも総動員の作業をしていた。
「大変だ、送って来たメーカーに至急連絡しなければ」直巳は直ぐさま元請けの会社に連絡をした。
元請けの会社は驚いて、瓶のメーカーに至急運ばせるとの返事が半時間後に届いた。
この瓶の出荷をしたのが、徹で普段はこの様な仕事をしないのだが、いつもの係が風邪で休んで徹が出荷をしたのだ。
上司は怒り「蓋だけ、今日直ぐに今週の分を車でお前が運べ」と命令をした。
間違えた分を持って帰れとも言われて倉庫を出発した。
そんなに役に立たない男、無口な男と評判で五十歳の無能男の仕事だと上司は怒り送り出した。
徹はとんでもない失敗をしてしまったと、大きなワゴン車に荷物を載せて一路小豆島に向かう為に夜も寝ないで走った。
翌朝には「株式会社瀬戸の華」の工場前に到着して仮眠をして待っている。
直巳が「早いですね、ご苦労様」と起こしたのが六時半「この度は申し訳ありませんでした」と謝る徹だが、直巳はこの失敗の張本人とは思っていないので「運転手さんには責任は有りませんよ、夜を寝ないで来て下さったのですね、事務所に入って休んで下さい」と社屋に案内した。
「はい、ありがとうございます」と恐縮の低姿勢で事務所に入る徹。
「八時過ぎに成らないと、みんなが来ませんので、その時間迄そこのソファでお休み下さい」と事務所の脇の応接間を開けて徹を通した。
殆ど寝ていない徹は言葉に甘えて仮眠をさせて貰う事にして眠る。
疲れていたのと睡眠不足ですっかりと寝込んでしまって、人の声で目が覚める徹。
応接間の中に社長の机が有って、そこに直臣が入って来て徹は急に起き上がって「社長様でしたか、今回は誠に申し訳ありませんでした」と深々とお辞儀をして謝った。
「運転手さんには責任は有りませんよ」と言いながら慌てて身体を起こしに近づいた時、机の上の写真立てに直臣の手が触れて、床に落ちそうに成ったのを徹が手で受け止めた。
「おおー、危なかった」と受け止めて手の中の写真を見て徹は仰天した。
「もう少しで割れる処だった、運転手さんありがとう」と言いながら受け取る。
直臣が「娘と孫の凜です、可愛いでしょう」と改めて見せる直臣。
その写真の中には女の子を抱いた麻子と娘の凜、その横には亭主の真三が仲良く写っている。
何?あれだけ探して見つからなかった麻子がここに「綺麗なお嬢様ですね」と写真を手に取って改めて見る。
徹に「亭主の南田君は、そこの姫路の市役所に勤めていますから、よく来てくれますよ」と微笑んだ。
写真の麻子は徹がプレゼントした高価なネックレスを首に飾って、微笑みながら写っている。
徹は平静を装って「可愛いお孫さんですね」と言った。
「はい、自分で言うのも恥ずかしいのですが、可愛いと思いますよ」と破顔で答えた。
しばらくして荷物の積み卸しが完了して、徹は手土産に魚の一夜干しを貰って会社を後にした。
腹の中は憎悪で煮えくり返って、今にも沸騰してしまいそうな気分、会社に納品完了を連絡すると今日は休んで明日倉庫に戻せば良いから、休憩をして帰れと命じた。
慌てて帰らせて、睡眠不足の事故でも起こされたら大変だと上司の判断だった。
ここでも、偶然が徹に麻子の存在を伝え、それは瞬きの一瞬の出来事、直臣の手が写真立てに引っかからなければ、徹の目には触れなかっただろう。
休みを貰ったので徹の足は自然と姫路の役所に向かって、昼過ぎには総合案内に「ここに、南田さんって職員の方がいらっしゃるとお聞きして来たのですが?」
「どの様なご用件でしょうか?」と受付が尋ねて「実は、南田さんの奥様の実家から預かり物が有りまして」と小豆島の包みを見せる。
しばらく待たされて「本日は公休で、来ておりません」
「困ったな、生ものだから渡さないと腐敗するかも知れないな、頼まれたのに。。。」困った顔をした。
「しばらくお待ち下さい」案内の係が南田の上司と連絡をして、しばらく待たされてからメモを手渡されて「本人に連絡が出来まして、自宅に届けて欲しいと、宜しくお願いします」と住所を渡されたのだ。
徹は偶然、麻子の嫁ぎ先の住所まで手に入れてしまった。
網干の閑静な住宅街の一角に南田の家は在って、徹は住宅街の外で大きなワゴンを駐車出来る場所を探した。
恐る恐るサングラスをして、運送屋風のジャンバーで探し歩く徹。
目的の番地に近づいて、自宅の前で子供と遊ぶ麻子を見つけて「あっ、ここだ」と小さく叫んでいた。
数年前に比べると人相も大きく変わって、多分麻子の前に行っても判らないだろうと思っていたが、流石に足はそこから前には進めない。
今会って何を言うのだろう?恨み言?騙したと言うのか?十年以上経過したが、麻子の姿は当時とそれ程変化が無い様に徹には見える。
「来ないはね」とこちらを見る麻子の目を逸らす様に物陰に隠れる仕草の徹。
「まだなのか?」と中から真三が現れて、何処かに出掛ける様子だ。
「実家に行って来るよ」そう言って隣のガレージの車に向かう。
徹は慌ててワゴンに戻って、尾行をしてみようと思い真三が住宅街を出るのを待っていた。
ワンボックスの車がしばらく待って、道路に出て来た。
顔を見られても相手が気づく心配は皆無だから、ぴったり後ろにつけて尾行をする徹。
昔麻子が消えたサイトを探して、ネットでデリヘルを調べた時、仲良し二人は三月迄の短期間のアルバイト、この機会に是非指名を!美人の麻子さん、グラマーなテクニシャン亜矢子さんとの紹介のサイトを思い出して、ワゴンは姫路に向かっていた。
自宅に帰ればその当時のサイトのコピーが、今でも自宅のパソコンに入っている。
今頃偶然麻子に会うとは考えもしていなかった。
確か東北出身だと聞いていたから、全く異なる小豆島だったショックも徹の心を大きく傷つけていた。
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