第3話幸せと不幸
19-3
徹は年が変わった連休に東京へ、麻由子に会う為にやって来た。
十二月に貰ったボーナスを使って、態々麻由子に会う為に一泊二日で来たのだ。
それも五時間のコースを楽しんで、翌日に東京の観光地に行こうと誘ったが、麻由子は上手に断って、徹は結局翌日昼過ぎの新幹線で寂しく帰って行った。
「賢一さんは良い人よ、もう少し知り合わないと、店以外では中々会えないわ」と上手に断っていたが、遊ぶ男性としては悪く無い印象を麻由子は持っていた。
麻由子はこの森本は結構大きな会社の社員若しくは医者?弁護士?とかお金持ちの男だろうと考えていた。
関西から自分と遊ぶ為に来るから、相当な金持ちだろう?時間も自由に成るから、翌日も遊ぼうと誘えたのだと勝手な解釈をしていた。
もし来月も来る様なら、遊びの対象にしてデリヘルの会社を経由しないで、小遣いを稼いでも良いかと考えていた。
徹は一月に個人的には誘えなかったが、メールでの話も合うし麻由子が忘れられない状態が続くので、二月も麻由子の時間に合わせて、土日に東京に行くとメールをすると、東京迄来なくても、温泉に行きたいから熱海で会おうと返事が来た。
小遣い十万円で交渉が成立して、徹は喜んで時間を合わせて熱海に向かった。
お互いが本名を知らずに、熱海の旅館で一泊を過ごして、翌日近くの美術館に見学に行く二人。
行く場所も美術館で自分が想像した様に、この森本は予想通り職業がお金持ちだろうと考えたが、結婚もしているのでは?年齢も四十歳前後自分とは大きく離れているので、良い遊び相手だと考えていた。
二人は翌月も同じ熱海の温泉で会って、麻由子はお金を充分に貯めて、亜希の借金の返済をしても多くのお金が残って、デリヘルの仕事の怖さも忘れて二人のバイトは終了した。
卒業と同時に亜希は岩手に帰り、麻由子は大阪の銀行の寮に入って、デリヘルの仕事の事は霧の様に消してしまった。
勿論、徹とのメールも急に消して、自分の過去が判らない様にしてしまった。
驚いたのは徹で、三月の三十日を境に全く音信不通状態に成った。
それでも何度もかけるので、麻由子は過去を絶つ為に携帯を新しくして、必要な人には携帯が変わった事を連絡して、新に大阪の銀行での仕事に成った。
麻由子にはデリヘルでの仕事が実家に知られたら困るし、自分の過去にこの様な仕事が有ると今後何が起こるか判らない、勿論これからの結婚に影響が有ると困る。
亜希にもこのバイトの話は絶対に誰にもしない事を確約して、就職をして二人は岩手の農協と、大阪の銀行に就職した。
麻由子はその後も美人で、明るい性格なので恋人は出来るのだが、結婚と云う決め手に欠けて毎年、仲良しの行員と一緒に合コン三昧を繰り返して、気が付けば歳だけが大台に近づいていた。
岩手の亜希は意外と早く結婚に成って、相手は漁業組合の事務員で大西清孝。
結婚式に麻由子が出席した時小声で「デリヘルで覚えた技で、イチコロだったわ」と笑ったので、麻由子は口に人差し指で「しー」と言って笑った。
徹は四回会って、それも温泉に行く仲に成って今後交際が続くと思っていた矢先に消えてしまったので、失意の底、インターネットで調べて店を探して尋ねたが、もう辞めたので個人情報は教えられませんと素っ気ない返事。
他のサイトを調べたが全く麻子の写真も働いた形跡も無かった。
徹は最後に会った時に高価なネックレスをプレゼントして「こんな、高価な品物頂いて良いの?」
「今後もお付き合いしたいから、奮発しました」と話して、四十歳迄に何とか結婚出来ればと喜んでいた矢先の出来事。
百万以上のお金を僅かの間に使って、徹には裏切られるとは考えていなかったのだ。
まして、何も告げずに消えてしまう事事態、頭の片隅にも無かった。
徹は母と二人の生活で、母響子に「もしかしたら、結婚するかも知れないよ」と三月に告げて嫁いだ姉昌子も「良かったね、遅い結婚だけれど、男なら四十迄なら合格よ」と笑われていた。
その後、結婚話が無くなって、母も大きなショックを受けて寝込んでしまう。
元々徹は遅い子供で母昌子の四十歳の子供、姉と八歳も離れている。
姉には笑われて終わったが、母はその後病に成って亡くなってしまったのだ。
最後まで徹の結婚が気懸かりだと言いながら他界してしまい、姉も実家には来なくなってしまった。
兄弟も結婚すると殆ど交流が少なく成るが、徹の落ち込み様に昌子も寄り付かなく成ったが正しい。
仕事にも覇気が無く、しばらくして倉庫の管理に配置転換されて、徹はその頃から社内でも口数が少ない暗い男に成っていた。
七年後麻由子は結婚、亜希は二人の子供に恵まれて、農協に勤めながらの子育てで平和な時間を過ごしていた。
麻由子の結婚式に来た亜希が「意外と結婚遅かったね、でも役所勤めなら、堅いわね」と笑った。
「合コンでトイレ間違えて、交際始まったのよ」と友人の一人が披露宴で紹介して、爆笑に成って盛り上がった。
地元の小豆島に近い姫路の和菓子屋の息子で次男、両親も近くで良い縁が有ったと、大喜びに成った。
世の中、偶然に会って幸せに成る人もいれば、反対に偶然に会った事で不幸に成る人もいる。
徹は偶然間違えて来た麻由子に惚れて、麻由子は合コンで偶然幸せを掴んだ。
二年後子供が生まれて、新宅を両親に建てて貰って、最高に幸せな南田夫婦。
近所から毎日の様に父雅俊、母真子が交代で孫の凜を見に来る。
幸せを感じる麻由子、時々小豆島に帰る時には三人揃って帰ると、父も母も大喜びで「良い人と巡り合ったね」と毎回の様に話したのだ。
この後、何も偶然が無ければ、平和な生活の筈だった。。。。。。。。
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