第2話偶然の人間違い

19-2

翌日、麻由子は百合に連絡をして、渋谷で会う事にした。

お金が必要で女性二人が働く場所で時給が多い、それも期間が三ヶ月程しかないのだと説明すると「その金額を稼ぐには、夜の仕事それも風俗しかないわね」と簡単に言う。

「麻由子は美人だから簡単だけれど、もう一人の友人は無理よ、可愛くないからね」とはっきりと言う。

「何かない?」

「身体を張る仕事なら、大丈夫だと思うわよ」

「どの様な仕事ですか?」

「一番簡単なのはデリヘルだわね、日払いだから後腐れ無いから、働いた分お金に成るわよ」

「でも、SEXするのでしょう?」

「建前は無いわよ、でも貴女の友人はSEXしなければ客は来ないかもね、麻由子ならキャバクラでもお金になるけれどね、唯三ヶ月だと元が取れないわね、衣装とか必要だし、同じお客もそんなに来てくれないからね、半年も有れば沢山貯まるけれど、三ヶ月では赤字に成るわ」と麻由子と亜希では条件が異なると言ったのだ。

麻由子は今聞いた事をとても亜希には言えないから、デリヘルの話だけをして、三ヶ月で稼いで地元に帰るにはこれしかないのよと説明をした。

亜希は四月から岩手の農協に、麻由子は大阪の銀行に就職が内定していたから、三月迄に借金の決着をつけなければいけなかった。

亜希は身体には自信が有ったのか「私はそれでも良いわ、田舎に持って帰れないから」と断ると思った計算が狂って、麻由子も彼氏の二人から三人は常に居たから、SEXに対して潔癖ではなかった。

翌日百合に、二人揃って紹介して欲しいと頼んだのだ。

二人にしてみれば、東京最後の男遊びの気持ちも有ったのかも知れないが、お金の問題を解決しないと卒業出来ないのも事実だった。

肉体派の亜希と細身の美人麻由子は、百合の二人一緒ならと云う売り込みと、その後の実地トレーニングで担当が「中々の身体だから、いけるかも?」と採用に成ったのだ。

麻由子は顔を見ただけで、採用に始めから決まっていたのだ。

百合は店から紹介料を貰って上機嫌、二人は憂鬱の中明日から店に出る事にした。

昼間のバイトは翌日、今週一杯とお互いに辞めて、夕方から深夜までのバイトに絞って働き出したのだ。

翌日カメラ撮影が行われて、夕方にはホームページに掲載される。

それを見た亜希が「顔ははっきりと出てないけれど、こんなに綺麗に修正されると照れるわ」と笑った。

「私の胸大きすぎない?」とお互いが出来上がったホームページに見とれていた。


女性が簡単にお金を得る方法として使うデリヘルを、僅かの期間だと割り切る二人だった。

初日が終わって「流石に疲れるわね」麻由子が話した。

「麻由子は本番したの?」

「するわけ無いわ、亜希は?」

「したわよ、楽よ」

「えー、知らない叔父さんでしょう?」

「そうよ、全くの爺が一人、もう一人は四十代かな?三人目が五十代後半の紳士だった」

「えー三人共本番?」

「そうよ、簡単だったわよ、麻由子は?」

「私は二人よ、長いのよ、二人共三時間で年寄りだったわ」と初日の客の話で一時盛り上がる。

自分の事は喋らずに、客の話で罪悪感は全く無かったのだ。


毛利徹三十八歳、関西から出張で課長と一緒に東京に仕事で行く事に成った。

毛利も普段は出張の無い仕事だったが、東京のビッグサイトの展示会に急遽借り出されたのだ。

展示会では東京の社員に徹は「折角東京に来たのですから、遊んで帰って下さいよ」

「先輩、独身で田舎に比べると可愛い子が多いですよ」

「特に東京のデリヘルは可愛い子が多いですよ」

「僕が、先輩の部屋に送りましょうか?」と口々に冗談とも本気とも思える話をしてくる。

泉課長は取引先との会食の後、二次会に先方の常務と出かけてしまい、ほろ酔い気分でホテルに戻った徹の部屋の前に、綺麗な美人が今まさに部屋のチャイムを鳴らそうとしていた。

「こちらの部屋の方ですか?森本さんですか?」と尋ねられて毛利は、東京の社員が早速デリヘル嬢を用意してくれたと思って「はい、森本です」と答えてしまった。

麻由子は今日が二日目で要領が良く理解されていなかったので、部屋番号を自分で5110号室は五階と決めてこの部屋に来ていた。

確かに毛利の部屋は五階の110号室だから、間違えたのは仕方が無いのだが「麻子です、宜しくお願いします」とお辞儀をされて、本当に美人が来るのだと興奮して扉を開いた。

酔っ払っていたのも手伝って、いきなりキスをしてしまう徹に「困ります」と逃げ腰の麻由子。

この三ヶ月唇だけは守のだ!の決意が有ったのに、いきなりで驚いて「私、身体は売っても唇は駄目なの、売らないわ」と怒って言った。

「少し待って下さい、お店に連絡させて」とようやく徹の手をかいくぐって、店に電話をすると「何時間にされますか?」と麻由子が徹に尋ねた。

「何時間が多いの?」

「三時間です」昨日の二人しか知らない麻由子は、その様に答えると「じゃあ、僕は気に入ったから4時間にするよ」徹は答えた。

「ほんとうですか?ありがとう」麻由子の今日は五時間の予定だったから、四時間ならこの客で終わったら後無いわ、途中で延長でもして貰えたら、ラッキーだと目論む。

「森本さん、6万8千円です」と言われたが酔っ払っていてお金を持っていたのと、美人で徹の好みだったのが、大金を使っても良いと判断してしまった。

麻由子はデリヘルの受付との電話が終わると、携帯を切ってしまった。

友人が前日の時にかけて来て「麻由子、男と一緒でホテルに居たでしょう?」と言われたから、またかけてこられると勘ぐられるからだ。

友人もよくホテルに男と行くから、電話の雰囲気で判るだろうと推測をしていた。

ここでも偶然の間違いが麻由子と徹の出会いを演出して、店からの間違い電話は拒否された恰好に成ってしまった。

徹と麻由子はすっかり意気投合して、麻由子の思い通り時間延長をして五時間を過ごして、徹は大金を使ったが、それ程損をした気分は感じなかった。

メールアドレスの交換をして、麻由子は本番をしない予定が、徹と二回戦をする程相性が良かったので、自分から求めていた。

二日後関西に帰って行ったが翌日東京の社員に「昨日はありがとう、とても良かった」と理解不能のお礼を述べていた。

麻由子は当日事務所の担当者に大変叱られたが、お金を渡したのと麻由子が美人だったので、今後気を付ける様にとの小言で終わったのだ。

麻由子は真木麻子で岩手の出身で大学生、徹は森本賢一でお互いメール交換で会話を始めたのだった。

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