第8話 「賞金稼ぎの流儀」
「来た。」
遠く響く
普段から馴染んだ
まず、タイヤの転がる音がしない。
夜間、石畳を
問題は夜間故に何処からかかが解りにくい。この辺りは壁も高く、よく響く。
が、焦りは禁物だ。
(アロー、こちらアンのA)
(…チャーリーのC、音は聴こえている。特定出来そうか?)
(まだ分からない…今、仕掛けた「眼」でBが追跡してる。)
(何ヵ所ある?)
「エル、どう?」「う~ん、3つだけど。どれもまだ。」
(こっちは未だ。Dの方は?)
(こちらデビッドのD、目視じゃ難しいね。Bの魔術式頼みだよ。)
(Ok、C、D共に引き続き監視ヨロシク。)
ふう、こちらは大通沿いで視界は広いが、音の特定には少し不便だ。路地は逆に視界が狭い。本来なら、コッチが路地に行くべきだったが、エルがこの辺りの地理に不案内なためこうなった。
もう一人の魔術士、レンクァイはこの手の術式を持ち合わせていないという。
こういう時は応用も利く
地図に印を付けたポイントに掛からないとすれば、一体何処から来るのか?
3ヶ所を順巡りさせているが、音はすれども、というヤツだ。
…場所を変えるか。
(音が大きく…)
咄嗟に前屈みに、相棒の少女を背後から抱き締める形で思いっきり転がる。
ズガンっ!!
さっきまで居た場所の壁が打ち砕かれて、破片が飛び散る!
「はにゃらあわっ!」
突然の事に、金髪の少女が言葉になら無い悲鳴をあげた。
(こちら、A!お客さんよ‼)
少女の無事を目で確認して、オーブに報告 。
すかさず銃を構え、収まらない土煙の中に発砲!
パンパンパン!!
3発叩き込み、左手にハンドキャノンを取り出す。
しかし、壁の向こう側とは。コレは…
「奴さん、一人じゃ無いかもね。」
土煙が揺らぐ
銃を構え直すも、ソコにはいない。後ろの少女を見ずに、「下がって、エル!」
気配で遠退くのがわかると、視線をそのままに立ち上がり、ジワリと距離をとる。
(目標が確認出来ない、ソレと一人じゃないかも。各自、注意して。)
(
その時「ユイス!上!」
言葉を理解する前に身体が動いた。
ガヅッ!
後ろに跳びすさった、まさに間一髪。
さっきまでいた場所に、異形の巨漢が立っていた。
その足下の石畳はひび割れ、あるいは砕かれて。
ひゅう♪
口笛が知らずと漏れる…
「
右手側に難を逃れていたエルが
「ユイス、下がって‼」
言われるがままに下がると、巨漢も追い縋るように足を持ち上げようとして。
叶わなかった。
草が足首に絡み付き、動きを阻害している。
もし、走っていれば盛大にスッ転ぶだろう、其れは確かに「
パンパンパン!
残りの弾を全て撃ち込む。
が、鈍い金属音だけで効いていないよう。
(この至近距離で!)内心、
「エル、ナイス!でもコイツ…銃じゃムリっぽい!」
左手のハンドキャノンが一瞬、脳裏を
「一旦退くよ!エル。」
「あいさー!」
相手が動き出せるようになるには、それほど時間が掛からない。所詮は子供の罠である。
そして、5ヤード程離れた位置で一旦振り返る。
何せ、あの巨体…7フィートはありそう…で、軽くそれを上回る跳躍をしてのけたのだ。それも石畳を砕く勢いと質量で!
「なにコイツ…」
ユイスは初めて見た「違和感の塊」に言葉を探す努力が必用だと思った。
「怪人、だよね。」
アッサリと金髪の少女が提案する。
確かに。
身の丈は7フィートを越えるかどうか?
昏い色彩のボロ布を頭から纏っており、武器の類いは持っていないらしい。と、云うことは。あの塀を素手の一撃で粉砕したことになる。そして、蒸気機関は?
今も唸りをあげていて、背面から筒の様なモノが突き出ていて排煙を出しているのが月明かりでわかる。
さらに異様なのが、全体の四肢のアンバランスさ。
ボロ布マントから見えているのは、両の腕と膝から下の足。
その腕は、右腕だけが異様に太く左より拳一個分長い。もちろん、左腕も太いのだが。
そして足。
今は罠に囚われているせいで、動かすのに負荷が掛かっているとしてもやはり太く、短い。身長から考えてももう少し長くて当然だが、膝の関節から想像しても短すぎる。
自分の身長だと丁度、位。が、相手は身長で言えば頭3つは高い筈だが?膝上がどの辺りまで在るのか分からないが、腰の高さが同じだとすれば相当に奇怪と云わざるを得ない。
ヒトを適当に
「ダンスは苦手かしらね?」
思わず頬が引きつる。
こんなナリで、しかも車を撥ね飛ばし銃弾も効かない、壁は素手で割り砕くは、人間離れした跳躍力。
「スゴイね…」隣のエル。
「サーカスに売れば儲かるかしら?」
「猛獣?」
そろそろ、草の戒めがほどけそうだ。
ぽんっ!
左手のハンドキャノンをぶっ放す!
「付き合い切れねえ‼エル、退くよ!」
「あいぃっ!」
が、次の瞬間。更に眼を疑うような…
ばちん!
発射された
反らされた擲弾は明後日の方向に飛んでいき、火球を作る。
「わあっ!何だってンだ、あんの野郎!」
「ユイス!突っ込んでくるよう!」
走り出しながら銃をホルスターに仕舞いこみ、腰のモーニングスターを抜こうとした、その時。
「金ヲ以ッテ木ヲ禁ズ!」
響く男の声と銃声。
咄嗟に声の方に視線を向ける。
細身の男…レンクァイが右手に銃、左手に長方形の紙片、「カード」を指に挟んで立っていた。
「シャオゼ!無事か?」
シャオゼ?あたしの事か?にしても、術士のくせに銃も使うのか。
「絶賛、逃亡中!」「ですよ!」
ミもフタもないが、事実は事実である。
打つ手が無くなった以上、仕切り直してやるだけだが、このタイミングは実にイイ。
もう一人も来るだろうし。
もう一度、怪人「エンジン男」を見る。
先程の声は恐らく術式の発動だろうから、その効果も知りたい。
そしてそれは怪人にとっても同様だったのだろうか?術士の方を振り向いている。
果たして、怪人のボロ布マントは刻まれ、散っていく。
ソコに横合いから火の手が。
「やあ、パーティーの時間かい?ローストポークは好きかな?」
散った布が引火して火の粉が踊る中、ニコニコと笑顔が怖い。
「皆さん、お揃いで。」
互いに目配せする。
そして怪人は。
プシュッ! がっ!
後方に跳躍をする。改めて対峙して。
よく見ると、中世の騎士の様にゴツい全身鎧兜。顔も表情も分からない。
ユイスは不敵な笑みで
「パーティーはコレから、よっ!」
モーニングスターを振り抜く!
「目瞑って、
鉄針を怪人に投げつけ、一言。
少女の指先から紫電が一直線に
怪人は雷光で一瞬、痙攣を起こし動きが鈍る。
「火ヲ以テ金ヲ禁ズ!」
カードを投げつけ、目掛けて銃弾を撃ち込む!カードは銃弾を火球に変え、鎧の左肩に命中すると、肩当てを溶かし始める!
「やりますなあ♪」
放射器から溢れだす炎で上半身を炙り始める。
「ベイビー、良い子は寝る時間さ!」
膝裏を痛烈にモーニングスターで打ち抜く。
バランスを崩して、ふらつきながら後ろに倒れ…ずに、プシュッ!という音と共に前のめりに。
その勢いのままに細身の男、レンクァイに突進する!
「っ!」何とかかわすものの、驚きを隠せないようだ。
残りの三人も呆気に取られるしかない。何せ、感電で麻痺させられ火だるまになり、アンバランスな体型で超重量の軸足を不意討ちで倒しに行ったのだ。それを。
最早、人間離れも甚だしい。
「どーすんの?コレ。」「わかんないよぅ…」「…。」「あんまり肉の焼ける臭いが無いね。」
…
突進をかわしたレンクァイが少女の元に。
「
「へ?僕?印って?」
「
「えええっ!高等術式じゃないですかぁ!」
「ああ。君達では術士の相手は役不足だ。コイツの足留めだけでもいい、任せた。」
言うが早いか、路地に消えていく。
ギギギ
突進を終えた怪人がこちらに向き直る。
重量がある分、急制動が苦手らしく距離は空いた。
「なあ、エル。アイツ逃げた?」
「違うと思うよ。でもヒント貰えたし、何とかなるかも。」カード2枚とメモをポケットに。(メモには印の発音と…)
「私たちはどうすべきかね?彼は逃げたんだろう?」
ブレスの声に、一瞬詰まりながら。
「さあ?ただ、取り分が増えたンじゃね?」
ユイスの返しに少女が戸惑っている。
「弱点があるって言ってた。あの鎧の下のどっかに、術式の刻印が在るからって。それさえ壊せばいい。」
「言うほど楽かなあ?」
「エンジンを積んでいるんだろう?そっちを壊せばダメなのかい?」
そう言えば、あのパワーは正にそれだろう。
「て、ことは。」ハンドキャノンの擲弾をスモークに。
「酸素吸えないようにしたら黙る、かな。」
「だねえ、私の炎で炙り続ければ酸欠になるだろう。」
「じゃあ、それで行こう!」
がっ!
少女の声が聞こえたか、怪人が突進してくる。
「あらよ!」
ぽんっとキャノンから擲弾が発射され、今度は弾かれることなく命中、黄色い煙幕に包まれる。さすがに突進中は細かい動きが出来ないらしい。
そして、突進を止める。
その隙に火炎放射器の射程に潜り込んだブレスが炎を振り撒く。
ジジジ… 激しい炎に動きを封じられ、緩慢な動作で膝をつく。
「ハハハ!」
高笑いをあげる小太りの紳士。
「これで終わり?以外と呆気ないじゃないかな!だよねえ、君達?」
炎のオレンジ色を眼鏡で照り返しながら。
ボゥ!
「きゃあ!」「てンめえ!」
二人に放射器の炎を浴びせかける!
咄嗟に少女を庇い、退くユイス。
少し革のジャケットが焦げたのか、嫌な臭いが鼻を突く。
「あの男は逃げたんだろう?君達は奮戦虚しく炎の巻き添えで果てる。イイ!イイね!最高のシナリオ!私はね、賞金も欲しいが、若い女の焼ける臭いが最高に好きなんだ。」
眼鏡の奥の狂気が垣間見える。
「ヘンタイ野郎が。」睨み付けるユイスを、ペットでも愛でる様に。
「妻がね。不貞を働いたんだ。その時に焼いてやった。スゴくいい香りがしたよ。逃げれないように脚から、順番にね。顔も丁寧にローストしてやった。普段、私の事をローストポークめ、と罵っていたクセに。自分がローストされるとブタみたいに泣き叫んでいたなあ。ドッチがローストポークなんだよ、ね?ああ、イイ想いでだよね?」
「狂人め、どうして賞金首になってないんだ?」
「ああ、簡単だよ。最後は家ごと焼けたからね。私も被害者として救助された。ちなみに妻の寝台に阿片の瓶を置いておいたから、彼女が錯乱して放火、でケリが着いた。」
「ソイツはラッキーだったな!」
「ああ。そして今夜は二人も焼ける。イイ日だよね。」
同時に火炎放射器から炎が噴き出す。
「我、水ヲ以ッテ火ヲ禁ズ!」
炎に向かってカードを投げるエル。
「なっ!」
カードは炎に触れるや、巨大な水滴になり、炎を侵食、水蒸気爆発を起こす。
驚く炎の狂人目掛けて。
「テメエの首も換金してやんよっ!」
モーニングスターで胴を思いっきり凪ぎ払う!
どごん。
躰を「く」の字にして怪人の方に吹っ飛ばされる。
そこに。
プシュッ。
炎の戒めを解かれた怪人が跳んできた「モノ」を巨大な拳で薙ぎ払った!
ゴン!
背中のタンクをひしゃげさせながら、狂気の紳士が壁に激突、タンクから漏れた液化燃料に引火。盛大な爆音と共に四散した。
「あちゃあ。」「わあ…」
あんまりな展開に着いていけない。
「あーエル、さっきのって?」
「うん、符呪っていう術式だって。本当はちゃんと読めないと発音とか出来ないよ。でも、メモには発音記号が書いてあって、火の災いに使えって。」
「アイツ、知ってたのか?」
「どうかなあ?それより。」
怪人が立ち上がっている。
「忘れたかったわ。」
「同感。」
未だ、夜は始まったばかりのようだ…
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