第7話「賞金稼ぎは黄昏に」
「爺さん、ちょっとコレ見てくれ。」
傾きつつある太陽は、まだ名残を惜しむつもりは無いらしく、晩夏に残暑を振り撒いている。
王都ストラスアイラ中央区五番街。
車道に面した
車庫には深紅の車=
隣の整備工場に二人。
片方は中肉中背、銀髪?の作業着姿の韋丈夫。もう一方は丈の短いグレーの
ストレートの黒髪を肩の辺りで切り揃えた妙齢の女性=ユイスは、器材を借りて制作したパイプの様なモノを作業着姿の男=サイモンに見せる。
「ふん。」
パーツを受けとると、しげしげと眺めて「器用なヤツだな。賞金稼ぎなんぞ辞めて整備士になったらどうだ?」
「冗談キツいね。こんなモン、1週間もかけていくらの儲けよ?」
「自分で言い出したんだろう?俺には意図が解らんかったからな。イメージできんモノは流石に作れん。」
「で、どうなのさ?」
特殊警棒「モーニングスター」を手渡す。
サイモンは受けとると、その先端部に装着…といってもネジのように回しつけるだけだが。
「いいんじゃないか?しっかり固定出来とるよ。」
「サンキュー。あたしもこんなの実際に使うと思って無いけど!」
「今度は
「大丈夫だって。あたしが
「お前の心配もしとるんだ。馬鹿もん。」
「そりゃどうも。」
「まったく、近頃の
「老けるにはまだ早いさ、サイモン。」
「
「昔話をするほど、こっちは老けて無いさね。」
「…そうか。」
「さて、仕上げてくる。エルが来るまでに準備万端にしとかなきゃ。」
「帰ったら奢れよ。」
「ああ、カードに細工でもして待っててくれ。」
ユイスは車庫に立ち寄って、いくつかの工具の入った鞄を持つと2階の自室に向かう。
部屋に入ると、文机に。椅子を引いて腰をつけると、備え付けの引き戸から
今回はエンジン男、という怪人だ。
想像でしかないが、蒸気機関を着けた装備…武器?か、躰の一部に装着?なんて化け物かもしれない。
「
「
4フィート程もある歩兵用銃は、軍警察のエリート、
擲弾も選別していく。
ベルトに装備できるのは4発、装填しておけば5発だが、状況次第で換える為(今回の様な不測の事態が起きそうなら尚更)、やはり4発。夜が舞台なので煙幕は要らなそうだが、意外と応用が利くので1発。小型爆弾、う~ん2発。閃光弾は…暗がりに閃光は効果絶大だが、味方諸共に被害を与える可能性が高い。今回は混成チームだしさ。同じ理由で
「後は…
殺傷能力抜群の為、普通は
1発。
手元に在るが、ライセンスが無いユイスには「御守り」としてしか使い途がない。
一応、検討するも、引き出し奥に仕舞い込む。
「コレで遣り繰りしかないか。」
結局、煙幕1、小型爆弾3。小型爆弾だって殺傷能力はもちろんあるが、使用範囲が対物限定。「
「ユイス~!居る?」
階下、窓口から少女の声。
窓に近付くと、もう一回呼び声。
手を降り、挨拶を返す。もうそんな時間…
日の入りも近いのか、斜光が陰を作っている。
スタックベルトに4発を装備、ホルスター、その他、準備完了。
レザージャケットを羽織ると、ドアを目指す。
昇りつつある上弦の月を観ながら金髪の少女が声をあげる。
「ねえ!ユイス~!あの月の近くの明るい星ってさ!?」
スリーホイラーの
「ああ。
「え~‼?なんて?」
コッチ向け、と云わんばかりに頭を掴まれる。
「イヴニング・スター、さ。危ないから前を向いときな。」
「ユイスの運転だもん、大丈夫。」
この時間は…
「
「?」顔いっぱいに?マーク。
「アブない連中が動き出す時間だよ!」
「じゃあ、ユイスは?」
「そういう輩を飯のタネにしてる街の掃除屋さんよ!」
「イイね!」
「じゃあ、夕飯でも食って待ち合わせしますか。」「おう‼」
酒場
地下にある店内は何時だって暗がりだ。
二人は来店早々に注文を済ませ(やあBB、メシ。適当にね。 ヨロシクね!)、丸テーブルの一つに陣取る。
程なく、ウェイターがドリンクと料理を何皿かテーブルに置いていく。
他愛もない会話の最中に男性客が二人。
「お嬢さん、相席してもいいかな?」
痩身長躯、黒髪の青年(とはいえ、ユイスよりは歳上だろうな)と、眼鏡を懸けた赤毛の恰幅のいい中年(パパと同い年?)。
金髪の少女は勝手に年齢を量りつつ、無遠慮な視線を交互に投げつけている。
そんな相棒を見てみぬ振りで
「あんた達が?」と、こちらも別の意味で興味の視線を投げ掛ける。
「ああ、挨拶が遅れた。俺はレンクァイ。こっちは…」「ブレスだ、よろしく。お嬢さん方。」
「よろしく、モーニングスターよ。」「僕はミスチーフ!」
「じゃあ、早速ビジネスの話をしようか。」
ユイスの声に二人が席に着く。
暗がりに
「そろそろ頃合いかもな。」
「…。」
「大まかなデータも取れたし、後は実戦か。」
「…。」
吐息と
ぷはぁ
紫煙が立ち上ぼり、陽の沈んだ街並みの灯りが曇る。
「連中はきっと出てくる…だが、何処だ?」
一連の事故、目撃は西区に集中していたので、恐らく今夜も出るなら此処だろう。機動力が無いのが悔やまれるが、今更だ。もう刑事の勘だけが便りである。
ジェイムスン警部は
(陸軍の試作兵器を持った技士が脱走、などと。こんな尻拭いを賞金稼ぎとはいえ、一般市民に任せて良いわけは無いのだ。)
「
気に入らない。軍も警察庁上層部も、賞金稼ぎも!
腰のサーベルと拳銃は制服のジャケット諸共に家に置いてきた。
代わりに、父祖の代からのマスケット銃。
カバーを掛けてあるので、そう簡単にはバレないだろう。そして、先端部に着ける銃剣。
これは上着で隠してある。
見付かれば、責任問題どころか重犯罪者で逮捕案件だ。が。
「例え、そうであっても市民に犠牲者は出さん。」
そう自分に言い聞かすのであった。
「オーケイ。役回りは大体決まったね。」
ユイスの声に3人が頷いた。
「じゃあ、ピクニックのお時間だ。」
席を立ち、銘々が配置に向かう。
「ね、ユイス。あの太っちょさん、凄い警戒してなかった?」
「あたしが?」
「うん、なんか雰囲気が。」
「まあね。ありゃ犯罪者の空気だ。多分、正当防衛を言い訳に殺しを楽しんでるタイプだ。気を付けな。」
「うん、じゃあもう一人は?」
「さあ、イマイチ掴み所が無いね。悪いヤツじゃあ無さそうだけど。何処か人間味が無いっていうか。…じゃあ、エルはあたしをどう見る?」
うん!
「ユイスはね、僕の
満面の笑み。
「なんだソレ。」
「だって!ユイスが居なかったら僕は…」
「シ…」ソコまで、と指で口許を抑えるゼスチャー
(来たの?)(音に気を付けて)
二人が居るのは、工場エリアと倉庫区の境目辺り。もう一組はより倉庫寄りの入り組んだ路地裏。
武器の相性も考えての配置だが、どうなるかはまだ解らない。
黒髪の青年、レンクァイはエルと同じく魔術士。ただし、扱いは特殊だ。東洋の「五行」という知識をベースにした「禁呪」という「お
もう一人は、もっと単純で「
こちらも、トラップに秀でたエルと、単純な火力の自分なので、この組み合わせですんなりと決まったが、そうでなくともエルの面倒は自分が見ると言い張っていただろう。
いくら紹介とはいえ、胡散臭すぎ。
とはいえ、流石に「陸軍絡み」なんて事前情報が有れば、普通は引き下がりそうなモノだし。
例え、「
まあ、急な話なので仕方がないのかも知れない。
そういう意味では、自分達の方がよっぽどイカレてる。
たしかに本音は別にあった。が、これも確証の無い勘としか…
エルを捲き込んだのは少々、誤算だったが情報源として、必用でもあった。まあ、最悪でもこの子さえ無事なら、命の張り甲斐は在る。
工場の騒音は未だに止まないが、夜間は昼間程でもない。
思索の合間から現実に感覚を戻して、音の海から異音を抜き出さなくてはならない。
相棒を見ると、真剣に聴き耳を立てている。
何時もの仕事着…シャツに小物が色々入った茶色いストックベスト 、同色のカーゴパンツにブーツ。靴底には熊の毛皮が張り付けてあり、走っても足音がしない。
トレードマークの金髪は何時ものポニテだが、服装が変わるだけで一人前に見えるのは大したモノだ。
すると視線を感じたのか、こっち見上げて小首を傾げる。
何でもない、と首を振って応えて自分も集中する。
役者も決まり、舞台は整った。
後は、演目をどう立ち回って、演じきるかは己の器量次第。
この刻、この場に集った者達が等しくそう想った、だろう。
「来た。」
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