第4話「賞金稼ぎの午後」
此処、王都ストラスアイラ中央区五番街にある1つの其れを取り上げて見る。
「よし、こんなモンかな。」
最後の手荷物、
中にはランチが入っている。コレだけ持ってちょっとお出掛けすれば、ピクニックといっても誰も文句を言うまい。これから
まあ、使ってる本人が
深紅の車体は上から見ると、
運転席後方1フィート辺りに主機関である蒸気機関が付けられていて、直ぐ後ろにある後輪にいかんなくそのパワーを伝えている。
何とも実用性に乏しいのは
というのも、元々が競技用車のベースだからであるが。
半世紀以上前に行われていた
なんだってこんな
後部のカバーを開けてスターターワイヤーを引っ張ると、蒸気機関の釜に点火用オイルと
特に冷めてからの始動は時間が掛かる。
2度程引っ張った所で火が起こり、ギヤとドライブベルトの回転音、黒い排煙が出始める。
運転士=ユイスはその
ドア(オモチャみたいなサイズ)は、正直無くても困らないが、あくまで「市販車」である以上、必須要項だった。しかし、タマに短いスカートで乗り込む相棒はこの
乗り込むと、バスケットを助手席側、足元に置き、クラッチを踏んでギヤを入れる。
アクセルをゆっくり踏み込み、車庫から完全に出すと、シャッターを閉めるために一旦降りる。
もう一度乗り込むと、ステアリングを左に切る。頭の中で地図を思い描く。連中は東区からやって来た。で、家の前で事故ったということは、北しか進む方向が無いでしょ。
元々が馬車道なので、直角のカーブというのが車道には無い。何故なら、操舵輪の無い馬車は直角にも緩くにも曲がる事が出来ず、轍に沿ってしか走れないからだ。
ココからは推測だが、古い輸入車だとすると、轍にタイヤがとられたとも考えられる。
当時は国毎に轍の幅が違ったし、古い車はタイヤが細く、非力な物が多い。其れで慌ててた連中が轍にタイヤをとられ、操作ミスからの事故。
「こんなところかしら?」独りごちる。
勿論、この
更に。
「兄弟、って事は二人以上。」大きな袋二つっていうのなら二人が濃厚だ。4人乗りの車なので、もしかすれば4人かも知れない。
この辺は用心が必要だ。が、4人も居れば一人で乗り込んで
この辺が田舎者の習性なのか、只のバカなのか。
まあ、取り敢えずは車道を北に進むしかない。道々聞いていけば、おおよその位置位は掴めるだろう。
しかし
それに、流石に真っ昼間に
「ということは、何処で乗り捨てるか?よね…」あの警部も出てくるのかしら?
そろそろ住宅街を抜け、市場通りに。そうなると昼前の大混雑に遭遇する。逃げるならこの先の大きな辻を東に行くしかない。西に行けば警視庁ど正面、北は市場だし。
思索に耽っているうちに辻の前まで来てしまった。辻の真ん中にある信号機は赤色。もうちょっとだけ…(此処までに駐車された形跡も、寄り道できる枝道も無かった。住人達に聞くまでもなかったけど…)
信号機が青く光る。
(ここはカンだ。)真っ直ぐに市場に向かう。
混んでいるとはいえ、多少の駐車スペースが有る。そこに買い物客として潜り込んだ、とすれば多いに有り得る。
近くの青果店の女主人に声を掛ける。
「ねぇ、さっき古い車通らなかった?」
「あら。ユイスちゃん、久しぶり~どうしたの?」
「青リンゴは在るかな?」
「あら。紅いのなら在るわ。さっきブドウを買っていったお客さんが、魚屋さんを探してたみたい。」
「そっか、ありがと。帰りに寄るから。」
「待ってるわよ!」
少し先の駐車区域に車を停めて、装備一式とレモネードを取りだし車を降りる。
瓶のコルク栓を開けると一口飲んで栓を戻し、席に置く。そしてエンジンを切ると装備を着ける。スタックベルトにハンドキャノンを付け、(
さっきの会話。リンゴの色は事件性の有無、ブドウは複数人、魚屋は知らない人(青果店に魚は無い)。帰りに寄るから、は手ぶら。現場で拘留するから。問題は複数人が何人か?だが、人混みの中、素人に正確な人数がわかるわけないし、下手に断定すれば万が一の伏兵に気が付かないかもしれない。
それに、人数がいるのは想定内だし、判るということは、車を棄てたという事で良いだろう。
駐車区域をもう一度よく見ると、4台駐車。その内2台は明らかに商売用だ。残る2台はどちらも後ろを向けている。パッと見ただけではよくわからない。もう少し近付けばいいのだが…せめてタイヤだけでも。
代わりに逃げ込めそうな小屋みたいな物が無いだろうか?
屋根だけで判断は出来ないが、3つ程見える。
「ち…」
このままでは拉致があかない。
銃持ちのバカが数匹、こんな人混みの中で暴れでもしたら目もあてれない。
オーブを取りだし。
(ハンサム、聞こえて?)
(なあに?)
(バカ共が市場に逃げ込んだ。一人で対応してるけど、報酬アップ出来ない?)
(自己責任、て言われそうダケド。いいわ掛け合ってあげる。)
(恩に着るよ、アップ分は損害賠償に充ててね。)
(え?ちょっと⁉ …ちょっとって!ユイス!)
手のひらサイズのオーブをポケットに。
(手配書とワンセットでレンタルされる)
よし、小屋一軒位は吹っ飛ばしても良さそうね…
こそこそと先ずは1台目を目指して壁沿いに進む。その前に一軒目の小屋。入口、路地は無い。そのまま車の近く、2軒目も見える。こっちはドアが有った。閉まっているようだが、鍵はわからない。倉庫っぽいが。
車は…外れ。もう1台。あれか。バン仕様の商売用の向こう。小屋の前。古いが廃屋では無さそう。ドアの前。両開き、隙間が有る、灯りは無さそう。ジャケットのポケットから小さい手鏡を出し、中を覗く。暗くてよく見えないが、人の気配は無さそう。が、油断は出来ない。隙間をさっと通りすぎる。車が見える。バンパーが壊れた車。
ふぅ。軽く息を出す。壁を背に。右手を脇に入れ、
左手はハンドキャノンに。
ガチャリ。
人差し指をシリンダーに添わせて、ゆっくりと一歩を踏み出す。
ガタッ!後ろ、さっきのドアが開く。
咄嗟に右腕を伸ばし、顔も向ける。
「おやあ?どちらさんかね?」呑気な声。
その瞬間、今度こそ。車のドアの音。
振り向かず、左腕を伸ばしハンドキャノンの
ぽんっ!見た目からは想像もつかない軽い音。そして。
ガチャン!!ばっふぅー!
硝子の砕ける音、弾頭が破裂して黄色い煙幕が立ち込める。そのまましゃがみこみ、出て来た人物の品定め。
「わ!な、なんだあ!?おい!」
外れ。
振り返り右手を煙幕に向けて、一発。空に。
パン!
パンパン !!
撃ち返してきた!今度は2発。煙幕に撃ち込む。反応がない…車の脇の方に走る。ハンドキャノンをベルトに戻し、車の陰で様子を伺う。
「バレちゃってるー」「落ち着け、まだなんとかなる。」
二人?にしても雑魚すぎやしない?慎重にいくのは当然だが、チンタラしていると逃す恐れもある。そして、何よりしなければならない事が。
大きく息を吸い
「逮捕状の執行を宣言する!貴様らは司法により裁かれる!尚、裁判では黙秘、並びに弁護士を雇う権利が在る!」
もう一度、息を吸い吐く。
そう、この宣誓をしなければ本来民間人である賞金稼ぎに逮捕権は無い。
めんどくせ。唾を飲み込み、出方を伺う。
こんなんで自首なんてするわきゃねーだろ。
思ってはいても言えない。
この宣誓が在るからこそ、賞金稼ぎという商売が認められているのだ。もしも、こういう縛りが無いと完全な無法地帯になってしまう。
とはいえ、完全に不意討ちが出来ないうえに、口上の最中に逃げられたり、最悪返り討ちといった事が頻発したため、最初の無力化の一発は
まあ、前回は完全に不意討ちで無力化出来たので帰り道に言ってたけど。
車の陰から不用意に出るのはまずいが、このままとはいかない。動く気配が無さそうなので、車の後方から壁に向けて制圧を図る。
パンパン!パン!
撃ちつくし、シリンダーを開けて
この射撃に泡を食ったのか、はたまた逃げ出したのか、動きがない。中っていれば悲鳴の1つもあるだろうし、万が一に
そろそろ煙幕も薄れてきた。
倒れてもいないし、車は空っぽなのも判別出来た。という事はさっきの倉庫か、もう1つの小屋か。行き当たりばったりで入れるかどうか、分からない小屋を目指すよりは人が出て来た小屋に逃げる方が現実的だろう。そんな事に気がつけば、だけど。
注意を左の小屋に向けつつ、一瞬だけ右の小屋を確かめる。どうやらコッチでは無さそうだ。ドアが有ったものの、遠目にも錠前が掛かっているのが分かる。
改めて左に注意。人影は無い。さっきのオジサン?も居ない。上手く逃げていてね。人質なんてされたら手間が増える。
サッとドア前まで移動、ハンドキャノンを取りだし、銃身を折るように開けて空薬莢を引き摺り出す。次いで
「おい!武器を捨てて投降しろっ!」
反応がない。
「次は爆破する!」
ガタッ!
居るな、バカ共。ここで人質について何も無ければ制圧はほぼ決定。
「コッチにゃあ、人質が居るんだ!大体、女一人のクセにどうこう出来るかよ?爆破だあ?もしやれ…」
ぽんっ!
ズガァンッ!!
おっちゃん、ゴメン!
ドアの隙間から一瞬の閃光と轟音。右耳は押さえていたが、左が遅れた。少しクラっとする。
閃光と轟音で目と耳を灼く、スタングレネード。マトモに喰らえば、小一時間は身動きが取れない。衝撃自体は一瞬で後も残らないのでこういう密閉空間での制圧能力は桁違いである。
ハンドキャノンをその場に残し、銃を持ったまま中に踏み込む。倒れていたのは二人。どうやら人質云々はハッタリだったようだ。
拘束ロープを取りだし、銃を仕舞う。
完全にぐったりしている二人を縛ろうとした時に、唐突な衝撃。
不意討ちに前のめりに倒れて、後ろを向く。
さっきのオジサン。
「この
なるほど…尻餅をついた状態で少し下がる。
「テメエを売って足しにしてやる。だから殺さねえ。だが売る前にたっぷり遊んでやる!」
うわ、結構です。右手でブツを確かめる。
「大人しくしろっ!」ナイフを振りかぶり、威圧してくる。何せさっきの轟音だ。何時誰が来てもおかしくない。さっさとケリを着けたいだろう。
だけど。「脳みその代わりに糞でも詰まってんの?とっとと便所に顔突っ込んでこいよ、便壺野郎 !」
!
怒りの為か、声にならない叫びを上げてナイフを振り下ろす。
ガッ。
右手に持った「警棒」で受ける。その衝撃で相手はナイフを取り落とし、
その隙に立ち上がる。そして警棒…先端が少し太くなっている…を一息に振る。
仕舞い込まれていた部分が伸びて、1.5フィートの長さに。そして先端の分銅部分を左手で捻る。すると、螺旋状に畳まれていた
「あたしをどうしてくれるって?」
振りかぶる。
「あ。」
どごん。
脇腹に振り抜く。腕を巻き込んで、ごりッ!という感触。
「あばら骨もイっちゃったか。」
悲鳴。
「うっせえ。」前蹴りでひっくり返す。
「ち。」今頃になって後頭部が痛む。
「あー、ハンサム。済んだよ。3人。うん…ちょっと頭痛イ。マヂで。 …ああ、処理お願い。このまま帰る。うん、今夜寄るから。うん、じゃあね。」
3人の首に「
いい天気だ。時計を見る。
「そろそろ3時かぁ。エルは
晴れた午後の空気は美味い。
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