第3話 「好きな銘柄は賞金稼ぎ」

王都の朝は早い。何故かと言われれば、眠らない街だから。こそ、夜通し遊んだ連中は日の出と共に帰宅し、その日の夜に稼いだ酒屋パブや、賞金稼ぎバウンティハンター達は「上がり」を銀行に預けに行く。

勿論、中央銀行セントラルや、大手銀行メジャーバンクの営業取引時間は『朝食後から午後の紅茶までブレックファースト・トゥ・ティータイム』と決まっているので、深夜も営業中の中小の金貸しシティバンクに一時預けて、午後イチで正規の銀行に預け直すのが常である。

東区二番街の繁華街近くにある金貸し「豚の貯金箱ピギーバンク」に銀行強盗が押し入ったのは、明け方間近だった。


男は「ありったけ袋に詰めろ!」と、大きい麻袋二つをカウンターに叩きつけ、景気付けとばかりに銃を一発、天井に向けて放つ。

パン!

乾いた音と硝煙を振り撒くと(どうだ!)と言わんばかりにカウンターを見る。

ところが、カウンターの中にいる冴えない男性は聞こえていないかのように、ふぁっとアクビをすると、面倒くさそうにこう言った。

「あんた、よそモンだろ?どこの田舎者だ?」

「あ。え?」

ハンチング帽にサングラス、口元に三角巾。

変装と言うより…

陳腐な仮装ステレオタイプで、もはや幼年学校の演芸会みたいだ、と店主は思った。

「て、テメエ!コレが見えねえのかっ!」

さっき撃ったばかりの銃を見せつけ、今度はカウンター奥の壁に2発。

「あ、そう。」と、やっと店主が動き出す。

「へへ、最初っからやりゃあいいんだよ!このバロウズ兄弟はなあ、あァ…⁉」

店主はカウンターの下から大振りの銃を取り出すと、チンピラ強盗に突きつけてこう言った。

「次にウチに来るときは、ハンマーか銭を用意してからな。」

ばうん‼

強盗をわざと外した一発は玄関ドアの横の壁に無数のあな穿うがって、銃口から白煙をうっすらとあげている。

ガチャン!

銃身の底のスライダを引いて、薬莢を飛ばすと、元に戻す。もう一度ガチャンと音がして、薬室チャンバー散弾シェルが籠められる。

今度は無言で強盗の頭に狙いをつける。


「わ、わあー!」大慌てで廻れ右をして、強盗が店から出ていく。車のエンジン音とタイヤが軋む音を立てて、走り去って行くのが分かる。

店主は電話機の受話器を持ち上げると、交換士に「ピギーバンクだ、何時もんとこ頼むよ。ああ、そうだ。 …ああ、大将。実は…」



「う~…あぢぃ〰…」

声に出すと尚更、実感してしてしまうのがこの暑さというもの。

窓にはカーテンではなく、細かめの木製の格子戸が付けられており、風通しはいいが視線はさえぎるようになっている。

部屋には年代物の送風機シーリングファンが天井でゆっくり回っているだけで、冷房機具らしいものはない。

窓からの明かりは朝日のようだがあまり射さないのは、周りの建物の陰になっているからだろうが、年中排煙スモッグで暗いのだから、これでも明るいのかも。

ベッド以外にある家具といえば、腰高の衣装箪笥チェスト背高の衣装箪笥クローゼット、飾り気の無い姿見スタンドミラー文机ふづくえと椅子、古ボケた長椅子ソファーにサイドテーブル。後は、グラスが大半を占める食器棚カップボード。ソファーの上には脱ぎ捨てた革のライダースジャケットとデニムのホットパンツ。テーブルにはウイスキーのボトルとショットグラスが転がり、水が半分程残ったグラスと水差しピッチャー。小振りのバスケットにはチキンの成れの果てホネがいくつか。それとラヂオが雑音ノイズ混じりのジャズを演奏していた垂れ流し

そんな華麗な日常の朝を台無しにするような、耳障りなタイヤの引っ掻き音スキールと震動を伴う騒音。

衝撃で壁の漆喰しっくいがいくらかパラパラと降り落ち、喧騒が聞こえる。

2階で尚且つ窓硝子が開いていたため、喚く声や野次馬が何事かと叫ぶ声は、ジャズを掻き消して、騒音の坩堝るつぼと化している。

「ン?…んん…」(ンだよ…っせえな…)

まだ少しアルコールが抜けきらないので、もう一度寝直しを決め込む。


北と東に窓があるワンルームとキッチンスペースや水回りだけの賃貸住宅アパルトメントの1つ。

ワンフロアあたり2戸、4階建ての高層建築ビルヂング此処ここ、中央区ではポピュラーな建物だが、この 建物は一階部分が貸し店舗テナントになっていて、しかも整備工と車庫という少し風変わりな佇まいが住宅地がメインの五番街らしくない。

前面の道路は馬車が全盛期だった頃の名残で、しっかりとした石畳道。わだちもあるが、今時の車はその程度ではどうと云うこともない。


「あっちぃー!あーくそったれめ!」

朝日が昇るにつれ陽射しと気温が上昇する中、遂に根負けしたユイスはベッドに半身を起こし、汗に濡れたシャツを脱ぎ捨てた。

しばらくそのまま固まっていたが、諦めてベッドから降りる。脇に転がっていたショートブーツを蹴って気にもせず、シャワールームに向かう。この季節は水しか出ないが気にならない。

軽く汗を流すと、キッチンにあるサーバーから一杯水を汲んで、一息に飲み干す。

バスタオル一枚を肩にかけて部屋に戻ると、チェストから下着とシャツを取り出し袖を通しながら今日のプランを考える。

「あー。何だったンだろ?」恐らくは車が事故でも起こしたのだろうが、下のガレージに被害があったらたまったものではない。

とりあえずは情報集めか。

淡いグレーのシャツにホットパンツ、鉄板仕込みのショートブーツ、レザーのポーチだけの軽装で朝食ついでに野次馬の話しを聞きにドアを開ける…


階段を降りて、共同の廊下から玄関に。

横路地を抜け表通り。ちょっとした人だかりが出来ていた。

「ハイハイ。ちょっと通してね。」

当事者ですんで、ちょっと失礼…実際にガレージをレンタルしているのだから、当然だ。

向かって右側のシャッターがユイスの整備車庫バックヤードで、隣が整備工の店舗。主人は此処には住んでいないが、歩いて数分の場所なので、もしかすればもう来ているかもしれない。

いざ、見てみると自分のガレージのシャッターに傷は無さそうだが、お隣さんは壁の一部とシャッターが凹んで歪んでいる。恐らくは業者に頼んで取り替えだろう。

そんな感じで眺めていると、やれ大丈夫かい?と声も掛かる。見ての通り、と返していると銀髪、いや白髪か。を短く刈り込んだ初老の男がやって来て、「よおユイス。今朝は少し早いじゃないか?つまらん男に口説かれたからって、俺の店に八つ当たりは勘弁だぜ?」

「サイモン爺さん、ンな男が居たらこの辺じゃなくて酒場に被害が出てるって!」と誰かがヤジを飛ばす。

それを睨んでユイスが黙らせると

「あー、あたしもこのゴキゲンな目覚ましのイチ被害者なンだよ。ちっと、中見て来る。」言うなり、シャッターを半分程開けて中に入っていく。照明が点いて、ごそごそと音がしてきたが、叫び声もないので被害はないのだろう。

サイモンは煉瓦を退かしている近所の住人に礼を言いながら自分もそれに混じる。

「サイモンさん、コイツなんかどうだい?」

一人が大振りの何かを老機工士に手渡す。

「ほう。なるほど。」受け取ると頷いた。


「あら。そんで、ココまで徒歩?」

賞金稼ぎ斡旋所、兼酒場ゴロツキ以上、犯罪者未満の溜まり場

罪と対価ギルティ&ゴールド

カウンター越しにスキンヘッドの主人に事の顛末を話しながら、名物の魚と芋のフライフィッシュ&チップスとエールを注文オーダー

「そうなンだよ、ハンサム。朝っぱらからサカりやがって。お陰で車が出せないし、眠たいし。何か情報回ってね?」

事故処理とかであの後、警察がやって来て検証するとかで、一時道路封鎖がされていた。

丁度、銃と上着(流石にまる見えの携帯は建前上でも禁止されている)を持って出て来たら、この有り様。東区二番街にあるこの店までは、歩いて20分程か。朝の散歩には丁度良いかもだが。

「ソレね、多分これよ。トマーチンの店に押し入った野盗崩れ。しっかり名乗って行ったんだって。おバカよネェ。」

貼り紙を一枚、差し出す。

「へぇ。あの店豚の貯金箱に行くなら、銃じゃなくてハンマー持って行かないと。田舎者はこれだから。シャレも通じねえ。」

「よねェー。はい、お待ち。」エールのジョッキを渡す。

「サンキュ、えーっと。4000ボンズ?安っ!どんだけ小物なのよ、しかもDon't kill生け捕りかよ、ロクでもねぇ。もう、正当防衛でってもいいんじゃね?」

グイっと琥珀色の液体を流し込む。

支払い能力タコ部屋送りがあるんじゃないの?それに、ユイスって許可証ライセンス無いでしょ?殺人マーダーの。」

「ねえよ。そのための正当防衛言い訳じゃん。」

「お~コワイわー。コイツら、危ないお姉さんの機嫌ソコねちゃって。もぅおバカさんよね。」

「まだ受けるって言ってねぇぞ?」

「ハイ、お待ち。でも受けるんでしょ?」料理の皿をカウンターに置く。

「あー、わーったよ、ハンサム。受けるって。こんなカス、他に貰い手無いんでしょ?」地元名産の麦芽酢モルトビネガーを振り掛けながら。

「物分かりが良い子は好きよ。」

「止めれ、女に興味ないクセに。コレ食ったら行ってくる。どうせ、今帰っても警察ポリが居るだろうし。」

「どうぞ、ごゆっくりね♪」



昼食用にサーモンフライサンドとレモネード(瓶入り)を作ってもらい、家の前に。

すると、珍客?が。

「ン?修理終わったんだ。あ、エル。仕事取って来たわ。来れるの?」

おめかししちゃってまあ。

「あ、今日は学校に…って、もうこんな時間!?ヤバ!お昼抜きだよ!」

「何やってンだ。」

「おお、ソレ乗って行け。丁度いい慣熟運転だ。」

「そうするー!」

ヴイィィィィィー!

(そういや、直したって言ってたけど。走るモンだね。)

「行ったか。で、サイモン爺さん。お陰様で大正解。手配中の銀行強盗バンクロバーバロウズ兄弟だってさ。」

「ふうん、有名か?」

「さあ?聞いた事有るかも?ってレベル。どうせ、南部辺りの田舎者オノボリサンじゃないの?」

「で、手配書取ってきたンだろ?」

「まあね。正直、どうでもいいけど。でもさぁ、安眠妨害は断罪フルボッコっしょ。」

「エルはどうすんだ?」

「こんくらい、一人で充分。二人揃えて4000の仕事だし。山分けしたら、二晩で消えちゃうわ。」

「いい飲み方だ。」

「でしょ?」

「俺も店の修理が終わるまでヒマだからな。呑むなら誘えよ。」

「OK。ンー、いい天気。狩り日和かしらね。」

「連中も災難だな。」

「かもね。っと用意しなきゃ。大砲、大砲、っと。」

「オイオイ、戦争でもする気か?」

「まっさかあ。おどしに決まってンじゃない。じゃァ行ってくる。」

「場所わかんのか?」

事故った車ポンコツでしょ?誰か見てるわよ、きっと。」

「なるほど、じゃあ追加だ。ありゃ海外の量産品だ。西部辺りで流行ったか。古い型だから、魔術式蒸気機関マギテクニカルじゃねえ。それに、前の緩衝パーツバンパーが落っこちてた。アレが外れる位のダメージならそう遠くまでは走れねえ。どうだ?参考になったか?」

「充分さ。礼は酒でさせて貰うさね。」

「おう!気ぃつけてな。」

投げキッスで返事を。


ガレージに入り、愛車「インヴァーアランmk-II」の助手席に単座用シートトノカバーを掛ける。

ハンドキャノンヘイグp60」をカバー下に入れ、スタックベルトに煙幕スモーク2発と閃光弾スタングレネード1発、小型爆弾スマートボム1発。

ホルスターに愛銃「黒い指揮棒ブラックバレル」こちらはストックも全て通常弾、36発。

そして、「モーニングスター」


蒸気機関スチームエンジンに火を入れて


「狩りの時間ね。」




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