わるい子
私が小学生の頃、とある田舎に住んでいた。
見渡す限りの畑や田んぼの間にちょこちょこと民家があるような田舎で、人が多くなく子供も少ない地域なので、私はひとりで遊ぶことが多かった。
近所にある小さな公園でブランコを漕いでみたり、背が低い草が生い茂る原っぱで虫取りをした。
社務所のない小さな神社で数珠球の実や鬼灯を摘んだり、網を持って小川へ行きヌマエビを掬ったりと、遊ぶことには事欠かない長閑な田舎だ。
そんな田舎の車がほとんど通らない狭い道の奥にある、事務所を併設いる一軒家で父と母と暮らしていた。
一緒には暮らしていなかったが、年の離れた姉達もいる。
物心ついた時には姉達は他県で独立しており、家に来ることはほとんどなかった。
そのため、私は中学生になるまで一人っ子だと思っていたくらいだ。
父と母はいつも忙しそうだった。
母は仕事一筋の人間で、あまり家にいる事はなく、夕飯を作って一緒に食べた後また仕事に行くような人。
父は隣の事務所で「舎弟」と呼ばれる人たちに怒鳴り散らしながら仕事をしている人…というのが、当時の私の認識だった。
父は機嫌がいいときはすごく朗らかで気前がよく、舎弟と呼ばれる人たちに奢ってあげたり、何かを買い与えたりしていた。
だが、何かの拍子で怒ると火山が噴火するかのように激昂し、大暴れして物を投げたり壊したりするので辺りが壮絶な有様になった。
その度に、母や舎弟の人たちが宥め、煽てて、文字通り身体を張って落ち着かせないといけなかった。
幼い私にとって父の二面性は不可解で、暴れる父は怪物のようで震えるほど恐ろしかったが、機嫌がいい時の父は頭を撫でてくれたりして優しかったので大好きだった。
でも大好きな父がするその行為は、何時まで経っても好きだと思えたことはない。
それは決まって父と私しかいない日に行われた。
記憶にあるのは、父と私しかいない静かな部屋だ。
部屋には大きなベッドがあり、そこで服を脱がされ寝かされた私を父が笑顔で見ている。
父の大きな身体が私の身体に覆い被さってくるのが怖く、私は小さな手をぎゅっと握り締めることが多かった。
父は私に触れる時、いつもどこか楽しげだった。
逆に私はいつも身体を強張らせ、緊張していたように思う。
父が私と唇を重ねるとき、口内はタバコの味で苦く、嗅ぎ慣れない匂いに眉を顰めた。
何かを探るように反応を見られながら胸を触られても、くすぐったいか痛いだけで、どうしたらいいか分からない。
陰部に触れられても皮膚を触る感覚しかなく、ましてや指を入れられても痛みにシーツを蹴るくらいしか出来なかった。
特に挿入した際の痛みは酷く、打撲した場所を棒で突かれている様な、腹部に差し込んだ棒をぐちゃぐちゃと掻き回すような形容しがたい痛みを感じた。
我慢できないほどの痛みを泣きながら訴える私に
「そのうち気持ちよくなるから大丈夫」
「声を出さずに静かにしていろ」
父はそう言って、自分がしたいように動いた。
痛みに耐えかねて逃げるように腰を引くと更に覆い被され、父の鳩尾に鼻と口が密着し、声を出すことも、呼吸も自由にはさせてもらえなかった事を覚えている。
息苦しさと痛みの中、少しでも早く終わることだけを祈り続けていたが、子供だった私にとってその時間はとても長く、苦痛に満ちていた。
涙が零れる目をぎゅっと瞑り、真っ暗闇の中でぎしぎしとベッドが軋む音や真上から聞こえる荒い息遣いだけを聞いて我慢し続けた。
父が満足してその行為が終わると、息苦しさからの開放とやっと終わったという安堵感を感じ、下腹部がジンジンと痛み、ぐわんぐわんと耳鳴りがして動けず、ぐったり横たわるのが常だった。
そんな私に父は、
「○○ちゃんは身体が弱い。
お父さんは○○ちゃんのためを思ってしているんだ。
だからこれは、お父さんと○○ちゃん2人だけの秘密にしなくちゃいけない」
「○○ちゃんが元気になるために必要なことだ」
「○○ちゃんが大人になれるように、お父さんも頑張っているんだ」
といった言葉をよく口にした。
実際、その当時の私は身体があまり強くなく、熱を出して寝込むことも少なくなかった。
幼い私はその言葉を信じ、私の身体が弱いのが悪いとすら思っていた。
『お父さんに手間をかけさせている私が悪いんだ 』
『だから、痛くても苦しくても我慢するしかないんだ』
そう考え、私は嫌とは言わずに我慢し続けた。
いつか大人になって、身体が丈夫になったらしなくてもよくなる…そう信じていた。
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