やバイ

 そのお店で途中に何度か意識が飛んでいたが、寝込むことはなかった。お陰で眠気は増すばかりだ。もう何も考えられない。今ここに布団があれば道路でも線路でも熟睡できる。長椅子でもいい。いや、もう道路の上でもいい。寝たい。

 いつの間にか会計を済ませて外に連れだされていた。やはり、意識のもうろうとしているおれを角田は両手で支えて歩かせてくれた。もはや角田が何を言っているのかさえ頭に入ってこなかった。

「角田、ごめん。おれ、今日すごく眠いんだ。またにしてくれない?」とうつらうつらしながら言った。半分以上寝ている。

 角田がなにか言ったが、全くわからなかった。

「なに?」と聞き返してみたが、眠くて多分また頭に入ってこないだろう。

「だからー、おれの知っている店に行こう!」いつの間にか夕方になっていてあたりは少し薄暗かった。何時間いたんだろう?

 開かない目をかろうじて角田に向けた。朝よりも目が異様に輝いていた。よほどそこのお店に行きたかったのだろうか?

「ほら、おれが連れてってやるよ」と角田は全く身体に力が入らないおれの肩を抱いて歩かせてくれた。

 気が付くと角田の知っているお店にいた。店内は薄暗く、人が密集していて暑かった。おれは全く記憶に無いのだが赤いソファに座っていて、両端に知らない男たちがいた。角田がいない。

「おーい、意識ある?」と左側の五分刈り頭が右手の甲でおれの頬を触りながら言った。金のネックレスが店内のスポットライトに反射してキラキラ輝いていた。

「あ、おれの友人はどこですか? 角田ってやつです」

「あー多分トイレ」と五分刈り頭が言った。

 何だこの店? クラブ?

 わからなかった。

「おい、寝るなよ」とそこへ角田が帰って来た。

「えっ、今何時だ?」慌ててスマホで時間を確認した。

 8時を過ぎた所だった。周りの反応からはおれは寝てはいなかったようだ。しかし、その間の記憶が無い。

 眠い、ただ寝たいだけだった。今日、なんでここにいるのかもわからなかった。

 頼むから寝かせてほしい。もう限界だった。

 角田が五分刈り頭を押しのけておれの隣りに座ってきた。

「大丈夫かよ、本当に!」と肩に手を回す。

「角田、眠いよ。寝たいよ」と角田にうなだれがかって言った。

 途端に、周囲から歓声があがった。

 なんでそんなに周りが反応するのか不思議に思ったが、角田の言葉で打ち消された。

「分かった、寝に行こうな」ありがたかった。やっと分かってくれたのだ。

「一緒に寝よう」とこの言葉を聞いて、ハッと思い出した。

 確かこいつはゲイだった。このお店もそれだ。眠気で全く意識をしてなかった。

 おれはとたんにゾッとした。ヤバイって思ったのだが、意識がすでに半分なくなっていて抵抗できなかった。

 しっかりと肩を抱かれたままのおれは相変わらず開かない目で角田を見ると、もはやギラギラとしかいいようのない目でおれを見ていた。

「優しくするよ」

 角田の言葉で本当に意識が飛んだ。

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眠い 川島健一 @jp_q

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