ネコむ

「おい、大丈夫か?」と角田がおれの頬に右手を当ててきたので、やめろと振りほどいた。目が勝手に閉じそうだった。

 おい寝るなよとおれの背中を叩いた角田は歩き始めた。どこへ行くのだろう?

「どこ行くんだよ? 角田」

「昼呑みだろ? 朝からやってる店あるんだよ。ついて来いよ」と角田

 あーそうだった。でもなんかおかしい、なんだろう? この違和感。確かに昼呑みは行くと言う話にはなった。だがなんで角田と二人で行くんだ?

 おかしい。

 そうだ、女がいない。そのことを角田に問いただすと、

「まだ後だよ、こんな早くからは来ない。呑んで下地を作っておいたほうがいいぞ。お前シャイだから」

 駄目だ、おれの状態を角田は知らない。今呑んだら確実に寝てしまう。

「あーならさどこかで飯にしようぜ」と精一杯の妥協案を出した。ファミレスなら少し寝ても大丈夫だろうと思ったからだ。今は寝ることしか頭にない。それに寝れば少しは眠気も収まるだろう。

「腹一杯になったらまた眠くなるぞ」とかなりまともな答えを角田は言った。

 おれは、とにかく眠たいだけだった。

「これから行くところは、食べ物もあるから大丈夫だよ」と角田はおれの脇に手を入れて眠気で力の入らないおれをグイグイ引っ張っていった。

 ほぼ意識がない状態のおれは角田に引きずられるままになっていた。

 ほら着いたと角田が言った。お店は立ち呑みではなく、ごく普通の居酒屋だった。それにオヤジばかりで若い女性の姿がなかった。それならそれでカウンターにでも突っ伏して寝ようと呆然と考えていた。座れて眠れることが嬉しかった。

「おい、ここは気をつけろよ。お前今日はやばそうだからいうけど、ここは寝るの禁止だからな」角田が肩で合図してきた。

 ほらと指差した方に張り紙がありこう書いてあった。

『うたた寝禁止!! 寝ている方はお帰りいただきます。』

 目をカウンターの中に移すと、いやにガタイのいいオヤジがこっちを睨んでいる。

 おれが眠くて仕方ないのをわかっているようだった。

「寝るなよ!」角田が太ももを擦りながら念を押してきた。

 おれは心のなかで「寝かせてくれー!!」と絶叫していた。

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