三十路を越えたら危険な解決方法

第158回 二代目フリーワンライ企画 参加作。


使用お題:

 なんだかめんどくさくなってきた

 よいよい(変換自由)

 ただでは転ばない

 きれいな髪

 金ならくれてやる


お題の並びが良かったので、全部消化することだけを目標に書きました。起承転結なんて知りませんね!!

(そしてタイトル思いつきませんでした)



『三十路を越えたら危険な解決方法』



「金ならくれてやる、とっとと失せろ!!」

 悪し様に吐き捨てられ、野良犬でも追い払うように屋敷から蹴り出された。胸元から、乱暴に押し付けられた高額小切手がヒラリとアスファルトの上に落ちる。

「ンっだ畜生、テメェが呪われっちまえバーカ!!」

 じゃらん! と、右手に握った錫杖を鳴らし、チンピラ拝み屋・狩野怜路は盛大にがなった。

 この錫杖で、人頭スイカ割りをしなかっただけでも賞賛に値する。そう己を褒め称え、ジャケットの懐から、ひしゃげた煙草の紙箱を取り出した。



「で、結局諦めて撤収したのか……。じゃあ結局どうなったの? 依頼人だった人は無事?」

 依頼主の父親による、チンピラ詐欺師扱いがよほど業腹だったらしく、いまだ頭から湯気を立てる様子の大家に美郷は訊いた。

「シラネ。なんだか面倒臭くなって来ちまってなァ……」

「らしくないね」

 頬杖をついてそっぽを向いていた大家が、美郷の思わずこぼした言葉に片眉を上げる。

「べっつに。タダじゃ転ばねーよ。小切手は換金して俺の口座だ、当分遊んで暮らせるぜ」

 場所は怜路の巣こと、狩野家の茶の間である。職場から帰宅するなり連行されて、雑多に散らばる各種資源ごみ(プラスチック容器・古雑誌・ペットボトル・空き缶等)と洗濯物、あるいは可燃ごみの間に座らされた美郷は、周囲のごみを分別しながら自分の陣地をつくる。怜路は手酌で甘ったるいチューハイをコップにどぽどぽ注いでいた。

 目の前の、無理矢理場所を空けて並べられた風情のテイクアウトディナーは豪勢だ。全て安っぽいプラ容器のままだが、添えられた紙ナフキンに印刷されたロゴも優美である。羽振りよく散財したのは事実だろう。

(でも、嘘だよなぁ……。まあ、口座までは嘘じゃないんだろうけど)

 当分遊んで暮らすわけでもないのだろう。そんな性分でないことくらい、付き合いが一年そこそこの美郷にもよく分かっている。本当に割り切れているならば、わざわざ美郷を取っ捕まえてぐずったりもしない。

 今回の依頼主は良い所のお嬢様、トラブルはストーカー気質の男が送り付けて来た呪具だったという。放っておけば、いつ大事件に発展してもおかしくはない。そんな案件を、見過ごせるわけはないのだ。

 華やかで彩り豊かなテイクアウトディナーを割り箸でつつきながら、美郷は大家殿が頭を整理するのを待つ。しょっちゅうこうして愚痴に付き合わされるのを美郷が受け入れているのは、怜路は放っておいても、ぐずるだけぐずったら自分で結論を出す男だからである。後押しの優しい言葉をかけてやる必要がない。隣でもぐもぐやっていれば良いのだ。

(そして、その結論も傍から見れば最初から一目瞭然……まあ、儀式みたいなものか)

 怜路はチューハイを空け、今度は赤ワインをコップに注いでいる。『グラス』などと上等なものではない。いかにも牛乳でも注いで飲み干せば良さそうな、180mlサイズの『ガラスコップ』である。風情が無い。品よく煮込まれたミートボールに、プラスチックフォークが突き刺さった。ミートボールは無残に割れる。哀れである。

 飲んで、食って、飲み干して、貪って、更に飲んで。

 いよいよいい加減、酔いが回って来た頃合いのチンピラが、テーブルに突っ伏し気味のままボソリと言った。

「――みさとくん、そのきれいな髪を何本かくれねぇか」

 どうやら肚が決まったらしい。

「いいよ。和紙で包んで結んだやつだろ? 何型のやつがいい?」

 尾行型、監視型、護身型、捜索型、全て小動物だが、美郷の髪は色々な使役を作り出せる。対象者を陰ながら見守るにはもってこいだ。

「あー……色々! いっぱい!! 全部!!! 一本いちまんえん!!」

「やめろ、ハゲる」

 小切手の金が美郷の方に流れて来るのはありがたい限りだが、モノには限度と言うものがある。実際には髪を抜くのではなく切っているが、それにしたところで大量に切りたくはないし、使役神を作り出すのもエネルギーを使う。「副業」規模になれば、公務員としての服務規程にも抵触するだろう。

「いつも通り、家賃三か月分。あとはがんばれ」

 キッシュの最後の一片を口に放り込み、美郷はそう言った。





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