【告知SS】おんてん?【メタネタ】

※こちらは、巴市を本棚登録してくださっている方へダイレクトアタックをかけるための告知SSです。このたび、巴市が商業出版されることになりましたのでお知らせに上がりました。

※メタネタです。深く考えたら負けということでひとつよろしくお願いいたします。


(エブリスタで告知に作ったSSです)


 ***



 ある日曜の早朝。夜の散歩から帰った白蛇の胴に、何やら細く畳んだ紙を結び付けられていた。

「ンだこりゃ。白太さん、何されてんだオメー」

 遅番明けの就寝前だった怜路が、呆れながら結び文を取り上げる。開くとたった四文字のひらがなが書き付けられていた。

「…………おんてん?」

 なんだそれは。首を傾げる怜路の足元で、白蛇がぴるる、と舌を出した。



「で、何だと思う?」

 まだ眠っていた美郷の部屋に上がり込み、怜路が問うた。叩き起こされて目を擦りながら、紙片を受け取った美郷も首を傾げる。

「いや……分かんない。特に夢も見なかったし――白太さん、コレ、誰に付けられたの?」

 布団の上に正座して、まだ寝巻姿の美郷は白蛇に問うた。

 ――だれ?

 白蛇は不思議そうに問い返すだけだ。つまり、分からないらしい。

「ダメだ、分かんないみたい」

「何だそりゃ、気味悪ィな」

 諦めて首を振った美郷に、怜路が眉根を寄せて畳の上にどかりと座る。その指が白蛇の尾をつまんだ。

「何だろうね、『おんてん』」

 全く想像がつかない。頭を捻っている間に体の方も目が覚めて、美郷の腹がぎゅうと鳴った。

「……温玉天ぷらうどん」

 思わず呟く。

「そらオメーの食いたいモンだろうが!」

 ぺしりと叩かれた。その勢いで傾きながら、美郷はうーん、と唸る。

「そこは温玉天丼だろ」

「朝からコッテリ行くね」

「お前がだ。俺ァ寝る前の夜食だわ」

「それはもっと悪いのでは」

 現実逃避のくだらない言い合いをしていると、ひょっこりと何かに気付いたように白蛇が頭を上げた。

 ――おんてん、おいしい?

 世の中を評価する基準が「美味い・不味い」しか存在しなさそうな、食いしん坊白蛇が訊く。

「さあなあ」

「温玉天ぷら某ならきっと美味しい」

 怜路と美郷、おのおの適当に返す。

 ――おんてん、おいしい!

 白蛇の中で、「美味しいもの」と確定してしまったらしい。

 ――おんてん、どこ? おやつ? おいしい?

 食べたくなったらしい白蛇が騒ぐ。

「分かんないよ。何かヒントになる物が他にあればだけど……」

「白太さん、今日ごっくんしたモン全部吐け。何かあるかもしれねェ」

 困り果てる美郷の隣で、怜路がおもむろに白蛇を掴んだ。そのまま頭を逆さに振る。

「ちょ、ちょ、何するんだ!」

 ――きゃー

 怜路に振り回された白蛇が悲鳴を上げてジタバタと暴れる。どうにか怜路の手から逃れて、耐えきれなくなったように巨大化した。――正確に言えば、元サイズである大蛇に戻った。最近気付いたが、この白蛇の「本当の大きさ」は最大サイズの方なのだ。

 白い大蛇が、ビクリと頭を痙攣させる。そして、ぺっ、と何かを吐き出した。

「おっ、なんか出てきたぞ!」

「お前……覚えてろよ……うっ」

 怜路は意気揚々と白蛇の吐き出したものを回収しに行くが、美郷の方は自分が振り回されたような気分の悪さに頭を抱えていた。

「――んー、なんだこりゃ、掛軸か」

 一体どうやったら、山を這っていて掛軸を拾い食いするというのか。それよりは、怜路が持ち帰った変な呪物の可能性が高いのではないか。

「お前がやったもんじゃないのか?」

 疑念と恨みを込めて見遣る先で、怜路が掛軸を開く。

「ちげーよ。おっ、何か書いてあんぞ。えーと?『祝・陰陽師と天狗眼-巴市役所もののけトラブル係-八月二十日発売』……?」

 訥々と読み上げた怜路が、首を傾げて固まる。

 ――一瞬、寒々しく沈黙が落ちた。

「…………ええと、それは?」

「発売祝いだな」

「何の」

「陰陽師と天狗眼、だろ。ああ、つまり『おんてん』か!」

「そこに納得してる場合か!」

 ぽん、と手を打つ呑気な怜路に、思わず美郷は声を荒げる。そうじゃない。

「まあまあ落ち着け美郷ォ。異界から流れて来たモンに目くじら立ててンじゃねーよ。ここ告知ページだから。流せ、流せ」

「唐突なメタ発言やめろ!」

 頭を抱える美郷に、けたけた笑いながら怜路が感慨深そうに腕を組む。

「いやァ、俺らの話が全国の書店に並ぶんだぜ。うそくせーーー」

「こんなアホみたいなメタネタの方がどうかと思うよ。そういう話じゃないだろ『巴市』」

「『おんてん』」

「イヤ、おんてんは……」

 ――おんてん、おいしい?

 不意に、白蛇の思念が割り込んできた。はっ、と白蛇を見遣ると、巨大化したままとぐろを巻いてこちらを見ている。

 ――おんてん、おいしい? おやつ?

「待って白太さん。りょ、怜路。つまり『おんてん』って……」

 おんてんとはつまり、陰陽師と天狗眼だった。つまり美郷と怜路のことである。

「……お前と俺だな」

 言って、怜路が白蛇から視線を逸らさず立ちあがった。美郷も同様にして後ずさる。

 ぴるる、と白蛇が舌で空気を掬い取る。

 室内が緊迫した。

「「……逃げろ!!!」」



 文字通り裸足で二人が逃げ出した後。

 ――おんてん、おいしくない。

 ドタドタと遠く響く足音と、何やら口論を聞きながら、白蛇は諦めてうずくまった。



 ***

※公式な略称はアナウンスされておりません。「陰陽師と天狗眼」で一番ゴロのよい略称は「おんてん」しかないのでは…という妄想です。


……というわけで、ことのは文庫さまより8月20日発売です!

『巴市の日々』改め『陰陽師と天狗眼-巴市役所もののけトラブル係-』

WEB版を大幅改稿・大幅加筆してお届けいたしますので是非! 題名の雰囲気は変わっておりますが、中身の雰囲気は「巴市」っぽさに更に全振りしております。2話と7話がほぼリライト。その他、多数加筆や追加場面ありです。

装丁画はなんとカズキヨネ先生! どうしてしまったことだ…!

滅茶苦茶美麗な表紙は、エブリスタ表紙にも使わせて頂いておりますが、いかんせん画像小さいので……是非、店頭でじっくりお手に取って頂ければと。

裏表紙まで続く一枚絵に、巴市の世界観をぎゅっと凝縮した凄い美しい絵です。


それでは、以上告知でした!

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