白太さん日記~白太さんところなぱにっく~

※※※数か月前の時事ネタです※※※

(この頃は、まだコロナがこんな長期戦になるなんて思ってなかったですね…)


なんか勢いで書いてしまった。いつも白太さん愛で愛でして下さる方々への感謝を込めて。それと最近ずっと本編で白太さんも怜路も出せなくて…ちょっと書いてる方もしんどいのでその反動が……ww


勢いだけの謎時空なので、本編世界線には存在しないお話です。

(巴市本編は地味に令和2年から数えるとアバウト5年前の世界線です…12月23日が祝日な時点で察してやってくだせェ(本編2部エピローグ参照))

エピソードの季節としては「それもまた、日常茶飯事」のジャスト一年後(現在やってる鬼女編よりも未来)くらいですが、克樹の付き人の品定め云々は、本当は潮騒よりも前の春から夏頃にやってると思うので。


というわけで、細かいことは気にせずよろしくお願いします。



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『白太さん日記3~白太さんところなぱにっく~』



 ――ころな、おいしい? おやつ?

 唐突に白蛇が聞いて来た。居間に転がってスマホゲームをしていた怜路は「あ?」と顔を上げる。テレビはやれ在宅だテレワークだ非常事態だと騒がしいが、巴市ほどの片田舎では大した緊迫感もない。ただ、特自災害はやはり疫病鎮めの修祓に奔走しているらしい。らしい、というのは、怜路はそちらには駆り出されないからである。基本、怜路が呼ばれるのは何がしかトラブルが起きた後だ。そうなる前に、公僕の皆様には頑張って頂きたいものである。

「どした、白太さん。退屈か?」

 土曜日の今日、本体の方は弟の顔を見に出掛けていた。白蛇を単体で留守番させるなど、以前ならば考えられなかったが、美郷も最近はだいぶ油断している。本日オフで家に転がっていると知られた怜路は、子守ならぬ蛇守を押し付けられていた。克樹の新しい付き人の品定めが、今回美郷の主な目的らしい。その相手に白蛇の気配が漏れるのを嫌ったのだろう。……もっとも、何故か白蛇が大のお気に入りで、勢い余って抱き枕まで作った弟の不興は買うに違いない。

「コロナはウイルスだかンなァ……白太さんに喰えるモンじゃねーと思うぞ」

 白蛇の好物は俗に「もののけ」と呼ばれる、自然物や歳経た器物の精霊である。流行り病は古来から怨霊や鬼、疫神として恐れられて来たが、この現代社会にあって「ウイルス」という科学的な正体を暴かれた伝染病が、白蛇のおやつになるとは思えない。

 ――ころな、おいしくない……。

 いかにもションボリといった風情で白蛇が返す。ちなみに、ビーズクッションの上に転がる怜路の上に、更に大蛇サイズの白蛇が頭を乗せたサンドイッチ状態での会話だ。

「つーか、コロナまだこの辺にいねーだろ。ンでそんなこと思ったんだオメーは」

 スマホを放り、大きな白蛇の頭を撫でながら怜路は問う。

 ――あまびえ、おいしい?

 怜路の問いは無視し、めげずに尋ねてきた白蛇にブフ、と怜路は吹いた。インターネット妖怪と化している例のアレが気になるらしい。

「イヤイヤそれは喰ってやるなよ!? アマビエ喰ったらお前、美郷に超怒られンぞ。……なんやかんや疲れてやがんのかねアイツも」

 おおかた仕事が忙しいのだろう。最近気付いたが、恐らくこの白蛇は、美郷の代理で怜路に甘えに来るらしい。折しも年度末だ、タダでさえ事務量が増える時期である。

「しゃーねえな、おやつ出してやるから奥に来い」

 狩野家の奥には、怜路が仕事の都合で溜めこんだ呪具やら魔物の封じられた器物が納めてある。以前、白蛇の腹に処分したいと申し出たら美郷に怒られたのだが、たまにこうしておやつを出すのは黙認されていた。おかげで、だいぶ納戸の風通しも良くなっていた。最初美郷は白蛇の強大化を恐れていたが、怜路の知人から神刀を預かった辺りでどうでも良くなったのだろう。

 ――おやつー!

 はしゃいだ声と共に、いそいそと怜路の上からどける白蛇が、果たしてどこまで計算して動いているのかは分からない。しかしこうして餌付けして、素直に喜ばれると嬉しいのでついつい甘やかしてしまう。最近では、この白蛇のおやつを集めるために仕事を選んでいるような有様だった。

「ネットで拡散した妖怪ってなァ喰いようがあんのかねェしかし」

 いわゆるインターネットミームだ。世間一般に流布する「妖怪」そのものが元よりミーム的な存在であるためSNSとの親和性が高く、一度話題になると爆速で拡散してしまう。

 ミーム的な「妖怪」と白蛇が「おやつ」にするような辺りの自然霊は別モノだ。「妖怪」の原型となる精霊は目撃された地域(今回は熊本県であったか)に存在するとして、それが全国区に流布されて出来た「妖怪」はヒトの作る概念だ。「妖怪」はその存在を知った人間のいる場所に偏在するが、ミームを伝播させる媒体が電子になった昨今、彼らは宿る「場所」も現れる「時」も持たない。つまり、白蛇が「ごっくん」出来る「本体」が存在しないのだ。

 ――などと益体も無いことを考えながら場所を移し、怜路は納戸に据えられた婚礼箪笥の抽斗を開ける。さて、本日は何が良いだろう。

「白太さん、この軸なんてどうだ?」

 言って、後ろを付いて来ていた白蛇の鼻っ面に、木箱に入った掛軸を差し出した。確か、それこそ手にする者を必ず病にした、曰くつきの掛軸だった筈だ。古道具屋に潜り込んでは獲物を待ち、軸の絵に魅入られた者に買われては持ち主の精魂を食い尽す。

 ――おいしそう! たべる!

 捕える時には命がけ、どうにか封じても始末に困り、結局持ち歩いていた難敵だった。それが今や、ペットの喜ぶおいしいおやつである。人生、何が起きるか分からない。いつかコレに殺されるかもしれないと思っていた時期もあったのだ。

「よしよし、じゃあ封開けるから待ってろよ……ホレ、あーん」

 待ち遠しそうにぴるぴると赤い裂舌を出してた白蛇が、良い子にぱかっと口を開ける。そこへ封じの木箱から取り出した掛軸を押し込んで、怜路はごっくんした白蛇の頭を撫でた。なんというか、マリンショーでもしている気分だ。

「……コロナは喰えなくてもアレだな、コロナへの恐怖はアレ鬼みてーなモンだからな。集めてまとめてお前がごっくんできりゃ良いのになァ」

 コロナパニックは目を覆うものがあると、怜路は心底うんざりしていた。こんなクソ田舎でなぜトイレットペーパーの棚がスッカラカンにならねばならないのか。お陰様で、丁度そのタイミングでペーパーを切らした狩野家は大変難儀をしたのだ。

「混乱と恐怖が呼ぶ『鬼』だ。厄介なモンだぜ」

 そして、人間のメンタルとは進化しないものだ。

 オイルショックは何年前だよ馬鹿か、とぶつぶつぼやきながら、怜路は婚礼箪笥の抽斗を閉める。ちなみにマスク不足も怜路には打撃だった。スギ花粉の攻撃を避けられない。世間はもはや花粉症の存在すら忘れたような有様だ。全く腹立たしい。

 ――白太さん、ぺっ、する?

 ご満悦の白蛇が、何の脈絡もなく訊いてきた。

 白蛇が食べるのは、器物に宿った「霊」だ。霊と言って死霊ばかりを指すものではなく、とりあえず霊的な中身である。中身を食い尽された器物は不要なので、時折白蛇はその「食べ殻」を吐き出すのだ。

「おー、ぺっしてみ?」

 恐らく先程の掛軸だろう。そういえば、軸に何が描かれていたのだったか忘れてしまった。

 白蛇が首をうねらせて掛軸を吐き戻す。不思議と蛇の体液等で汚れてはいない軸を、怜路は広げて中を見た。

「ンだこりゃ……真っ白かい」

 どうやら、描かれていたモノ自体が白蛇の腹に収まったらしい。そこには古びて黄ばんだ白紙が、ただ立派な表装に貼り付けてあった。

「んあーーー。何か描いてみるか、白太さん。アマビエとか」

 真っ白も寂しいものである。怜路のくだらない問いかけに、白蛇は「はて」とばかりに小首を傾げた。ご意見を聞くため、ぺたりとそのツルツルした首を触る。

 ――あまびえ、食べる、めっ、て。

 どうやら、出来ても喰えない(喰ったら叱られる)モノなど要らない、ということらしい。

「じゃ何がいいかなァ……白太さん描いてネットにUPってみるか。したらネットの白太さんがコロナ鬼喰ってくれねーかなァ」

 言いながら、実にしょうもないことくらいは自覚している。

 きっと、下宿人が帰って来ればあきれ顔でお説教されるのだ。ヘンテコな呪術モドキに白蛇を巻き込んではいけない。

 ――白太さん、鬼、たべる?

 どうやら白蛇は乗り気のようだ。もしかしたらいい加減、この白蛇もコロナ騒動がうざったいのかもしれない。

「ま、それは本体に相談してからだな」

 どこまでも食い意地の張った白蛇に笑い、怜路は居間へと引き返した。



おわり。



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つか、八雲神社の神が喰えなかった白太さんに、ころな鬼食わせると多分腹壊すので駄目です。(by美郷)(この辺の食える・食えない基準は凄いアバウト)

白太さんの語彙が妙に幼いのは、美郷が内側に話しかける語彙を反映してます。「めっ」とか「ぺっしなさい」とか、多分弟に言ってたのと同じノリで言うんだと思います。


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