最新の雑多なSS
突然SS「宮澤君と同窓会(前哨戦)」
本編がないのは毎度のことですw 時期は「鬼女の慟哭」終了後の冬。年末年始に同窓会があるという設定。
「宮澤、今度の同窓会どうする?」
昼休憩。並んで弁当を食べていた広瀬に突然を振られ、美郷は「へっ?」と間抜けな声を出した。
「ああ、そか、俺からグループ招待しないとお前他にルートがないよな。今招待送るわ」
言って、箸をくわえた広瀬がスマホを操作すると、美郷のスマホにSNSの通知がピコンと鳴った。
「全クラス合同の同窓会なんだ……」
「行くだろ?」
至極当たり前のように言う広瀬に、美郷は「いいや」と首を振る。
「遠慮しとくよ。色々顔出しづらいし……」
「けど寺っちも来るみたいだぜ? お前、先生と仲良かったじゃん」
寺っちとは美郷や広瀬のクラスの担任だった国語教師だ。実は鳴神家と縁のある人物で、最終的に志望校を突然変更して家を飛び出した美郷の、大学入学手続きの面倒を見てくれたのも彼である。
「そうだけど、先生とは一応年賀状でやりとりもしてるし。この髪型をクラスの連中に説明するの面倒過ぎる」
「いいじゃん、他の奴もきっと変わってるって。それに、今逃したらどんどん人集まんなくなるし、自分も行き辛くなると思うぞ? 社会人五年目までだって言うらしいぞ、マトモに集まれんのは」
「五年目? なんで?」
「みんな結婚して子供できたりしたらまず女子が来なくなる」
「うわぁ……」
「というわけで、参加な」
「人の意向無視しないでくれる!?」
結局、なんやかんやと文句を言いながらも、広瀬の押しの強さに負けた美郷は同窓会に参加することになった。
「けどさ、やっぱ説明し辛いよ……公務員でこの髪型は」
「いっそ、就職先言いふらさなくてもいいんじゃないか?」
ぐずぐずと悩む美郷に、何でもないことのように広瀬が言う。「それでも、」と美郷が反論しかけた時に、ガラリと事務室のオンボロ引戸が開いた。
「ちわーっす」
軽い挨拶と共に入って来たのは、美郷の大家だ。丁度いい、とそれに広瀬が呟いた。意図を計りかねて美郷は首を傾げる。
午後一番で、怜路を交えた週例ミーティングだ。休憩時間の終わる五分前に顔を出した怜路は、我が物顔で空きデスクに陣取る。ほぼほぼそこは、怜路の専用デスクになっていた。
美郷や広瀬と挨拶を交わし、事務椅子に座った怜路がスマホをいじり始める。そこへ、立ち上がった広瀬が寄って声を掛けた。
「怜路、今度高校の同窓会があるんだが、宮澤が髪型が浮くって行くのゴネてるんだ。こいつは俺の私見なんだが、宮澤の髪型が悪目立ちするのって、なまじ服装の方がカタ過ぎるせいじゃないかと思うんだがどうだ?」
スマホから顔を上げた怜路がまず胡乱げな顔で広瀬を見上げ、次いではす向かいの美郷の顔をとっくりと見た。
「イヤ、そう言う問題では……」
どんな格好をしていようと、男のロン毛はどうやったって目立つ。確かに公務員と名乗らなければ、どこかに長髪でもアリな職業は存在するだろうが、今度は一体ナニをしている人間だと思われるか分かったものではない。
美郷と視線を合わせ、怜路がニヤリと音のしそうなほど見事に口の端を吊り上げた。嫌な予感に美郷は固まる。
「イイ目の付け所じゃねーの広瀬ェ。つまりアレだろ、俺がコーディネートしてやればいいんだな?」
目も口も三日月型に歪めた、実に愉快そうな顔で怜路がのたまう。まあな、とそれに広瀬が頷いた。
「ちょ、待って待って! というか広瀬は怜路のファッションセンスなんてアテにしていいのか!?」
この二人、服の趣味は合わないのではなかったか。思わず立ち上がった美郷が悲鳴半ばに言ったところで、午後始業のチャイムが鳴った。
2.
「結局なァ、このワイシャツスラックスのモッサリシルエットが駄目なんだと思うワケよ。特に白系ワイシャツ。いかにも『ビジネスマン』っぽい格好に髪型が合ってねーのが最大の問題だろ? もうちょいこう、スラッと細い感じを強調してだな、派手目のモンにすりゃあ……」
「やめて! 堅気じゃなくなる!!」
終業後、いつもの居酒屋でバンダナにエプロンの大家が鉄板越しに美郷を眺めて考察する。隣では広瀬が日本酒片手にウンウン頷いていた。
「じゃあ紺とか黒とかのシャツか?」
「それだとちょっとホスト臭くなり過ぎンだろ。綺麗めの紺色のハイネックニットとか下もスキニー系にしてほっそり感全面に出してよォ。チャコールとかのスキニージーンズでいいか。で、ジャケットだけちょっと派手めにする」
すらすらとコーディネートを考えていく怜路に、広瀬が「おお」と感嘆の声を上げる。
「やっぱお前、普段のカッコの趣味はアレだが、服好きなのな」
「そうよー、その隣に座ってる素材の無駄遣いとはちげーの。型落ちユニク〇漁りしてとりあえず襟ついたシャツ着てればいいかとか思ってる奴とはちげーの!」
酷い言われようである。が、事実なので何も言い返せない。財政状況的に仕方ないとはいえ、美郷の服装にかける費用は最低限ギリギリだ。
「で、派手目のジャケットってどんなだ?」
「テーラードだな。質感高級そうなやつにして、色は白から銀っぽい薄い灰色とかか。テカテカし過ぎっとまた胡散臭くなりすぎるだろうが、コイツくらい顔が整ってりゃある程度派手な方がイイはずだ。髪だけ目立たねえように全体を目立たせる。靴も革で……」
傍らを過ぎる会話を他人事のように聞きながら、美郷は現実逃避に揚げ出し豆腐を咀嚼する。
「だよなあ、美形前面出しにするのが俺もいいと思う。けどそれだけじゃちょっとモノトーン過ぎないか? まあ上の色次第かもしれんが」
「シャツならネクタイで差し色できるがな。まあ、実際に見繕ってからだ」
「じゃあ、週末に試着しながらだな。市内まで出るか」
「……待って待って。一体何に乗り気になってるのお前たち。そんな趣味ありましたっけ? 急に何に目覚めたの??」
美郷にとって、継続的に付き合いのある「友人」は現在この二人だけだ。これまでの半生を顧みても、この二人以上に親しくなった相手はおそらく居ない。その友人二人のご乱心としか思えない話の流れに、美郷は既に目を回していた。――容姿やファッションについて、他人とどうこう言い合った経験など今まで無いのだ。それなのに、たった今美郷はなにやらサラっと美形扱いされた気がする。
自分から口に出すのすら憚られるため確認もできない恐ろしさに震えながら、美郷は勝手に週末の予定を立て始めた友人二人を交互に見た。
「目覚めたも何も……まあ、いい機会なんじゃないか? お前、その髪型がちゃんと似合う顔してんだから、ぐずぐずコンプレックスっぽいこと言ってんなよ」
「広瀬っち分かってるゥ。一周回って面倒臭ェからさっさと開き直れって思うよなァ」
まっすぐ美郷の顔を見た広瀬が、真面目に諭してきた。が、その顔は微妙に赤く既に酔っていることが窺える。楽しそうに尻馬に乗っかる怜路は通常営業だ。しかし。
「……えっ、二人ともそんな風に思ってたの……?」
二人の言葉に美郷はショックを受けた。面倒臭いと思われていたのか。それがもろに表情に出ていたらしく、美郷の顔を見て一旦停止した怜路と広瀬が顔を見合わせた。怜路ががりがりと頭を掻いて、溜息を吐く。
「あーーー、そうじゃなくてだな。勿体ねえっつってんの! いいから日曜な!!」
「前にも言ったと思うけど、宮澤お前、キリッとした顔してればナンボでもチヤホヤして貰えると思うぞ?」
真顔でのたまうのは広瀬だ。酔っ払いの戯言と分かっていても、どう反応してよいか分からない。フリーズした美郷を置いて、その日の作戦会議はお開きになった。
3.
日曜日のショッピング大会は本当に決行され、美郷は広島市内の今まで一度も足を踏み入れたことの無いような百貨店のメンズコーナーを連れ回された。値札を見たのは最初の一枚だけである。普段の服とマルの数がひとつ違った。あとは恐ろしくて見ていない。
「お前ら……こんな店入れるんだ」
なんとなく、差を見せつけられた気がして落ち込む美郷を、適当にいなして二人はコーディネートを決めていく。
「んー……やっぱちょっと差し色が欲しいな」
「ポケットチーフはいかがですか?」
顎に手を当てて唸った広瀬に、傍らから店員が提案した。何枚か差し出されたポケットチーフを広瀬と怜路が見比べる。
「……やっぱ赤かな」
「だな、出来れば紅色系だな」
ちなみに、ジャケットを決める時も「銀色にも見えそうな限りなく白に近いシルクのライトグレー」などとこだわっていた辺り、どうやらコンセプトは白太さんらしい。曰く、「隠すな! 魅せろ!」だそうだ。
あれやこれやと見比べて、結局真っ赤よりは少し紫がかって落ち着いた色味のポケットチーフが選ばれた。なお、美郷の意見は一切聞かれていない。
「よーし、あとは靴とォ……」
「く、靴は流石に」
「何言ってんだ、足元は大事だぞ」
「いやそうかもしれないけどコレ財源どこ!?」
「家賃に上乗せ」
無理だ。既に恐らく支払われた諭吉の数は十を超えている。真っ青になった美郷を引きずって、更にあれやこれやと靴を履かせた二人からようやく解放されたのは、もう冬の日が山の向こうに隠れてからだった。
「よしよし、これで多少見れるようになったな!」
「なあ怜路。思うんだが……このヘアゴムはどうにかならないか?」
言って指差されたのは、美郷の尻尾を作っている何の変哲もない紺のヘアゴムである。
「あー、流石に男物の髪飾りなんざ売ってねえだろうけど言いたいことは分かる。下緒か何か買って結ぶんがいいんじゃねえか」
下緒とは、日本刀の鞘に結ぶ組紐のことだ。
「これはネット通販だな。まあ、帰って見繕ってみるわ」
「あの、流石にそれは中二臭さ過ぎて無理……」
息も絶え絶えに止めにかかった美郷の言葉が受け入れられたか否かは、また後日の話である。
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