八雲神社(二)



「いーち、にーい、さーん、――……もういいかい?」


「まーだだよー」


 幼い声が、遠くで返す。二人で隠れんぼをするときは、必ず年長の自分が「鬼」だった。


「……――じゅうはち、じゅーきゅー、にーじゅう! もーいいかーい?」


 うふふ、きゃはは、と遠く漏れ聞こえるはしゃぎ声。弟は決して、見つからないような場所には隠れない。いつでも美郷が見つけるのを待っている。


「――まーだだよォ……」


 声が遠ざかる。気付けば、隠れんぼの舞台はいつもの座敷ではなく、山の中だった。木の幹に伏せていた顔を上げれば、粗末な継ぎ当てだらけの着物の袖と、くたびれた草履の爪先が映る。


 背後を振り返る。広がるのは冬枯れた山の落ち葉に埋め尽くされた地面と、灰色の木々の枝ばかりだ。


「――?」


 かつき、と呼ぼうとして、誰か全く別の名を呼んだ。


(どうして)


 疑問が二重にぶれる。


 どうして――は、自分を置いて行った?


(ずっと、お前のために心を砕いて来たのに。ずっと、お前は慕ってくれていたのに)


 ――のために我慢して、――の遊び相手をして、ずっとずっと可愛がってきたのだから。


『だから、お前は。一生……私のもののはずなのに』


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